大切なのは、何事も柔軟に受け流せる、しなやかなメンタルを持つことです。ストレスをうまく受け流し、解消するコツを身につけることで、ストレス耐性の高いメンタルを作ることが必要です。どのようにすればいいのでしょうか。産業医の井上智介氏が著書『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。
「思考の癖」を直すとラクになる
■メタ認知で考えや思考の癖をなおす
自信が持てない、落ち込みやすい、すぐ心配になるといった方にチェックしていただきたいのは、
「その不安や自己否定感は、あなたの思考の癖によって生み出されたものではありませんか?」
ということです。
人間の思考には、癖があります。
成功体験がたくさんある人は、新しいチャレンジをする時も「やってみよう」「今度もきっと大丈夫」と思えます。
しかしそうでない人は、何もしていないのに「どうせ自分にはできない」「やっぱり自分はダメなんだ」と自動的に負のループに入ってしまい、あたかもそれが事実のように認識してしまうのです。
実際に注意をされたわけでもないのに、「あの部長の機嫌が悪いのは私のせいかも」と思ったり、「取引先からメールの返信がないのは、提案内容がダメだったに違いない」とどんどん悪い方向に考えてしまうのは、あなたの思考の癖が原因かもしれません。
その思考の癖を意識して手放すことができれば、ぐっと生きやすくなるでしょう。そのために訓練していきたいのがメタ認知です。
メタ認知というのは俯瞰して自分を見ることです。幽体離脱のように、第三者の視点から自分を見ている状態をイメージすると分かりやすいと思います。
たとえば、上司に怒られている時、話を真剣に聞けば聞くほど落ち込んでしまいます。
ミスをしたなら、もちろん素直に反省・改善すべきところはあるでしょうが、一方的に怒鳴るような指導は指導とは言えません。
そんな時は相手の言葉を真に受けず、状況を実況してみてください。
「井上、怒られているな」 「△△課長、またものすごく怒ってるよ」 「でも××課長が言っていること、支離滅裂だな」
といったように一歩引いて状況を見ることができると、ダイレクトにダメージを受けずに済みます。
ミスをした時に重要なのは、落ち込むことではなく、適切に対処し、次回同じことを繰り返さないよう対策することです。
その場の空気に飲まれてパニックになってしまうと、自分のせいではないことまで自分の責任だと感じてしまったり、冷静な判断ができなくなってしまいます。
冷静さを失わないためにも、メタ認知で状況を客観的に見るトレーニングをしていきましょう。
メタ認知は、相手がいる場合だけではなく、自分の中で起こっていることにも使うことができます。
たとえば先ほど出てきたような、些細なことでとても落ち込んでしまうような場合には、
「ああー、自分はだめだ」
ではなく、
「井上は、今とても落ち込んでいますねぇ」
と、第三者になったつもりで主語を自分にして状況を説明すると、メタ認知のトレーニングになり、自分の思考の癖に気づくこともできますよ。
ストレス解消法を50個書いてリスト化
■ストレス耐性をUPする方法
ストレスというものは、残念ながら避けられません。
何をどうやっても、誰にでも降りかかります。
ストレスに負けないメンタルというと、頑丈な折れない木のようなメンタルを想像する方が多いのですが、ストレスに強いメンタルとは、「何が来ても倒れません」というものではありません。
「とにかく耐える!」というのでは、限界がきたらポッキリ折れてしまいます。
大切なのは、何事も柔軟に受け流せる、柳の木のようなしなやかなメンタルを持つこと。
ストレスをうまく受け流し、解消するコツを身につけることで、ストレス耐性の高いメンタルを作ることができるのです。
私が日々、クライアントさんのご相談に乗っていて実感するのは、職場の人間関係に悩む方々は「ストレスの解消方法を持っていない」方が多いということです。
そういう方たちに私たち精神科医がよく提案するのが、「ストレス解消法を100個ストックしましょう」という方法です。
100個だとかなり多いので、私の場合は50個でもいいですよ、とお伝えしています。
じっくり時間をかけていいので、ストレス解消法を50個書き出して、あなただけのストレス解消法リストを作ってみましょう。
もしあなたが餃子の王将が好きなら、
●王将の餃子を食べる ●王将のチャーハンを食べる
これで2つリストアップできます。
そのことを考えるだけで飛び跳ねるようなうれしさはないかもしれませんが、ちょっとウキウキする、これくらいのレベルでいいのです。
勤め先からの帰り道に王将があるなら、簡単に買いに行けますよね。
夜しか時間がとれない平日でも、さくっと実行できる小さな楽しみだからこそ、日々のストレス解消になるのです。
●お気に入りのバーやカフェに行く ●ジムで30分ヨガをする ●好きな作家の本を買う
など、「そんなことでいいの?」というようなことで大丈夫。
むしろ、ストレスを受けて元気がなくなっている時にやることなので、エネルギーがなくてもできることがベストです。
ストレス解消法を実行する
すぐに行動できるよう、「中華料理を食べる」ではなく、「王将の餃子を食べる」のように、身近でできることを、できるだけ細かく具体的に書き出しておくとさらにいいでしょう。
「エジプト旅行に行く」というのもいいのですが、なかなか簡単には実行できませんよね。
ストレスは時と場所を選ばずやってくるので、このリストにはできるだけ気軽にできることを入れていきましょう。
実行するハードルが高めなこと、平日にできないことは、50個とは別に週末や休暇用にリストアップしておくといいですね。
このようにリストを作っておくのには、実は大きな理由があります。
好きなこと、楽しいこと、やりたいことというのは、すっかり疲れてストレスにまみれている時には、思いつきません。
だからそうなる前に、自分の好きなこと、気分転換になることを書き出しておき、実際にストレスを感じたら実行するだけでいいようにしておく必要があるのです。
「今日は企画会議がある。プレゼンで緊張するからストレス満載だ」
と感じているなら、
「プレゼンが終わって、家に帰る時に王将で餃子を買って帰ろう」
と考えることで、それだけで少しストレスを緩和させられます。
そして無事プレゼンを終え、家で餃子を食べられたとしたら、プレゼンの結果はどうあれ、「自分で決めたことを実行できた!」と自分を褒めてあげてください。
自分をいたわるというのは、こういうことです。
めんどくさい人がまわりにいてもいなくても、ストレスは誰にでもあるものです。ストレスを感じても、その都度自分をいたわることで、次第にストレス耐性は上がっていきます。
我慢するばかりでなく、ストレスをうまく受け流して、健やかな毎日を送っていきましょう。
井上 智介 産業医 精神科医 健診医
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