安倍晋三元首相に最も食い込んだ記者として知られ、NHK政治部で担当してから20年にわたり取材してきた政治外交ジャーナリストの岩田明子氏。今回、「文藝春秋10月号(9月9日発売)でこれまでの膨大な取材をもとに安倍氏の秘話を綴っている。

撃事件前夜の安倍元首相との電話

 銃撃事件前夜の7月7日の夜。岩田氏は安倍元首相と電話をしている。そこでは旧統一教会をめぐる話題も出たという。

〈「井上さんが旧統一教会で『祝福』を受けたとの情報が入りました。事実ですか。どういう経緯だったのでしょうか……」。「井上さん」とは、第一次内閣で安倍の秘書官を務め、この7月の参院選自民党比例代表の枠で出馬していた井上義行のことだ。この電話の2、3日前に、旧統一教会と接点が生まれたとの噂を耳にしていた。

安倍氏は電話でどう答えたのか

「そうだね……」

 言葉少なに安倍は答えた。

 長きにわたり取材を続けてきたが、安倍の周囲で「旧統一教会」の名前を聞いたのはこの時が初めてだった。

(中略)

 2021年9月、安倍は旧統一教会の友好団体「天宙平和連合」のイベントビデオメッセージを寄せている。山上徹也容疑者はこの映像をみて「殺害を決意した」と供述した。安倍は、日ごろから、多忙を極める中でも会場に駆けつける場合と、逆にビデオメッセージだけで済ませる場合がある。こうした使い分けで交流関係に違いを出し、ある種の距離感を滲ませていた〉

 志半ばで生涯を閉じた安倍元首相には総理三選という「見果てぬ夢」があった。岩田氏の取材では、その意欲は退陣間もない頃から膨れ上がり、言動の随所に滲み出ていたという。

〈仮に「第三次政権」の発足があるとしたら、2024年を念頭に置いていた。国内外で同時多発的に波乱が起きると踏んで、着々と準備を進めていたのだ。

 2021年3月17日の夜のことだ。安倍は富ヶ谷の自宅に麻生太郎を招き、二人で酒を酌み交わしていた。政治観を微妙に異にしながらも、長年の盟友である麻生とは肝胆相照らす仲だ。実はその晩、二人は「台湾海峡の有事は5年以内に起こるのではないか」と話している〉

 その他、「文藝春秋10月号では、「安倍晋三秘録」と題して、第二次政権退陣直前に安倍元首相が漏らした苦悩や、昨年9月の自民党総裁選での暗闘について全13ページにわたり詳細に綴られている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2022年10月号)

山上容疑者