令和の現在、夫婦の3組に1組は離婚する。残る3分の2の多くも、大なり小なり問題や悩みを抱えている。ネットニュースやSNSでリアルな夫婦像に触れる機会が増え、我が身を振り返る人も少なくないだろう。9月6日に新著『妻が怖くて仕方ない』(ポプラ社)を上梓するジャーナリストの富岡悠希氏が「日本の夫婦の今」を明らかにする。

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(富岡 悠希:ジャーナリスト)

婚姻関係の継続に逡巡する「ギリギリ婚」

 今夏も芸能人の離婚報道が相次いだ。20代で共にタレントのryuchellりゅうちぇる)さんとpeco(ぺこ)さん夫婦、女性タレントの小倉優子さんはバツ2にと、話題に事欠かない。

 もちろん離婚話は、芸能界に限ったことではない。あなたの周囲を見ても、バツ1・バツ2の友人・知人が複数いるだろう。

 離婚経験者が当たり前となっていることは、統計データでも裏付けられる。厚生労働省が発表する人口動態統計によると、2020年の婚姻件数は52万5507組で、離婚件数は19万3253組。同じ年に生じた離婚件数を婚姻件数で割った「特殊離婚率」は、36.8%となっている。

 同省が、今年8月24日に発表した「離婚に関する統計」も参照しよう。特殊離婚率とは別の算出式から導いた結論として、「およそ結婚した3組に1組は離婚していることになる」とまとめている。

 この「夫婦の3組に1組が離婚」を、皆さんはどう捉えるだろうか。今の時代は、家族の縛りや世間体よりも、個人の意思が尊重される。一度結ばれた相手でも、次第に「どうも違う」となれば、離婚を選択する自由がある。

 とはいえ、自分たちの都合で決められるのは、子なしの場合のみ。子どもがいると、その幸せを考えて、ずっと慎重に判断することになろう。日本では離婚した場合、母親が子どもを引き取ることが一般的だ。子どもと一緒にいたい父親には、離婚への大きなハードルとなる。母親の場合、経済面を中心に母子家庭になる不安が生じるケースもあるだろう。

 夫のだらしなさが嫌。妻のヒステリーにうんざり・・・。大なり小なり、夫婦はこんな不満を抱く。しかし、2人の間には最低限の愛情が残っているし、子どものことを考えると離婚には踏み切りにくい。

 離婚しない3分の2のカップルの中には、こうした逡巡組も相当いるに違いない。いろいろ考えて婚姻関係を継続する彼ら、彼女らの結婚を「ギリギリ婚」と名付けてみた。そして正直に打ち明けると、僕もその一人だ。

妻が買い物依存症になり借金800万円

 2011年に結婚、男女の子どもにも恵まれた。まずまず順調な結婚生活を送っていると認識していたが、実はそう思っていたのは僕だけ。妻は16年の次女の出産後、結婚生活の過大なストレスを買い物でこっそり発散していた。

 僕がそのことに気づいたのは、約3年後の19年5月。自宅に届いたクレジットカード明細書に、覚えのない支出があった。机にしまっていたはずのクレカもなくなっていた。  

 カード会社に電話する前、気が動転して妻に連絡すると、なんと「私が使った」。理由を問い詰めていくと、「クレカが持てなくなった」。その背景として、買い物依存症になり、1000万円以上を使ったという。僕の知らないうちに任意整理をしていたが、それでも借金800万円が残っていた。

 残債の返済金を補填することで、一時は平和を取り戻したが、今度はコロナ禍の在宅ストレスにやられた。夫婦喧嘩をした時の妻のキレぶりが激化する。ついに20年9月には、彼女の暴力で左肩を脱臼し、救急車で運ばれた。

 確かに僕は、夫として多々至らない。ただし、妻に「おんぶに抱っこ」とか「大きな子ども」として、ダメなのではない。

知らず知らずのうちに妻を縛ってきた

 食事は基本、自分の分は自分で済ませているし、洗濯・掃除は8割方こなす。週に4日間、保育園のお迎えにいく。トイレットペーパー、洗濯洗剤などの備蓄品を管理し、ゴミ出しもする。

 ただし、生来のマメさを、妻に対してはうまく発揮できていない。拙著『妻が怖くて仕方ない』で対談した国際政治学者の三浦瑠麗さんからは、「結構マイクロマネジメントよ」と指摘された。マメさが、妻を管理する方向に働いてしまっているらしい。

 ぐうの音も出ないほどその通り。伸び伸びしたい妻を、知らず知らずのうちに縛ってきた。そして、多額の借金を残す買い物依存症へと追い込んだ。

 僕ほどの「愚夫」は、そうそういないかもしれない。しかし、夫婦の3分の1が離婚する現実を見るに、同じくあがいている夫はたくさんいると推測する。そして、その配偶者である妻も、悩んでいるに違いない。

 昭和の時代に時を移して、夫婦の在り方を振り返ってみよう。1950年代中頃から20年ほど続いた高度成長時代。「働く夫」と「支える専業主婦」の夫婦は、なかなかにうまく機能していたと考察する。

 夫の収入増に比例し、家には電化製品が増え、妻は楽になっていく。自分たちには無理だった大学進学を子どもは果たせた。

ギャップが大きい「昭和の夫」はまだ上司

 一家が経済、物質、教育面で少しずつ豊かになる夢を、夫婦が共に見ることができた。家庭を任された女性たちには、もちろん不満があっただろう。しかし、働く選択肢はか細く、我慢して夫婦関係を維持させた。

 しかし、徐々にモノはいきわたり、肝心の経済成長も鈍っていく。ついにバブル経済が崩壊し、90年代以降は社会も家庭も混沌とする。

 それと並行して、女性の高学歴化、社会進出が進んできた。当然の流れだし、社会として個人としても歓迎すべきことだ。

 ところが、自分の妻や娘が働くことに、どうにも適応できない「昭和の夫」が出てくる。「働くことにした」という妻に対し、「俺の飯はどうする」と、のたまう夫が典型例だ。自炊すれば済むのに、そう考えない。かなり終わった存在だが、会社で出世していると自覚できない。

 そんな男たちを抱えつつ、社会はこの十数年、家事や育児を積極的に担う「イクメン」を迎え入れてきた。流れとしてはいいはずなのに、そのイクメンたちも自信満々ではない。

 会社では50代の幹部からは、やっぱり理解されにくい。露骨に意地悪をしてくるわけではないが、バリバリ仕事派の彼らは心底では共感しない。「いつの間にか子どもが成人していた」と話す上司と、「定時に上がって保育園のお迎えにいきます」と話す部下の経験は、あまりに違い過ぎる。 

「大黒柱バイアス」に悩む夫も

 家庭でも、安泰ではない。20~40代の妻の親は昭和世代。一家で一番の稼ぎ手であることを夫に求める、「大黒柱バイアス」に陥っている場合もある。

 編集者をしている同世代の男性友人は、次のように嘆いている。

「うちは共働きなのに、妻から『男なのだから妻子を養って当然』とプレッシャーをかけられる。なぜか、共通の生活費を妻が負担してくれない」

 つまるところ、僕らは自分たちの夫婦像を、ブラッシュアップしていかないといけない。「ギリギリ婚」当事者で「愚夫」として数々の失敗をしてきた僕は、特に切実な思いを抱いている。

 10年超の結婚生活を振り返りながら、拙著に盛り込んだ専門家インタビューや対談の成果をお伝えしていきたい。

 ギリギリ婚にあがいている仲間、離婚を振り返りたい結婚の先輩、配偶者への不満を抱えている既婚者、そして全ての結婚に関心を寄せる方々。ぜひ、一緒に夫婦や結婚を考えていきましょう。

第2回はこちら
「既婚者合コン」に潜入、「良妻賢母」的なマリコさんに僕は困惑した(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71835)

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