海外音楽情報専門Podcast『speakeasy podcast』とSPICEの連動インタビュー企画。第十回のゲストには、7月27日(月)にニューアルバム『Midnight Sun』をリリースした、Kenta Dedachiが登場。ナビゲーターの竹内琢也にとって、Kenta Dedachiにインタビューするのは3年ぶり。これまでの生活やニューアルバムについて話を訊いたSPICEでは、ポッドキャストのインタビューから抜粋して掲載。より詳しく内容を知りたい人は、Spotifyにて配信されている『speakeasy podcast』をチェックして欲しい。

いろいろあった3年間。ステイホーム、日本にいたからこそできたアルバム 

竹内琢也(MC):いろんなことがあった3年だったんじゃないかなと思いますが、いかがでしたか?

Kenta Dedachi:あっというまに過ぎちゃいましたね! まだ大学生なので、本当は今年の5月に卒業するはずだったんですけど、休学しているのでLAの大学で4年生ですね。今年の8月の終わりに戻って、残りの過程を終わらせてくる予定です。

竹内:アルバムのことはもちろんなのですが、歌詞がこの3年の生活とリンクしているなと思うので、どんな風に過ごされていたのかなというところからお伺いできたらと思い。

Kenta:やっぱり新型コロナウィルスの影響が大きかったですね。日本にいた2019年の終わりには、アルバムをリリースしたばかりでワンマンライブを東京と大阪で開催した、そのすぐ後にコロナ渦に。その頃、一度はアメリカに渡って授業を受けていたんですけど、急遽どうしても日本に帰ってこなければいけなくなりました。それから1年間ほどアメリカに戻れなかったのでZOOMで授業を受けていたんですけど、その時は3年生でまだたくさん単位を取らないといけなかったので時差がすごく大変でしたね。

竹内:日本時間で何時ぐらいの授業を受けていたんですか?

Kenta:夜中の2時から起きて受けてました。毎日、目にクマだらけですよ!(笑)。真夜中から授業を始めて、太陽が登って朝ごはんを食べ終わるぐらいの時間に授業が終わり、そこから1日を始めていたので、すでに結構疲れてるんですよね。そこから日本で仕事をしたりして、バランスがかなりおもしろかったですね。

竹内:前回インタビューした時は早く授業が終わった時は、部屋にこもって曲作りをしたり、仲間がいて曲を披露することがあったと仰っていたんですけど、そういうのはなくなってしまった?

Kenta:そうですね。友達はみんなLAにいるので、大学の仲間と音楽をつくる機会はなくなりましたね。逆に、非日常な生活から刺激を受けてできた曲もたくさんあります。ある意味で18歳までは両親のケアで育ってきて、アメリカにも行けて、すごくハッピーだったんですけど……友達にも会えなくなったり、ずっとステイホームで外にも出れなくなり。元々インドア派ですけど、ぜんぜん外に出なくなって気持ちがダウンになったんですよね。この時ほど落ち込んだことはなく、だからこそ新しい自分のダークサイドを見ることもできましたし、「Green Eyed Monster」とかそういった時期があったからこそ生まれた曲も。

竹内:アルバムを聴いていて、そのダークな感じはすごく伝わってきました。結構、タフな期間があったのかなと歌詞をみても感じたり。

Kenta:その面はありますね。

竹内:現在は、大学は休学されているんですよね。

Kenta:そうですね。本当なら友達と一緒に5月に卒業できたんですけど、やっぱりコロナも流行っているし、アメリカに戻るのが正解なのかを考えに考えて……日本で仕事しようかなと。

竹内:それは日本での音楽活動を優先したいということ?

Kenta:それもありましたね。最後の決断をする時に日本にいれば、いっぱい仕事もできますしね。今振り返ると、日本にいてよかったなと思うこともたくさんあります。

竹内:それはどういうところで?

Kenta:いろいろな人との出会いですかね。

竹内:制作的な出会い?

Kenta:そうですね。その出会いがあったからこそ、アルバムを完成できたと思います。

竹内:聴く音楽も変わったりしましたか?

Kenta:変わりましたね。前回のインタビューで話した、トム・ミッシュは今も好きですが、最近はもうちょっとポップな音楽を聴くことが多いかもしれないですね。今回のアルバムはいろいろなプロデューサーの人とつくったので、ポップな曲もあればグルーヴィーな曲もあるし、ダンスっぽいファンクな曲もあります。なので、いろんな音楽を聴いて、いろんな人とも出会って、いろいろな音楽がいいなと思った時期ですね。

竹内:ポップシンガーを聴いているというのは、最近はインスパイアされる部分が多い?

Kenta:普段流れてくる音楽もポップな曲が多いことがあるかもしれません。アメリカのラジオとかでもいまヒットしている同じ曲がずっと流れるんですよ。なので、自然にポップが入ってくる。自分もたくさんの人に聴いて楽しんでもらえるような曲を作りたいという想いがあるので、ポップにはどこかそういうエッセンスがあると思います。ポップを聴いて勉強したり、レファレンスすることが多いかもしれません。

「どん底にいるからこそ、上がっていける」

竹内:1曲目が「Midnight Sun」で、タイトルトラックタイトルになっていることからも大きな意味を持つと思うのですが、これはどういった意味が?

Kenta:これはアルバムを作っている途中で出てきたタイトルで、ある日、お風呂の中でこの言葉を思いついて、その日に思いついたメロディーをその時に自分で多重録音して。その日にはみんなに送ったぐらい、自分の中ですでに完成していた曲で。

竹内:元々、ゴスペルなどのバックボーンがありますよね。

Kenta:過去にも「I Can Only Imagine」というワーシップソングを日本語にカバーしたのもあるし、「Where We Started」はアカペラで始まるんですね。その感じがある意味、ホーリーな感じがするというか。それをこの「Midnight Sun」という言葉にも神秘的なものを感じたので、アカペラでやってみるといいかもと思い、声を多重録音して作りました。

竹内:「Midnight Sun」からの「New Beginning」という曲順にも、すごく意志を感じました。

Kenta:「New Beginning」もダークなところから、光が差すところに辿り着くまでを描いたストーリーなんですけど、この曲の中で<holy ground>という言葉が出てくるんです。これが結構、キーになる言葉で。<聖なる地>という意味なんですけど、パラダイスみたいなイメージが浮かぶけれど、この曲の中ではいちばん辛い時、いちばん痛みを感じている時とか自分が試されている時が<聖なる地>なんじゃないかなと。そこがあるからこそ、自分は成長できて、どん底にいるからこそ上がっていけるというメッセージを伝えたくて。

竹内:Strawberry Psycho」は、チャーリー・プースをすごく感じたんですけどリファレンスとか影響はありましたか?

Kenta:あの曲をつくったときは、プロデューサーのKOSEN さんとつくっていたんですけど、まさにプースとかデュア・リパとか、ダンサブルでちょっとファンキーなポップを聴いていて。

竹内:ポップだけどちょっとダークな面もあるというか。

Kenta:そうですね。そのダークなところをレファレンスでたくさん聴いていましたね。さすがですね!

竹内:最近だと、エド・シーランが「Bad Habits」を出したりとか。ポップスだけどダークな面を持った曲が出てきていますよね。

Kenta:まさにですね。エド・シーランが大好きで、彼がずっと超ラブソングだったりハッピーな曲をだしていたところで、ダークな「Bad Habits」を出した時、「こういうのもありだな」と思って。それで「Strawberry Psycho」から、ちょっとダークな歌詞を使ってみたりするようになったので、ちょっと刺激があったんですよね。

竹内:そうだったんですね! 最後の「Rewind」にも気になるフレーズがいくつか。<It's hard to beat the system>の<the system>とか。

Kenta:直訳すると<システムに打ち勝つのは大変だ>ということなんですけど。この曲はコロナ渦が起こる前に書いた曲なので、アルバムの中でも一番古くて。当時、やっぱり何か人生で難しいことが起こったり、前に進めないなと思った時に、聴いて励みになるような曲を作りたいなと思っていたんですね。つまづいた時、前に進めない時なんかに巻き戻しして、どうやって自分はここまでこれたのか。誰に助けられてここまで来れたのかを思い出して進んでいこうよと。前に進めない時とか、周りは前に進めとプッシュしてくるけど、こういったシステムに従っていくのは難しく感じるというか。

竹内:なにか特定のものを表したというよりも、抽象的な言語として。

Kenta:そうですね。生きてる中でシステムみたいなものがあると思うんですね。小さい頃は小学校にいって、卒業したら中学校に行って。エデュケーションをしっかりと受けて、仕事をしてという生きるシステムがあって。みんな通ると思うんですけど、やってく中でみんなひとりひとり違うから、どこかですごくつまづくことがあると思うんですよね。そういう時、システムを生きるのはむずかしいなと思う時があって、こういう言葉を使いました。

竹内:それは自分が今いる環境なのかもしれないし、今の世の中の流れなのかもしれないし。コロナの前に作った曲がこのアルバムの全体を締めるポジションにあって、それがそういう風に聞こえるのはなかなか面白いですよね。

Kenta:タイトルも「Rewind」なので、一番最初から聴いて最後のこの曲で巻き戻しして、「また最初から聴いてね」というのもあると思います!

取材=竹内琢也 文=大西健斗

Kenta Dedachi