納涼SFサウンドで冷えすぎたときは、『スター・トレック』のスポックソックス
納涼SFサウンドで冷えすぎたときは、『スター・トレック』のスポックソックス

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、涼を感じさせてくれるSFサウンドについて語る。

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前回は、扇風機の機能向上で「扇風機星人」が絶滅危惧種になったとつづりました。本来、回っている扇風機に向かって「ワレワレハ、ウチュウジンダ!」と丁寧に挨拶(あいさつ)する扇風機星人は、大人への通過儀礼であり、日本の夏の風物詩。暑すぎて動けないときに暇つぶしになるのはもちろん、まるで風鈴のようにどことなく涼しく感じさせてくれます(持論)。今回は、そんな涼を呼ぶSFサウンドをもっと考えます。

まずは、SFやホラー映画の定番の音色を生み出す楽器、ウオーターフォン。「キュイイい」「ヒュルう"ぅ~」とザワザワする金属音を奏でるウオーターフォンは、60年代にリチャード・ウオーターズが発明した体鳴楽器です。やかんのような土台についているたくさんの棒を、マレットで叩いたり弓ではじいたりして演奏します。この土台に水を入れて使うことが多いですが、名前は発明者のウオーターズ氏から取っているそう。

一度はじいたことがありますが、水の動きと楽器の共鳴を連動させるには技術を要するものの、私のようなド素人が適当に触っても背筋が凍るようなおどろおどろしい音が出ました。まさにエアコンいらず! さらに、夜道で奏でれば悪人もビビって近寄らないので防犯効果も満点! このウオーターフォンは『マトリックス』や『スター・トレック』などのSF、『ポルターガイスト』などのホラー、さらにサスペンスドラマなどで多く使用されています。現代音楽やロックにも使われており、トム・ウェイツがコレクションしていることも有名です。

同じくSFの空気感を漂わせる楽器が、ブラスタービーム。「ブラスター」は「爆破」という意味ですが、「ビーム」は「光線」ではなく「梁(はり)」や「桁」という意味。建物の梁のような全長5m以上ある巨大なアルミの台に、銅製の弦とエレキギターのピックアップらしき磁石を張った楽器です。これを弓やマレット、砲弾の薬莢(やっきょう)といった道具を使って演奏します。いろいろな道具で奇妙な演奏をするこのブラスタービームは、まるで楽器界のフランケンシュタインコントラバスより低い音階とうなるような深い共鳴音を持ち、まるで光や音が波状に放出されているような「ギヨヨ~ン」というサウンドを出すことができます。

その音は、『スター・トレック』の多くのシリーズや、『スター・ウォーズ エピソード2』のジャンゴサイズミック・チャージ、『10 クローバーフィールド・レーン』の全編を通してたくさん聴けます。わびしげな旋律ながらも、突然サタンを召喚してしまうような鋭い恐怖感をひとつの楽器で味わえるので、ひんやりコスパはかなりいいといえるでしょう。加えて、特許の持ち主のクレイグ・ハクスリーは、オリジナルの『スター・トレック』シリーズでカーク船長の甥(おい)を演じた子役。SF作品の金字塔との深いつながりによって納涼SFサウンド認定は間違いないですが、どんな経験をしたら子役からあの邪悪な音色の奏者になるのか、ハクスリー氏の成長物語に一番ゾッとします。

と、今回は楽器だけで終わってしまいました。テルミンや竜笛など、ゾクゾクさせる楽器はもちろん、いつか日常のSFの音にも迫ります。

市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。ミョウガを切るときの「シャリシャリシャリ」って音が好き。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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