日頃の薬や毎年の健康診断、当たり前と思っておいたことを一度振り返ってみると意外なことがわかるかもしれません。健康的な老後を過ごすために、70代ですべきことを「こころと体のクリニック」院長の和田秀樹氏が健康的な老後の過ごし方について解説します。※本連載は和田秀樹氏の共著『70歳からの生き方が寿命を決める!健康長寿の新常識』(宝島社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

75歳以上の4割、5種類以上の薬を服用

高齢になると複数の持病を持つ人が増加。それにともない、薬局で処方される薬の種類と量も多くなります。

75歳以上では、5種類以上の薬を服用している人が4割以上にも達しています。これを「多剤服用」といい、多剤服用によって副作用などの有害事象を起こすことを「ポリファーマシー」と呼び、近年、問題になっています。

たとえば血圧や血糖値を下げる薬を処方されたとき、薬で正常値まで下げてしまうと、体がだるくなったり、頭がぼーっとしたりすることがあります。降圧剤や血糖降下薬を飲むことで将来的に心筋梗塞脳梗塞を予防することにはなりますが、日本人の死因1位はここ40年ほどがんです。

心疾患、脳血管疾患の多い欧米に倣って、がんのリスクの高い日本人が、体の不調を我慢して降圧剤や血糖降下薬を飲み続けるのには疑問がつきまとうといえます。

とはいえ、専門家である医師に「薬をやめたい」と言うのは勇気がいるもの。いま自分が飲んでいる薬に少しでも不安や疑問を感じているのであれば、まずは「薬の量を半分に減らしたい」と相談するところから始めてみましょう。

また、つい忘れがちなお薬手帳には重要な情報が満載なので、お薬手帳を活用して、それぞれの薬に対して自分の体がどのように反応したのかを把握。また、自己判断で薬を減らしたり、中断するのはなるべくやめましょう。

毎年、健康診断を受けるのは世界でもめずらしい

日本では年に一度、健康診断を受けるのが通例となっていますが、欧米では公的に健康診断を実施している国はほとんどありません。基本的には、体調不良やけがなどがあったときに個人で医療機関の診療を受けるのが常です。

日本の健康診断の始まりは1912年

当時、問題となっていた結核や赤痢などの感染症の拡大を防ぐ目的で導入されました。その後、徐々に検査項目が追加され、いまでは50~60にも上る検査が行われています。

その中には、現在では激減している結核を調べる胸部X線検査もいまなお行われています。そして胸部X線検査は、肺がんの発見率は極めて低いことが報告されています。はたして、これらの検査は本当に毎年受け続ける必要があるのでしょうか。

日本人の死因1位…「がん」の検診

現在、国が推奨しているがん検診は、胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がんの5つ。これらはほとんどの市町村で公費によってまかなわれており、一部の自己負担で受けられるようになっています。

すべて受ける必要はありませんが、自分が気になっているものだけを受けてみるのは有益でしょう。また、予測できない突然死を防ぐためにおすすめしたいのは、心臓ドックと脳ドックです。この2つは保険適用にはなりませんが、3年に一度受けておくことで、心疾患、脳血管疾患のリスクはぐっと減らせるでしょう。

介護は公的機関を活用、看取りは在宅で

近年、自宅で最期を迎えることを希望する人が増えています。ほんの少し前まで、病院で最期を迎えることが当たり前で、「最期は住み慣れた自宅で」と口にすることもかなわなかったことを考えると、時代は変わったのでしょう。

この背景には、「2025年問題」があります。約800万人いる団塊世代が2025年に75歳を迎え、国民の4人に1人が後期高齢者という超高齢社会に。

少子化も進み、近い将来、医療機関や医療スタッフの数が不足し、現場が機能しなくなることを踏まえ、地域の包括的な支援・サービスを整えることで、医療・介護を必要とする人にスムーズに届けられる仕組み「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。

これにより、かかりつけ医の機能が確立され、訪問介護・訪問看護、通所介護などのサービスが推し進められることとなりました。

ですが、地域包括ケアシステムはまだ歴史が浅く、これまでに幾度となく制度が改定されています。また、介護する側にとって、終わりの見えない自宅での介護は肉体的にも精神的にも金銭的にも負担が大きいのが実情です。

ともすれば共倒れになってしまいかねない在宅での介護は可能なかぎり医療機関や公的サービスを利用し、最期の目途がついている在宅看取りについては前向きに検討しましょう。そのために、なにを準備し、なにを優先させるかを事前に家族で話し合っておく必要があります。

高齢者のうつは身体的症状も出ることに注意

高齢者のうつは、「気分が落ち込む」「ものごとに対する興味が湧かない」などの精神的な症状に加え、「食欲がない」「よく眠れない」「体がだるい」「疲れやすい」などといった身体的な症状が表に出てくるのが特徴です。

これらは老化現象のひとつとして片づけられがちで、正しくうつと診断されづらいところに問題を含んでいます。また、認知症の初期症状としてしばしばうつ症状が出ることがあり、老年期のうつ病認知症にともなううつ症状では、検査や治療法が異なるため、注意が必要です。

見分け方としては、認知症が1年単位でゆっくり時間をかけて進行するのに対し、うつは1ヵ月ほどで急に症状が現れるので、家族はよく観察することが大切です。

病院を受診しても不調が続いたり、薬を飲んでも症状が改善されない場合は、迷わず精神科や心療内科に相談してください。

好きなことを好きなようにすることが大切

健康的で自立した80代を迎えるために70代ですべきことを紹介してきました。ですが、この記事で紹介したことをそのまま鵜呑みにして、すべて実践しようとしなくてもいいのです。

残りの人生は、多く見積もってもあと30年。なるべくストレスを減らし、好きなことを好きなようにするのがいちばんです。運動が嫌いな人は、これならできるという別のなにかを考えてみてください。自分で考え、行動に移すことであなたの体と頭は活性化され、健康的で自立した老後への近道となるのです。

そして、もっとも大切なのは、70代になったら、自分のためだけに生きるのではなく、まわりの人のために役立とうとする生き方にシフトチェンジすることです。人にやさしくする――それがきっと、あなたの老後を豊かなものにしてくれるでしょう。

こころと体のクリニック

院長

和田秀樹