ABEMA『声優と夜あそび』が8月20日より、『5周年記念 声優と夜あそび 28時間テレビ大感謝祭~Say You Thank You~』を無料生放送する。声優がMCを務める夜の生放送帯番組という独自のスタンスで人気を集め、関智一木村昴下野紘内田真礼浪川大輔など、地上波でも活躍する人気声優を何人も輩出、今年4月から5年目に入った。声優業界初の試みだっただけに、当初は困難を極めたと言う。番組をここまで育てて来た、プロデューサー・山崎健詞氏に『声優と夜あそび』のこれまでと、今後の展望など伺った。

【写真】最近では下野紘と内田真礼によるロケ番組もスタート

〈「声優業界内で『めちゃくちゃ負荷が高い仕事』と呼ばれているらしいです(笑)」〉

——2018年に始まったABEMA『声優と夜あそび』も、4月から5年目に突入しました。もともとはどういうきっかけで、声優をMCとして起用し、週を通しての帯番組を作ったのですか?

山崎健詞(以下、山崎):ABEMAは毎年4月の改変時期に周年イベントを開催しているのですが、ABEMA開局2周年の目玉として企画が立ち上がりました。開局当初はアニメを放送するチャンネルが5つあったのですが、周年のタイミングで1つのチャンネルを「アニメLIVEチャンネル」としてアニメにまつわる生放送を含めたチャンネルにリブランドすることになり、その結果として『声優と夜あそび』に発展しました。

——2018年当時、声優が出演する番組はBSでいくつか放送されていましたが、ネットではラジオ形式の番組がほとんどだったと思います。

山崎:当時ネットで観られるものとしては、ニコニコ生放送さんや文化放送さんのコンテンツが多かったので、顔出しをして毎日生放送するというのはかなりハードルが高かったですね。それに声優の番組としては最後発の部類に入るので、そこで中途半端なものを出してもインパクトが無いと思い、やるからには地上波のテレビ番組のクオリティを目指そうと。それは現在も意識していることです。でも、やっぱり最初は大変でした。声優さんには、ほかの番組では了承していただけないようなこともやっていただいているのですが、最初は僕らの中でも「どこまでお願いしてOKなんだろう?」というのが大きな懸念材料で、その都度探りながらやっていました。

——番組の内容について、声優さんにも意見を聞いたりされたのですか?

山崎:はい。だからこそ、番組スタート当初から出てくださっている関智一さんや浪川大輔さんをはじめ、出てくださっているみなさんと一緒に番組を作ってきた感覚があります。毎年改変の時期には、皆さんに「来年はこういうことをやろうと思うんですけど、どう思いますか?」とご相談させていただき、率直な意見を番組作りに活かしています。

——1年目でMCを担当された声優のみなさんは、最初に『声優と夜あそび』の企画を聞いて、どんな反応を示したのですか?

山崎:28時間テレビの中でも声が出るかもしれないのですが、「どうせすぐ終わるだろう」と思われていたみたいです(笑)。前例のなかった内容なだけに、面白がってくださりつつも、どちらかと言うと「大丈夫?」みたいな感じだったと思います。でも、初年度に緒方恵美さんを始め大御所の方にご協力いただけたことで、他の方の理解も得られるようになったのは確かです。

——初年度の人選や組み合わせは、どのように考えたのですか?

山崎:今シーズンは男性声優さんが多めですが、初年度は幅広い視聴者をターゲットにしたかったので、男女比を絞らずいろいろな性別・年代の方にお声がけをさせていただきました。ただ最初は皆さんにとっても得体の知れない番組だったと思うので、出ていただけるだけで感謝という気持ちでした。顔出しで毎週1時間半の生放送、しかも夜帯にですから、負荷が非常に高いので受けてくださるだけでありがたかったです。

——断られた方も?

山崎:もちろんいますし、今でも受けていただけることにまずは感謝しないといけないと思っています。出演者さんが冗談まじりでおっしゃっていたんですけど、声優業界でも「めちゃくちゃ負荷が高い仕事」と呼ばれているらしいです(笑)。ただ、「大変だけど反響がある」とも言ってくださっていて。「大変」という部分が、ご迷惑をかけているという意味合いだとしたら申し訳ないのですが、反響があるという部分では、ご出演いただいている皆さんのメリットになっていたらうれしいなと思いますね。普段はやらないような企画をぶつけることで、その方の新しい側面が見えたり、いい方向に働くことも多いのではないかと思っています。1~2年目は「出ない」と言っていた方が、その後にご出演してくださったこともあって、そういう時は「やり続けていて良かった」と思いました。何かの作品宣伝をきっかけに出演してくださった方が、それ以降も出てくださるようになったり。声優業界だけでなくアニメを製作するメーカーさんの間にも浸透してきていて、そういう方面からお声がけもいただけるようになりました。

——声優業界に『夜あそび』というブランドが、認知されてきたと。

山崎:少しずつですけど。スポンサーさんからの引き合いも結構増えてきているので、ビジネスの面でも、価値があると思ってもらえる番組にしていけたらと思っています。

——番組を拝見すると、みなさんが面白がってやっている雰囲気は画面からも伝わってきます。

山崎:ありがとうございます。それが割と持ち味になっていると感じていて。比較的自由度が高くご本人の意見もうかがいながら作っていますので、「自分たちの番組」と思ってくださっている方が多いのもうれしいです。なので声優さん側から、「この人をゲストに呼びたい」とか「こういう企画をやりたい」など、積極的にアイデアを提案していただくことも多いです。単に仕事を受ける側とお願いする側で終わらない、一緒に作っている感が、声優の皆さんのノリや楽しさに表れているのかなと思いますね。

——声優さんからの提案で実際にやった企画やコーナーで、反響が大きかったものは?

山崎:たくさんありますが象徴的なのは、2nd seasonのヒーローショーなんかもそうですね。関智一さんが特撮がお好きで、2年目に後楽園ホールを借りてヒーローショーをやって、その模様をイベント化しつつ、無料放送したんですけど、特撮がお好きな方にとても好評でした。あと、今年から放送しているロケ番組の『声優と夜あそび ウォーカーズ』は、2019年から昨年までMCを努めてくださっていた、下野紘さんと内田真礼さんから「ロケをやりたい」というご要望があって、それを実現した形になりますね。

——声優さんならではの企画もあって、低い声の男性声優を集めた「低音三銃士」なども面白かったです。

山崎:「低音三銃士」は、2nd Seasonですね。声優さんによる分析とか考察回も人気が高いですね。これまでだと、声優をスポーツチームに例えたのも好評でしたし、ボードを使って声優を分類したりとか、そういった企画は視聴者さんからすごく好評です。「○○さんはここでしょ」とか「○○さんそうなんだ」などコメントをもらって、裏話や関係性が引き出される企画をやった時はコメント欄やSNSが非常に盛り上がります。

——ダミーヘッドマイクダミヘ)を使った企画も声優さんならではかと。

山崎:あれは割と初期から使っています。声優番組すぎないバラエティ企画を意識してスタッフ一同作ってるのですが、同時に声優さんのスキルや経験が生きる要素も入れたいと思っていて、ダミヘを使ったコーナーは、声優のバラエティという部分で絶妙なラインだと思っています。その後ASMRが流行ったので、「ASMRを流行らせたのはウチです!」と言いたいくらいですが(笑)。実際にウチほどダミヘをあんなに使っている番組はないのではないかと思います。

〈生放送で同じ時間を過ごしている感覚を大事にしています〉

——ここからは現在の『声優と夜あそび』のMC陣の魅力についても聞かせてください。まずは月曜の安元洋貴さん×岡本信彦さん。

山崎:安元さんは4年目になります。安元さんは兄貴肌なので、いろんなゲストを受け入れて伸び伸びやっていただけているような気がします。今年から岡本さんが新しい風を吹かせてくれていて、岡本さんを暴くと言うとアレですけど、いろいろな表情を引き出せるように頑張っています。

——火曜日は、たかはし智秋さん×上坂すみれさん。たかはしさんのインパクトがすごいですけど、どういう流れで出ていただくことになったのですか?

山崎:たかはしさんは、これまでのシーズンもゲストであったり、昨年のイベントにも出演してくださっていて、番組として何度かお仕事をさせていただいていました。そんな中で上坂さんと「来年番組をどうしていきたいか、誰と一緒にやってみたいか」という話をしていた時に、たかはしさんのお名前が挙がったこともあり、ご縁があって出ていただけることになりました。いまは上坂さんが舞台中なので、代理MCでいろんな方が来てくださっていますが、そこでもたかはしさんのスキルと人望が存分に発揮されていて、それも魅力になっています。

——水曜日は、森久保祥太郎さん×蒼井翔太さん。

山崎:蒼井さんは、「パジャマ会議」という特番ではお世話になっていたのですが、こういったバラエティにレギュラーで出ていただけると思っていなかった部分もあったので、出ていただけて非常にありがたいです。毎週個性を存分に発揮されている蒼井さん、それを兄貴のような眼差しで見守る森久保さん。これまたお二人の新しい一面が観られる曜日になっています。

——次に木曜日は、1年目から出ている浪川大輔さん×細谷佳正さん。細谷佳正さんも意外性がありました。

山崎:情報解禁した時の反響は一番大きかったかもしれないです。正直難しいかなと思いつつもオファーをさせていただいたのですが、ご縁があって出ていただけることになり、結果として視聴者の方にとってもサプライズ的なものになったと思います。細谷さんはご自身の明確なキャラクターを持たれている方で、面白い話もたくさん持っていて。浪川さんも5年目になりますが、どんな企画をやっても面白くしてくださる方で、間違いない二人です。

——そして金曜日が、関智一さん×仲村宗悟さん。

山崎:関さんの相方は毎年変わっており、毎年関さんが相方の魅力を引き出している曜日です。そこにこれまで安元さんや森久保さんなど先輩と組んでこられた仲村さんがタッグを組んだ形です。昨年は週末生放送の枠を担当いただいていた仲村さんですが、平日に戻ってきていただけました。

——関さんは、いまや地上波でも活躍されていて。

山崎:本当にすごいですよね。過去にペアでMCをやられていた木村昴さんも、どんどんテレビで人気になっていって、最近だと浪川さんもよく出ていらっしゃいますよね。「うちの番組が見いだした!」とまで言うのは大変おこがましいのですが(笑)、そもそもみなさんラジオもやられていたりして、しゃべりが上手でタレント性が高い方だった、ということが大前提ですけど、番組が毎週なので自然としゃべることに慣れていってくださった部分もあったり、地上波スタッフたちがうちの番組を見て声をかけていたり、みたいなこともあるので、そのようなことはどんどん増えていってくれると嬉しいなと思います。

——毎日生放送という部分に対しては、どんなこだわりを持っていますか?

山崎:視聴者さんとコミュニケーションを取ったり、反響を番組企画に落とし込んだりしているので、生放送のほうが正直やりやすいのかなと思います。それにアニメや声優さんにまつわる情報を出した時に、「瞬間最大風速」が出やすいのもあります。制作側としては、生放送でやれていることで非常に助かっていますね。

——いまはアニメを観る時も、出演声優や視聴者がSNSで感想を言い合いながら観るのも主流になっていますし、リアタイ感は必要不可欠ということでしょうか。

山崎:そうですね。見逃しても後で観られるんですけど、生で一緒に楽しむほうがより楽しい感じはしますね。「夜あそびしようぜ!」という言葉で番組がスタートしますし、同じ時間を過ごしている感覚を大事にしています。

——また兄弟番組も増えていて、月~金のレギュラー放送の他に、金田朋子さんと石川界人さんの『声優と夜あそび 繋(コネクト)』、現在はMCがシャッフルで毎週変わる『声優と夜あそび WEEKEND』、下野紘さんと内田真礼さんの『声優と夜あそび ウォーカーズ』など。どういうきっかけで増えていったのですか?

山崎:『夜あそび』を太く育てたいと思ったのがきっかけで、『ウォーカーズ』『繋』『WEEKEND』は、平日生放送と同じレギュラー枠のひとつという位置づけです。毎年何かサプライズを作りたいと思っていて、3年目のサプライズとして2020年4月にスタートしたのが『繫』です。月金でやっているので、じゃあ土日もやりましょうとなるのが普通ですが、いろいろ考えた結果『夜あそび』と同じく毎日観られる番組にしたら面白いんじゃないかと。週イチで5本撮りさせていただいていますが、金田さんは本当にパワフルな方なので、いつもこちらが元気をいただいています。

——『ウォーカーズ』は、先ほど下野さんと内田さんからのアイデアだったと。

山崎:はい。でも、「ロケに行きたいとは言ったけど、毎回ロケとまでは言っていない」と、オンエア内でもおっしゃっていました。極端な提案ですみません(笑)。あと、昨年放送した『ザ・セッション from 声優と夜あそび』という番組もあって、それは森久保祥太郎さんのアーティスト活動20周年のタイミングを盛り上げたいというレーベルさんからの話もあってできたもので、これは『夜あそび』というブランド下にある派生番組という考え方です。

——今後も『○○ from 声優と夜あそび』というスタンスの番組も?

山崎:7月の『ワンダーフェスティバル』で、安元さんと徳井青空さんでステージをやらせていていただいた中で発表したんですけど、9月から月イチのペースで『フィギュアステーション from 声優と夜あそび』をやります。今後も各声優さんのご要望や趣味などに合わせて、いろいろやっていけたらと思っているので、楽しみにしてください!

〈『笑っていいとも!』のように習慣化して自然に観てしまう番組になれたら〉

——番組は5年目ですが、ピンチだった時やターニングポイントになったことなどはありますか?

山崎:ピンチというわけではありませんけど、この約5年で印象深いのは、3年目がスタートした2020年の4月で、ちょうどコロナ感染が爆発したタイミングの時のことです。世の中的にも何を是として番組を作ればいいかわからない状態でした。番組としても会社としても放送をやめるのではなく、リモートならではの面白い企画をしっかり考えようというスタンスになったのですが、エンタメの存在意義を問われた時期でもあったので、内容については本当に深くいろいろ考えましたね。声優さんからもたくさんアイデアをいただいたので、本当に一緒に乗り越えてくださった感覚が非常にあります。

——この約5年で、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』など国民的アニメも生まれ、声優の活動により注目が集まるようになりましたが、そういったものからの影響もありましたか?

山崎:たしかに世の中的に声優さんが地上波の番組にたくさん出られるようになって、下野さんは連日「からあげ好き声優」という二つ名を与えられて話題になってましたよね(笑)。しかしそういう地上波の声優さんに対する扱いと、我々『声優と夜あそび』では考え方が根本的に違っている気もします。声優さんが地上波の番組に出るようになったことで希少性は相対的には薄れた分、軸足をブラさずに、企画で勝負。声優さんにもできる限り寄り添って、ご本人が表現したいと思っていることも大切に番組を作っていきたいと思っています

——印象に残っている回、一番バズった回はや企画はありますか?

山崎:近いところで言うと、今年の3月に『新MC発表スペシャル』として特番を放送した時は、いろんな媒体さんが張り付いて観てくださって、発表するそばからどんどんニュースになっていったのは担当としてはすごくうれしかったです。「こんなに媒体さんがニュースにしてくれるようになったのか!」と、感慨深かったですね。

——今後やりたい企画はありますか?

山崎:コロナが落ち着いたら有観客での番組展開、お客さんを入れた公開生放送みたいなことはどんどんやりたいですね。あとは、海外のイベントにも出ていきたいです。

——海外の方でも視聴できるんですか?

山崎:ローカライズされているわけではないですけど、頑張って日本語を勉強しながら観てくださっている方もいるようです。今後5年、10年と続けていく中で、『夜あそび』を観て日本語を学んだという方や、『夜あそび』で声優を知って自分も声優になりましたという方が、出てきてくれたらうれしいですね。ABEMAの中でも長寿番組の部類になって来ていますので、ABEMAを代表する番組の一つとして長く続けていきたいです。

——月金の帯で長寿番組では『笑っていいとも!』が有名ですが、声優界の『笑っていいとも!』を目指すのでしょうか?

山崎:たしかに『笑っていいとも!』を引き合いに出していただくことは多いのですが、正直ベンチマークとなるような番組が最初に明確だったわけではないので、業界初の新しいことを常にやっている感覚です。でも、『笑っていいとも!』のように習慣化して、みんなが夜になると自然につけているみたいな番組になったらいいなと思いますね。そうなったらもちろんギネス記録とかも考えられるわけで。今後にも期待していてほしいです!

——また8月20日18時より、『5周年記念 声優と夜あそび 28時間テレビ大感謝祭~Say You Thank You~』が開催されます。この大型企画はどのようにして立ち上がったのでしょう。

山崎:最初は24時間の予定だったんですけどね(笑)。でも、夏と言えば24時間とか27時間を打ち出した有名な番組が他局にあるので、横並びにした時に一番長くしたいということで28時間に。壮大過ぎて出演協力に回るのも結構大変ですが、それも含めて当日がめちゃくちゃ楽しみです。コンセプトは「5年続けられたことへの感謝」で、声優さんへの感謝はもちろん、視聴者さんへの感謝、個人的には1年目からチームで頑張っているスタッフに対しても特にそうだと思っていて。このチームだからできている番組だと思っているので、この際、みんながやりたいことを全部やれたらいいなと考えています。

——誰かが走ったりするのでしょうか?

山崎:マラソンではありませんけど、金田朋子さんが所持金5,555円で乗り物を使ったり走ったりヒッチハイクなどをしながら555キロ離れたところからスタジオまで辿り着けるか、という企画をやります。夜あそびらしく、少しヒネって遊んで、こういう形になりました。最後は金田さんが走ってゴールのタイミングで、感動して泣く感じには……おそらくならないと思います(笑)。いや、なるのかな。ちょっと未知数です。でもゴールできるか、もっと早くゴールするんじゃないかなど、なにもかもが予想できません。でも楽しくて画期的な番組にはなると思うので、ぜひたくさんの方に観ていただきたいです!『声優と夜あそび』を観たことがある人もない人も、おかしなことをやってるなあと覗いていただけたら嬉しいです。(取材・文=榑林 史章)

「声優と夜あそび」(画像提供=ABEMA)