2014年1月に病のため50歳の若さで急逝した、名古屋の劇作家で女優の瀬辺千尋。彼女が遺した戯曲の数々を、夫で演出家・演劇プロデューサーの加藤智宏が上演する「瀬辺千尋 短編戯曲集」其の三『お空の花壇 他二篇』が、2022年8月25日(木)~28日(日)の4日間に渡り、名古屋・大須の「七ツ寺共同スタジオ」で上演される。

十代の頃から演劇を始めた瀬辺は、〈SOAP Works〉や〈おじまるけ イ/ド(どぶんのい)〉などの演劇ユニットや、セクシーかつコミカルに歌って踊って芝居するレビューユニット〈爆乳シスターズ〉を主宰。自らも演者として出演すると共に、劇作家としても数々の戯曲を執筆し、前述のユニットや〈日本劇作家協会東海支部〉が2003年から長年に渡り開催している短編演劇のコンペティション【劇王】のために書いた、十数作の戯曲を遺している。

劇作家・女優として精力的に活動した故・瀬辺千尋。写真は〈爆乳シスターズ〉のコスチューム。多くの演劇人らも夜な夜な足を運んだ「bar Priscilla(バー プリシラ)」の店主としても親しまれた

劇作家・女優として精力的に活動した故・瀬辺千尋。写真は〈爆乳シスターズ〉のコスチューム。多くの演劇人らも夜な夜な足を運んだ「bar Priscilla(バー プリシラ)」の店主としても親しまれた

瀬辺の生前から、自身が主宰する〈perky pat presents〉の企画として「全戯曲を上演する」と約束していた加藤は、これまでも過去2回に渡って「瀬辺千尋 短編戯曲集」を上演。2015年の其の一『たみちゃんの西瓜 他二篇』は、“生き物の命”をテーマにした三作、2018年の其の二『うみべいきもの 他二篇』では、“ミステリー調”の三作を上演してきた。そして今回の其の三『お空の花壇 他二篇』は、加藤いわく「オイラには、よく分からない」三作で構成したという。

瀬辺千尋 短編戯曲集『はるさきの庭』出演者。左から・とおやま優子、森本涼平

瀬辺千尋 短編戯曲集『はるさきの庭』出演者。左から・とおやま優子、森本涼平

瀬辺千尋 短編戯曲集『西陽』出演者。左から・二宮信也、あさぎりまとい、古場ペンチ

瀬辺千尋 短編戯曲集『西陽』出演者。左から・二宮信也、あさぎりまとい、古場ペンチ

謎の保育施設と、そこに務める一癖も二癖もありそうな職員たちを描いた表題作『お空の花壇』ひとり暮らしの女の家を男が訪れ、久々に再会したらしき二人の接点が会話の端々から浮かび上がる『はるさきの庭』。絵描きの弟と、モデルを務める女、その画室へやって来て他愛もない話を始める正体不明の兄。三者の語らいの中、ゆっくりと時が過ぎてゆく『西陽』

「何度読んでも見えてこない。私にとって泥沼のような三作品は、瀬辺千尋のこころの深淵なのかもしれない」と、加藤がチラシに記したこの作品たちは、果たしてどのように舞台化されるのか。「短編戯曲集」としてはこれが最後になるという今回の上演について、プロデュース兼演出を手掛ける加藤智宏に話を聞いた。


── 瀬辺さんは短編戯曲をたくさん遺されていますが、【劇王】のために書いた作品(上演時間20分以内、役者3人以内、数分で舞台転換可能、という制約のもとに書かれた戯曲を上演)が多いということですよね。

そうだと思います。何本かは、これ上演したよね、っていうのを覚えているんですけど、僕も【劇王】を全部観ているわけではないので【劇王】で上演したのか〈SOAP Works〉で上演したのかわからないところではあるんですけど。パソコンのデータによると、今回の三作はだいたい2002年位の同じ時期に書かれたものですね。

── 上演の形式としては、これまでの「短編戯曲集」のように3作をそれぞれ単体で上演していく感じですか?

そうですね。そのブリッジで今回はラジオが入ります。

── 全編をラジオ番組が繋ぐ?

そうです。ただ背景でラジオ番組が流れている、という感じではあるんだけども、その中に今回のテーマみたいなものが潜んでいるというか。僕にとってはよくわからない、これは何ですかね? という三作だったのが稽古を進めていく間に、“きょうだい関係”であったり、この三作には共通のものがあるな、というのを俳優が見つけて。それで、ラジオ番組にはたいてい「今週のテーマ」というのがありますよね。その辺でちょっと、今回の全体テーマを匂わせようと。1本1本観ていくと共通事項には気づきにくいところがあるので、その辺りを少し印象づけるような形で進めていくと観ている方もなんとなく、ひとつまとまりのあるものとして見えてくる部分があるんじゃないかな、と思って。

『お空の花壇』稽古風景より

『お空の花壇』稽古風景より

── そうすると三作の出演者とは別に、ラジオDJの役割もあるわけですね。

それを俳優でラジオパーソナリティの、もりとみ舞さんにお願いしてます。

── そのラジオ番組が流れるブリッジ部分の台本は、加藤さんが執筆を?

キャストの皆さんにお便りを要請して、それを番組の中で読み上げてもらうという構成です。それぞれの作品に合わせたテーマを3つ用意して、キャストに書いてきてもらったお便りをもりとみに渡して、あとは番組作ってね、って丸投げ(笑)。本当にラジオが流れているようにスイッチをON/OFFするので、どこが流れるかわからないような感じになります。

── 架空のラジオ番組を1本作っておいて、スイッチのタイミングによってオンエアされる箇所とされない箇所があるということですね。

そうです。

『はるさきの庭』稽古風景より

『はるさきの庭』稽古風景より

── 1本のラジオ番組で全体を繋ぐという構成で、舞台美術としてはどのような感じになるんでしょう?

三作とも部屋の中という設定なんだけども、同じセットだと同じところですか? という風になっちゃうので、それをどう違う部屋にするか、美術スタッフと相談中です。

── 一作ごとに舞台転換をする感じに?

最初はそんなつもりじゃなかったんだけども、そうすることになりましたね。意外に小道具も多くなりました。

『西陽』稽古風景より

『西陽』稽古風景より

── いつもオリジナル楽曲を作られたりしていますが、音楽については?

今回は既成の曲を使います。「短編戯曲集」としては今回が最後だから、瀬辺が好きな曲をバン!とかけようかと。それで既成の曲を使う、ということになった時に、もう他のところも既成の曲で持っていこう、と。だったらそれを流すのに一番不自然にならないのは何だろうな? と考えた時にラジオかな、と思ったんです。

── 「短編戯曲集」としてはこれが最後ということですが、〈perky pat presents〉として未上演の瀬辺さんの作品は、あと何作あるのでしょうか?

短編が1本と、中編なのか長編なのか…が1本ですね。それも本当に1本として出来上がっているものなのかどうなのかまだわかりませんけど、この2本も何らかの形でいずれ上演しようと思っています。

perky pat presents 瀬辺千尋 短編戯曲集 其の三『お空の花壇 他二篇』チラシ表  写真/瀬辺千尋

perky pat presents 瀬辺千尋 短編戯曲集 其の三『お空の花壇 他二篇』チラシ表  写真/瀬辺千尋

取材・文=望月勝美