作家の井上荒野が、同じ作家で父の井上光晴と母、愛人の瀬戸内寂聴をモデルに男女3人の“特別な関係”を描いた小説を、寺島しのぶと豊川悦司のW主演、共演に広末涼子を迎え映画化した『あちらにいる鬼』が、11月11日(金)に全国公開される。本作のポスタービジュアル、予告編、場面写真が一挙に解禁となった。

【写真を見る】寺島しのぶが実際に剃髪して挑んだ、厳かで清らかな得度式のシーン

ヴァイブレータ』(03)、『さよなら歌舞伎町』(15)などの廣木隆一監督がメガホンをとり、同作でタッグを組んだ荒木晴彦が脚本を手掛けた本作。寺島が、瀬戸内寂聴をモデルにした人気作家、長内みはるを、豊川が井上光晴をモデルとした作家、白木篤郎をそれぞれ演じ、広末が篤郎の妻、笙子に扮する。昨年11月、満99歳で波乱の人生を全うした作家で僧侶の瀬戸内寂聴1960年代から人気作家、瀬戸内晴美として活躍した彼女が出家した背景には、同業者で妻子ある井上光晴との恋があった。出会うべくして出会い、互いにのめり込んでいく2人と、すべてを承知しながら心を乱すことのない男の妻。本作は、同志にも共犯にも似た不思議な3人の関係を、光晴の長女、井上荒野が書き上げたセンセーショナルな物語に仕上がっている。

解禁された予告編は、寺島が実際に剃髪し挑んだ、厳かで清らかな得度式のシーンで幕を開け、始まった瞬間から観る者の視線を離さない。髪を落とした寂光、長内みはると向き合って座る、豊川演じる白木篤郎は、下を向いてうなだれている。「彼女は知ってるんでしょう?」と問い詰め問い詰められる作家の女と男は、人生の半ば、道ならぬ恋に年月を費やしていた。互いにパートナーがありながらも、逢瀬を重ねる2人。白木は隣で眠る広末演じる妻の笙子に「俺はあんたが一番大事なんだから」とささやき、笙子は「どうして、ああ嘘ばかりつくんでしょうね」と心の内を吐露する。

1人の男を分かち合う2人の女、共感にも連帯にも似た3人の関係性を、笙子は「同志みたいなものかな」と、嫉妬心を超越した感情を抱いていることを明かす。「誰だって自分1人の物になんかできない」と分かっているからこそ、みはるは白木と訪れた旅先で出家という人生を変える決断を伝え、女と男でいられる最後の夜、白木はみはるの髪を洗った。「行ってあげたら?」と夫をみはるの元に向かわせる笙子、「どうしようもない男だけれど愛しくて仕方ない」と肩を寄せ合うみはると白木。この3人の計り知れないつながりに圧倒され、心震わされることを予感させる予告編に仕上がった。

寺島は、今回演じた寂光・長内みはるというキャラクターについて「“すごく生きてる”っていう人ですよね。やりたいことはすべてやるし、突き進むし、我慢しない。それが生きていくってことなのよって、どの場面においてもブレがない。今日はちょっと元気がないなと思いつつ現場に行っても、みはるになると、逆に元気になっちゃう。もちろん映画は原作と違うし、ましてやモデルとなった方たちとは距離がありますが、撮影中は寂聴さんが背中にぴたってくっついて、ずっとパワーをくれていたような気がします」と語っている。

また、同時に解禁されたポスタービジュアルでは、みはると白木、その妻である笙子がそれぞれのシチュエーションで切り取られており、交差する視線から3人の関係性が垣間見られる。髪を剃り上げ、みはるではなく寂光となった寺島の穏やかな表情が印象的だ。

「愛という言葉を持ち出せば、すべてが許されるのだろうか」。愛に生き、ときに愛に苦しんだ彼らについて、寺島は「モデルとなった井上光晴さん亡き後の奥様と寂聴さんとの関係や、荒野さんと寂聴さんとの関係も、他人にはうかがい知れない関係性ですけど、あの時代をともに生きた、確かに在った。その関係性を観ていただけたらと思います」と完成した作品への自信をのぞかせている。

寺島、豊川、広末ら実力派俳優陣が紡ぎ上げた『あちらにいる鬼』。情愛を超えたその先の境地に迫る、濃密な人間ドラマに乞うご期待。

文/山崎伸子

『あちらにいる鬼』のポスタービジュアルが解禁/[c]2022「あちらにいる鬼」製作委員会