筑波こどものこころクリニック院長/小児科医の鈴木直光氏は著書『新訂版 発達障がいに困っている人びと』のなかで、発達障がいとどのように向き合うべきかを記しています。発達障がいは治療ができない難病ではありません。本記事では、発達障がいを抱える子をはじめ、子どもへ「睡眠が与える影響」について解説していきます。

保育園児の5%「0時以降に入眠」…子どもの睡眠の実態

「あなたのお子さんは毎日何時に寝ますか?」「1日何時間テレビやゲームを見ていますか?」このようなアンケートを、栃木県の田沼町にあるすべての保育園児・小学生・中学生2285人を対象に2003年にとったことがあります。

それによると、22時以降に寝る子どもの割合は、保育園児75%、小学生64%、中学生97%と未就学児の割合が高くなっています。また年齢を問わず、80%前後の子どもたちが休日にテレビやゲームに2時間以上費やしています([図表1][図表2]参照)。

テレビやゲームの視聴時間が長いほど入眠時刻は遅延します。そして、驚くべきことは、入眠時刻が0時以降という回答が保育園児で実に5%も見られたことです。小学6年生の割合(8%)とほぼ同じです。これは非常に危険な状態なのです。

子どもは毎晩冬眠しているようなものなのです。夜間メラトニンが分泌され眠くなると、子どもの掌(てのひら)はポカポカと暖かくなります。

体熱を放出して体温を下げ入眠体制に入っているのです。テレビやゲームの光によってメラトニンが抑制されこのタイミング(21時頃)を逃すことで睡眠のリズムが乱れます。

まずは、睡眠が体にどのような影響を与えているのか見ていきましょう。睡眠には体が休んで脳が働いているREM(レム)睡眠と脳が休んでいても体は動いているNREM(ノンレム)睡眠があります。

ご存じの方も多いと思いますが、REM睡眠は主に夢を見ている時間帯、つまり朝方に多く見受けられます。一方NREM睡眠は、寝たあとすぐに訪れることが多いです。

NREM睡眠は体が起きていますので、寝返りをうつなど体を動かすことが多いです。お子さんが寝たあと、しばらくして様子を見に行くと、お子さんが布団を剥いで寝ていたという経験がある方も少なくないと思われます。それは、寝たあとすぐにNREM睡眠が訪れるからなのです。

「REM睡眠とNREM睡眠」周期的に訪れさせるには…

睡眠中は、このREM睡眠とNREM睡眠が周期的に現れます。簡単に2つの睡眠の役割を説明すれば、REM睡眠時に、記憶の固定や消去、学習や身体的な睡眠が行われ、NREM睡眠時に成長ホルモンの分泌や大脳の睡眠が行われます。

つまり、どちらも必要なものであり、この2つの睡眠が十分に行われなければならないのです。

夜更かしなどでこの睡眠のリズムが乱れます。NREM睡眠は、お子さんの睡眠時間の前半に、REM睡眠は後半に集中しています。そのため、夜更かしをすると、前半のNREM睡眠は確保できるのですが、REM睡眠が中途半端に終わってしまいます。

REM睡眠の役割が果たせないので、記憶の定着もしにくく、睡眠(冬眠)中に無理やり起こされるわけですから、朝は当然、低体温となり、身体的な準備ができないまま活動を強いられるため、やる気もでませんし、内臓を含む体のあらゆる器官にも負担がかかってしまいます。

また、体や脳が十分に休まらず時差ボケのような状態になりやすく、お子さんは衝動的な行動や攻撃的な行動が多くなります。特に発達障がいを抱えたお子さんは、ADHDの併存で衝動的な行動をしやすい傾向にあります。

睡眠のリズムが乱れることによってより一層、それらの問題行動を起こすことが増えてしまうのです。だからこそ、発達障がいのお子さんの場合は特に、睡眠に気を遣ってあげることが大切になります。

このREM睡眠とNREM睡眠が周期的に訪れるようにするためには、サーカディアリズムを守ることが大切です。サーカは「およそ」、ディアンは「1日」という意味のラテン語で、「概日リズム」という意味です。

サーカディアリズムとは「睡眠・覚醒リズム」のことです。このリズムに大きく関わってくるのが、メラトニンという催眠・生体リズムの調節作用のあるホルモンです。このホルモンは眠くなると、脳の松果体というところから分泌されます。睡魔の元となるホルモンです。

時差ボケを予防するのにパイロットやスチュワーデスなどは、メラトニンサプリメントを服用して時差を調節することがありますし、睡眠障がいの患者さんが服用することもあります。

朝起きた時に外の光を浴びることで、視交叉上核にある体内時計のスイッチがリセットされ、15時間後にはメラトニンにより睡魔が襲ってくるというリズムが我々人間には備わっています。

しかし、目に光が入ることでメラトニンは抑制されます。人間は光を浴びて睡魔から逃れているのです。夜、眠かったはずなのに、テレビを見ていたら眠れなくなるという経験は、テレビの光によって、メラトニンが抑制されるために起こるものなのです。

「夜の11時にコンビニに…」“夜型の子ども”誕生のワケ

エジソンの電気の発明に始まり、我々は科学技術の発達により24時間いつでも生活できるようになりました。社会が全体的に夜型になっており、夜の11時に親子連れがコンビニに買い物に来ている姿を見ても平気な世の中になっています。

そのため、お子さんの多くはサーカディアリズムが崩れており、REM睡眠とNREM睡眠が周期的に十分に訪れるような睡眠をとっていないのです。

昔は、夜の9時を過ぎると面白いテレビ番組もなくなり、子どもは寝るしかありませんでした。また、日中、外で思いきり遊び、夜はそのまま布団に「バタンキュー」となるような状況だったように思われます。

日中の活動性を高め太陽の光を浴び、夜は電気を消して早く寝るという昼夜の区別をきちんとつけたリズムが今の子どもたちには重要なのです。そのためには、親御さんの努力が必要です。

お子さんが、夜、一人で勝手に寝ることはほとんどありません。親御さんが寝るように促し、寝かしつけることでお子さんは眠るのです。だからこそ、親御さんがお子さんの睡眠時間をしっかりと守ってあげることが大切なのです。

お子さんを早く寝かせるコツは、時間を守ることを徹底させることです。まず朝早く起こし、ゴミ捨てなど家の手伝いをさせ、日中の活動を多くして、テレビやゲームは合計2時間以内にして、景色の良いところを散歩するなど日中の活動を増やします。最近は、この朝早く起こすことがゆるくなっています。

特に夏休みなどの長期休暇では、子どもが家にいるため母親はイライラしがちです。昼食も作らなければなりません。子どもがうるさいと、朝は寝かせておいた方が母親は楽なので、起こさない親も多くなっています。

そこで「時差ボケ」が生じてきます。もともと環境の変化に弱い自閉スペクトラム症の子どもたちが自ら睡眠環境を乱しているのです。つまり、長期休暇による時差ボケを予防するためには、初めからいつも通りに、まず朝早く起こすことが重要なのです。

「寝る前の読み聞かせ」はなぜ推奨される?

そして、夜は特にテレビなどを控え、寝る前は漫画でもいいのでなるべく本を読ませることです。テレビだと光が目に入りますが、本は光を発していないので、メラトニンへの影響はありません。

夜なかなか寝つけないお子さんには、ぜひ、絵本の読み聞かせを幼少期からしてあげましょう。お子さんの好きな内容の絵本から始めます。続きが気になって眠れなくなることもあるので、長編よりも短編の方が適しています。

電車が好きなら電車の絵本を毎晩読んであげてみてください。絵本を読みながら、ここは以前に行ったねとか、この電車は乗ったことがあるねとか、お子さんに話しかけてあげてください。私のクリニックでは長崎市にある、こどもの本の童話館グループ発行の小冊子「絵本のある子育て」を配布しています。

また、昔は、母親や祖母におんぶされながらよく子守唄を聞いたものです。自然と母親や祖母の背中の匂いやぬくもりを感じながら、子守唄のメロディに酔って自然と眠りについていました。そして、子守唄の振動が背中から子どもの体全体に共鳴して伝わってきました。

親子の安らぎのひと時が安心感を与え、お子さんをより良い睡眠に誘(いざな)うことでしょう。

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鈴木 直光

筑波こどものこころクリニック院長・小児科医 小児神経学会認定医博士(医学)

(※画像はイメージです/PIXTA)