昨年末に行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第4回総会で、農業問題の解決を強調した北朝鮮。ところが、その努力は初年度からつまづき続けている。

春には深刻な日照りに襲われ、次いで度々の豪雨に襲われるなど自然災害が続いた上に、コロナ対策の移動制限により、農村への労働力動員が順調に行われなかったことから田植えが遅れた。麦やジャガイモなどは深刻な凶作となり、コメの収穫量も大幅な減少が予想されている。

北朝鮮当局は、このままでは国内で1年に必要とする食糧のうち、5ヶ月分が不足すると見ている。この予想に基づき、海外に派遣した貿易駐在員に、穀物の調達を命じた。

デイリーNKの北朝鮮内部の高位情報筋によると、北朝鮮政府は先月初め、海外各地に派遣した貿易駐在員に対して、今年下半期に朝鮮労働党に納める計画分(ノルマ)を外貨ではなく、コメ、トウモロコシ、大豆など現物で出すよう命じた。

この指示は、外務省、対外経済省、軍需工業部、朝鮮労働党中央委員会など上部機関を通じて、各国に派遣された貿易駐在員、外交官に下された。

偽造パスポートを持ってアフリカや中東で、特殊目的の品物を調達する活動を行っている要員に対しても、コメを調達せよとの指示が下された。彼らの間では、北朝鮮1990年代後半の大規模食糧危機の「苦難の行軍」以降で、最も苦しい難局に直面しているのではないかとの話が広がっているとのことだ。

政府は今回の指示文で「今年上半期の農村総動員期間、コロナ感染者が発生し、移動が制限されたことで、農業生産量に打撃を受ける」との説明を付け加え、1トンでも2トンでも良いので穀物を最大限確保し、納めた分をノルマから引くとの条件を付けている。

今回の指示は、計画経済の中枢機関である国家計画委員会と、内閣農業委員会が、7月末で終わる麦の収穫状況を見て、そのあまりの深刻さから、朝鮮労働党と内閣が会議を開き決定したとのことだ。具体的な不足の量については様々な推測があるが、一説では、麦の収穫量が例年の1割にしかならなかったという。

会議では、中国やロシアに公式に輸出を要請する案も検討された。しかし「国が直接、食糧の輸出を要請するのは格好が悪い」という、実に体面を気にする北朝鮮らしい理由から、貿易駐在員らに調達命令を出すという結論に至ったという。

それもあって、今回の穀物輸入は国の主導する公式のものではないという点が繰り返し強調されたとのことだ。また、このことが海外に知られないように、保安面でも注意せよとの指示が下された。

米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、インド国際事業会議所(ICIB)が先月29日、ウェブサイトに、度重なる洪水による食糧不足に苦しむ北朝鮮への食糧支援を議論するために北朝鮮大使館の関係者と会ったと投稿したと報じた。VOAは、北朝鮮インドから1万トンのコメの輸入を進めていると報じていた。

これについて、デイリーNKの別の情報筋は「あのように食糧を要請したことが公開されれれば処罰を受けるかもしれない」との懸念を示したが、大使館側から何らかの要請があったのか、投稿は翌日削除されている。

北朝鮮の穀物生産量は、1980年代前半までは右肩上がりに増加したものの、苦難の行軍のあった1990年代に激減。その後、ある程度回復したものの増減を繰り返しており、1980年代以前の水準を回復できていない。

北朝鮮農業は構造的な問題を抱えている上に、近年の制裁、異常気象、コロナの三重苦で、非常に厳しい局面を迎えている。

金正恩氏が朝鮮戦争休戦69周年記念行事で祝賀演説をした(2022年7月28日付朝鮮中央通信)