(市岡 繁男:相場研究家)

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ダウ月間上昇率ベスト10の半数は大恐慌期

 ここへきて、また米国の利上げ加速を警戒して上値が重くなっていますが、米国を中心とする世界の株価は今年6月中旬から回復傾向にあります。IT銘柄の多い米ナスダック総合指数は底値から2割も上昇しています。

 ロシアによるウクライナ侵攻やそれに伴う資源高など逆風が続いてきた株価は復活したのでしょうか?

 おそらくそうではないと思います。

 過去の下げ相場をみると、一本調子で下がるのではなく、時折、思わぬ反発をするのが常です。例えば過去100年間の米ダウ工業株30種平均の月間上昇率ベスト10のうち、5回は1930年代前半の大恐慌期に記録したものなのです。今回も株価が戻ったからと言って安心するのは時期尚早でしょう。

 そもそも、6月中旬以降の株価上昇は、「米インフレ圧力の一服感→米長期金利の低下」を好感したからだとされています。しかし6月に前年同月比9.1%だった消費者物価上昇率が7月に8.5%と低下したといっても、現在の長期金利とのギャップは大きすぎると言わざるを得ません(図1)。この先、株価が暴落でもしない限り、長期金利の低下は一過性で終わると思われます。

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 私はウォール街が別に材料視したものがあったのではないかと考えています。それは、米連邦準備制度理事会(FRB)の量的引き締め額が、事前の発表値より緩やかだったことです。

過去の暴落時には「逆イールド」が発生

 FRBは今年5月、その債券保有残を6月~8月に毎月、最大475億ドル縮小すると公言しました。ところが、実際にはその4割程度しか減額していないのです。6~8月の3カ月間で最大1425億ドル縮小するはずでしたが、5月末以降の12週間で572億ドルしか減額していません。

 とはいえ、FRBは9月から保有債券の縮小額を最大で月に950億ドルまで倍増するとしています。その施策が本当に実施されるのであれば、カネ余りに支えられた現在の株価に影響が及ぶことは必至だと言わざるを得ません。

 懸念材料はほかにもあります。

 最近話題になる長短金利の逆転(逆イールド)です。よく逆イールドは不況の兆候だと言われますが、それ以上に株安の前兆だと捉えるべきです。

 過去を振り返ると、1973年オイルショックや、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックといった株価暴落時には直前に長短金利が逆転しているのです(図2)。あの1929年大恐慌の直前も逆イールドになっていたことは要注目です(図3)。

 この先、株価が変調を来すとすれば、軽微な下落で終わるのか、深刻なものになるのか、それが問題です。

「半値戻りは全値戻り」なのか

 鍵を握るのは、株価下落第1波の次に来るリバウンドがどうなるか、です。1929年のダウ平均や1990年日経平均、2000年のナスダック、2008年のS&P500種平均株価といった歴史的な下落局面では、いずれも暴落第1波の5~6割を戻すのがやっとでした(図4、図5、図6、図7)。「半値戻りは全値戻り」という相場の格言がありますが、実際には下げ幅の6割以上、戻さなければ安心できないということです。

 もう一つ、株価リバウンド時の上値が200日移動平均線(図4~7の赤線)を超えるか否かも重要なポイントです。2000年を除く上記3つの事例(1929年1990年、2008年)では、下向き基調だった200日移動平均線の手前で、戻り高値が終了していることに注目していただければと思います(筆者注:2000年は移動平均線が上向きだった)。

 今回、S&P500指数のリバウンドも、「2022年の高値(4779)-安値(3667)」の最大56%にとどまり、下向きの200日移動平均線(赤線)が上値抵抗線として立ちはだかっています(図8)。

 もし株価のリバウンドが8月中旬で終わったのだとしたら、過去の歴史的暴落相場と同じパターンを踏襲していることになり、今秋の国内外の株価は要注意です。

※本稿は筆者個人の見解です。実際の投資に関しては、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。

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