多くの人にとって「人生でもっとも高額な買い物」となるマイホームですが、きちんと計画を立てなければ購入を機に人生を大きく狂わすことになりかねないと、FP Officeの西田順子氏はいいます。念願のマイホームを購入したものの、ある理由で住宅ローン返済に苦しむ3組の夫婦の事例から、「念願のマイホーム」を手に入れる際に注意すべきポイントをみていきましょう。

事例1.子どもにかかるお金の見込みが甘いA夫妻

社宅住まいで、ご主人の手取り額32万円のAさん夫妻。妻は出産を機に退社し、「将来的には収入も上がるだろうし、妻も子どもが大きくなればパート勤めができる」との見込みで、それまで毎月貯蓄していた10万円分をそのままローンに回す形で、念願のマイホームを購入しました。

その後、下の子も生まれ、妻は住宅を購入してから5年経ってパート勤めを開始。しかし子どもが生まれたことで生活費は増えた一方、夫の年収は想定よりも上がらず、お金が貯まらないまま子どもにかかる教育資金や住宅ローンの出費に苦しんでいるとのことでした。

お子さんのいらっしゃる家庭であれば、子どもが大きくなるにつれて生活費も増えていく方がほとんどです。筆者がライフプランニングを作成する際には、最低でもお子さんが小学校に上がるタイミングで「3万円~5万円」の生活費上昇を見込んで試算していくことをおすすめしています。

教育資金については、「いつ・いくらかかるか」をある程度想定し、お子さんが産まれたタイミングから、すなわち少しでも早い段階で逆算して準備していくことが必要となります。

比較的多くの方が見過ごしがちなのが、「塾代」です。大学進学のための塾代は、受験学年の高3になると大学1年間の学費よりも高いことが普通です

大学進学後は奨学金を想定しているご家庭であっても、「学費+塾代」まで考えてきちんと準備をしておかないと、高額な教育費と住宅ローン返済のダブルパンチで「もう、ムリ」となりかねません。

事例2.「ボーナス返済額」を頼りにしていたB夫妻

社内結婚で共働き、世帯年収が950万円のBさん夫妻。年2回のボーナスがある程度見込めるために、月々の返済は小さめにボーナス時の返済額を大きくしていました。

しかしその後会社の業績が悪化し、ボーナスがかなり減額されてしまうこととなりました。毎月のお給料からローン返済だけでなく、ボーナス返済分の積み立てもしなければ返済ができないことに……B夫妻は購入した不動産の売却等を検討しているとのことでした。

公務員など金額がある程度確定している方を除き、住宅ローンのボーナス返済は、業績など不確定要素も多いためあまりおすすめしません。ボーナス払いにたよることはなるべく避け、月々の収入で返済できるようにしておくことがポイントです。

事例3.43歳で結婚、勧められるがままローンを組んだC夫妻

昨今の晩婚化により、40代での結婚は特段めずらしいことではなくなりました。しかし、40代で結婚し住宅ローンを組む際には、「返済年数」に注意が必要です。

住宅を購入してもらう側(ハウスメーカー等)は、なるべく多額のローンを無理ない返済額で返せるよう、最長の「35年」でローンを勧めることが多いです。

43歳で結婚して住宅を購入したCさん夫妻ですが、43歳で35年ローンを組むと最終返済は80歳前。65歳の定年時には、まだ「2000万円弱」の残債が残ることになってしまいます。

年金暮らしのなかローンを返済するのは現実的ではありませんし、定年時の退職金でローンを繰り上げ完済したとしても、老後の蓄えがなくなってしまいます。現役のうちに返済できるのが理想的ですが、特段の事情がなければ少なくとも定年時の残債が「1,000万円以下」になるよう設定するのが現実的です。

まとめ

以上3つの例をお話しさせていただきましたが、共通するのは「本当に困ったあとで相談に来ていただいても、FPとしてできることは非常に限られている」ということです。

住宅ローンの適正額は世帯収入の30%以下が理想という話もありますが、お子さんの人数や生活費の使い方・ご夫婦の年齢や働き方により一概にはいえません。

住宅購入の前にはまず詳細なライフプランニングを作成し、将来的にも問題のない金額でローン額を設定することが、幸せな人生設計のための必須条件でしょう。

西田 順子

FP Office

ファイナンシャルプランナー