日本企業の実に99.7%は中小企業であり、GDPの5割超を担う極めて重要な存在です。しかし近年では、そんな中小企業の後継者不在が問題となっています。なぜ後継者が見つからないのでしょうか。その理由を検証していきます。

大企業の下請けで、ワンマン経営にならざるを得ない

中小企業の後継者が見つからない問題について、記事『日本には優れた中小企業が多いのに…「後継者不在」の問題が頻発するワケ』において、「経営者の『同族経営』前提の思考」「第三者承継のハードルの高さ」という2つの要因について解説しましたが、問題はそれだけではありません。

3つめの要因として中小企業ではワンマン経営が多く、リーダーが育ちにくい土壌があります。

そもそも中小企業大企業の下請け的な立場で業務をしていることが多く、納期の短い仕事を急に振られたりコストのしわ寄せが下請けに来たりと、大企業の事情に振り回されがちです。そうすると中小企業の社長はその場その場で判断することになり、朝令暮改の経営が多くなります。文字どおり、急ぎの仕事が割り込んでくれば朝に立てた予定が夕方には変わってしまうことも日常的に起こってくるのです。

このような状況では、トップダウン式の指令系統のほうがなにかと都合がよいものです。「俺の言うとおりにやればいい」「社長が白といえば白なんだ」といった具合に、強いリーダーシップで組織を動かしたほうが目の前の仕事を早く片付けられます。ハイと返事をして無駄口を叩かずに手を動かす社員が、その会社では最も貴ばれます。

逆に、社長に歯向かったり疑問を呈したりする社員は「面倒くさいやつ」として疎まれることになります。中小企業の社長は経営もやりながら現場のプレーヤーも兼ねていることが多いため、ただでさえ忙しいのです。社員が「なぜ、今この仕事をするのですか?」「こちらを先に片付けたほうが効率的ではないですか?」など自分の意見を言ってくると、そのたびに手を止めなければならず困ってしまいます。

結果としてイエスマンばかりで自分の周りを固め、それ以外の社員は遠ざけることになります。気がつけば幹部クラスはイエスマンばかりになっています。

さて、そのような状態で幹部のなかから後継者を選ぼうとすると、必然的にイエスマンしか選べません。指示待ち人間が社長としてふさわしいかというと大いに疑問です。自分で判断できない、自分で責任が取れない、自分で道を切り拓いていけない……という人間が会社を背負っていけるはずもないからです。

むしろ、今まで遠ざけてきた「自分の考えをもった社員」のほうが社長としては適性があるわけですが、いざ後継者になってもらおうとしても手遅れです。主体的に考えて動ける社員というのは、社長の人間性や会社の将来性をよく見ていて「この社長のもとでは自分の能力が活かせない」「こんな古い体質の会社は生き残っていけない」と早々に見極めているものだからです。十中八九、会社を辞めて転職しているはずです。

ワンマン経営は日々の業務をこなしていくには良い面もあるのですが、事業承継を考えたときには後継者不在に陥る危険性が高いのです。

「別に廃業してもかまわない」…社長の熱意の問題

4つめの要因として、会社存続に対する社長の熱意の問題があります。

通商産業省の出身で「中小企業白書」の執筆も担当された東洋大学の安田武彦先生によると、中小企業の社長のなかには「家業」という認識が強いがゆえに、「自分の会社なのだから承継しようと廃業しようと自分の好きにしていい」と考える人や、「小さな会社なので廃業しても誰も困らない」「事業の将来性がないから誰も継ぎたがらない」と考える人が目立つとのことです。

「家業で細々と収入を得て、そこそこの年齢になったら廃業すればいい、子どもが継がないなら仕方ないという感覚が中小企業では特に多い」と安田先生は指摘します。

10人以上の組織になると社員の生活もあるので簡単には廃業できませんが、大企業に比べると廃業の心理的なハードルはかなり低くなります。

また、安田先生は「そもそも経営者にかかわらず日本は社会が安定しているためにハングリー精神が弱い人が多く、現状維持ができればよいと考えがちです。成長したいと考えている会社や誰もやったことがないことに挑戦しようと考える人は少数派です。今が安定していれば10年先を意識しませんし、元気だから大丈夫と思っているうちに高齢化して事業承継のタイミングを失しているケースが多いです」と分析します。

しかし中小企業庁長官の年頭所感にもあったように、中小企業の廃業が進行していけば大きく国力を損なうことが避けられません。日本はただでさえ人口減少や少子高齢化で労働力が低下しています。経済の専門家のなかには「日本はもはや先進国ではない」という指摘をする者もいるほどです。

世界的投資家のジム.ロジャーズ氏は「日本は借金が増え続け、少子化が止まらないため今後は衰退していく一方だ」という旨を明言しています。中小企業がこのまま後継者不足でどんどん廃業していけば、現状に輪をかけて速いスピードで日本経済は衰退していくことになります。

しかしながら社長が危機感をもっていなかったり、他人事であったりすることが多いのです。これは私が多くの社長を見てきたからこそいえる実感です。日本全体のことまで考えて「廃業を避けて会社を存続させたい」と後継者問題に取り組んでいる社長は決して多くありません。

「うちの会社くらいなくなっても大丈夫」という考えがある限り、本気で後継者問題に取り組むことはできません。「最悪は廃業すればいい」と思ってしまい、必死で後継者を探したり育成したりしようとは思えないからです。結局は本質的な問題解決ができず、事業承継の課題を抱え続けることになるのです。

「経営から退きたくない」会社にしがみつく経営者

5つめの要因としては、社長の「経営から退きたくない、生涯現役でいたい」という想いがあります。社長は自分で引退の時期を決められるので、生涯現役でいることも可能です。自分が現役で居続けるなら事業承継は必要ないため、どんどん先延ばしになってしまいます。

高齢になっても現役社長で居続けてしまう人には、3つのタイプがあります。

1つめは、「仕事が好きだからずっと続けたい」と思っているタイプです。これは意地悪な言い方をすると、「仕事以外に生きがいがない」ということの裏返しです。仕事以外に楽しいことがあれば「そろそろ引退して自分の時間が欲しい」となるはずです。

2つめは、仕事以外の生きがいにも通じることですが、「引退後のビジョンがない」というタイプです。仕事一筋できた人は仕事を辞めたあとの自分をイメージしにくく、「社長でなくなった自分は何者なんだろう……」考えてしまいがちです。仕事が好きというよりは「肩書がないと不安」という気持ちが大きいのかもしれません。

 3つめは、社員たちが頼りなくて会社を任せるのが心配なタイプです。カリスマ性があって自分一代で会社を大きくしてきたような社長ほど「自分がいなくては会社は立ち行かない」と思いがちです。「自分の信用で取引しているから、引退すると取引が切られてしまうのではないか」「この仕事は自分にしかできない」「社員たちは未熟だから見てあげないといけない」と思ってしまう気持ちがあります。社長にしてみれば社員への思いやりなのですが、それが社員たちの自発的な成長を妨げている可能性が大きいのです。

本当は1人で仕事ができるくらい後継者が育っているのに、心配だからと手や口を出すことで本人のやる気や自信をなくしてしまい、独り立ちを遅らせているケースを多く見受けます。

阿部 忠

ホッカイエムアイシー株式会社会長 ユーホープ株式会社代表取締役 埼玉県経営品質協議会顧問 中国江西省萍郷衛生職業学院客員教授 埼玉キワニスクラブ顧問 エコステージ経営評価委員 日本賢人会議所会員