(山田 珠世:中国・上海在住コラムニスト)

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 数カ月前のある週末、家族で外食しようと上海の自宅近くにあるショッピングモールに足を運んだときのこと。どのお店にしようかとモール内を歩いていたところ、福岡の豚骨ラーメン店「一蘭」ののれんが目に入った。「上海で、おまけにこんなに家の近くで『一蘭』が食べられるなんて!」とうれしくなり、入ってみることにした。

 店に入ってはみたものの、店員の反応がまったくない。客はまばらなので、忙しくはないはずだ。ところが家族で入り口に立っているのに、数分経っても店員は見向きもしない。「あれ?」というのが、最初に感じたことだった。

 夫が店の奥の方に向かって「すみませーん」と声を上げたものの、依然反応はなし。再度、「座ってもいいですかー?」と聞いて、勝手に着席することにした。あまり良い感じではない。

 着席しても店員は出てこない。結局、「やはりここで食べるのはやめよう」ということになり、失礼だとは知りつつも店を後にした。

 本当にあの店は一蘭なのだろうか? 気になって自宅に戻ってから調べてみると、一蘭のニセモノのようだということが分かった。本家の一蘭のサイトを見ても、中国本土で店舗展開しているという事実が見当たらなかったからだ。ロゴも微妙に異なる。やはりあのまま食事をしないでよかったと改めて思った。

 それでも、福岡出身の筆者としては、店の正体がずっと気になっていた。そこで今回、筆者ひとりで同店に再度出向き、ラーメンを試してみることにした。

「ラーメン&とんかつ」の定食を食べてみた

 平日夕方の早い時刻に行ったからか、店内に客はいない。中に入ると、今回は店員が1人、すぐに出てきて声をかけてくれた。「スマホでこちらのQRコードをスキャンすれば、ご注文いただけます」。丁寧な口調だ。

 スキャンすると、メニューが出てきた。豚骨ラーメンをはじめ、中国式にアレンジされたキノコ風味の豚骨ラーメンや、牛肉トマトラーメン、牛肉カレーラーメンなどのほか、カレーやとんかつジャージャー麺などもある。もちろん、替え玉もある。

「おすすめ」と表示されているのは「特色拉面(特製ラーメン)」の豚骨ラーメン36元(約720円)。本家「一蘭」より安めの価格設定だが、上海のラーメン価格としては高いほうだろう。

 定食メニューのなかに、豚骨ラーメンにプラス4元(約80円)でとんかつが付く定食があったので、それを頼んでみることにした。

 狭い店内を見わたしてみると、「博多一蘭のこだわり」という見出しに始まる「一蘭」の文化や特色について書かれた掲示板が掛けられている。それによると、同店「博多一蘭」は杭州の飲食チェーンが展開しているという。「安心、安全、健康」「中国進出以降」などという言葉も、知らない人が見れば本物らしく見える。

 前回は気づかなかったが、店の奥には本家「一蘭」ならではのカウンター席が設置してあった。席と席の間に可動式の衝立が備わっており、2人以上で来店した場合は、衝立を使わなくてもいいようにしてあるようだ。

お味のほうは?

 10分ほどすると、まず豚骨ラーメンが運ばれてきた。器には「博多一蘭」と書いてある。器の色や形も、本家「一蘭」とそっくりだ。

 若干黄色すぎる麺に豚骨スープ。ネギときくらげが入っている。唐辛子入りの「赤い秘伝のたれ」は別の小皿に入れてもらった。味は悪くない。さすがに本家のラーメンとは比較にならないが、一蘭のラーメンと思わなければ、受け入れられる味である。

 とんかつは、想像通りだった。中国式の薄いカツを揚げたもので、日本のとんかつかには程遠い。それでも、40元でラーメンととんかつが食べられれば、お腹は十分満たされる。

 筆者が食べている間に、配達員がデリバリー注文分を取りにきた。また、女性の2人連れが入ってきて、スマホで注文を始めた。

 上海市は今年(2022年)4月から、2カ月間にわたりロックダウンを実施しており、その間、飲食店はほぼ営業できていない。そのため、多くの飲食店が店をたたむことになった。にもかかわらず、この「博多一蘭」は生き残っている。

口コミサイトでも物議

 店内の紹介に書かれてある企業名で調べてみると、「博多一蘭」を運営するのは杭州市の企業。2017年3月の設立で、飲食業コンサルティングや企業ブランディング、マーケティングのほか、ソフトウエア開発、技術コンサルティング、そして卸売り・小売りなど幅広いビジネスを展開している。

 中国の口コミ投稿アプリ「大衆点評」によると、「博多一蘭」は上海で3店舗を展開。このほか、青島市や寧波市などでもチェーン展開しているようだ。

「大衆点評」では「おいしい」などとのコメントがある一方、「ここは一蘭のニセモノ?」「安いけど一蘭のニセモノ。ビジネスにも道徳心は必要」「味が全然違う。杭州企業によるニセモノ」などの辛口コメントも並ぶ。それらに対する「博多一蘭」側の返信を見ると、「我々はあくまでも『博多一蘭』」というスタンスを貫いており、「ニセモノ」という批判に対する回答はない。

 店を出るとき、店員に「ここは日本の一蘭ですか?」と聞いてみた。すると「社長からは、一蘭のフランチャイズ店と聞いています」との答えが返ってきた。

 ちなみに、本家「一蘭」のウェブサイトには、「一蘭はすべて直営で運営しており、フランチャイズ契約やのれん分けは一切行っておりません」と明記されている。また「近年、一蘭のブランドやロゴを装った店舗や商品を確認しております。これらの店舗や商品につきましては、一蘭とは一切関係ございません」との注意書きもあった。

 上海の「博多一蘭」は、味はまあまあなのだから、わざわざ「一蘭」という名前を使う必要はないと思うのだが・・・。

 中国では数年前にも、やはり一蘭にそっくりな「蘭池」というラーメン店が話題になったらしい。中国からニセモノがなくなる日はくるのか。

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上海のラーメン店「博多一蘭」(筆者撮影、以下同)