たびたびニュースになる、有名人のスキャンダル。イメージダウンにより、しばらくメディアから消えたかと思ったら、「介護の仕事を頑張っている」などと報じられ、「そろそろ許してあげたら」という声が大きくなる……そんなパターンが定番化しています。一方で、当事者である介護業界の人たちからは不平不満も。みていきましょう。

スキャンダルを起こした有名人の禊とされる介護職…その給与は?

——スキャンダルを起こした芸能人が介護士資格を取得

——介護施設に勤務。禊、終了か?

このようなニュースを耳にしたことがあるでしょう。自らアピールしているのか、それとも芸能誌が取材をして判明したのか、定かではありませんが、何かと問題を起こした有名人が、反省の姿勢を見せようと介護関連の仕事をするというのは、よくあるパターン。「贖罪介護」とはよくいったものです。

このことには賛否両論あるでしょうが、ニュースを聞いた人からは「頑張っているのだから、そろそろ許してあげれば」などという声が上がり、知らぬ間にメディア復帰をしている、というのもよくあるパターンです。

不祥事を起こした有名人が介護に従事することに対し、当の関係者からは「介護を禊の道具にしないでほしい」とか「介護職を馬鹿にしている」、「介護職の苦労がより強調され、マイナスのイメージを与えかねない」など、あまり歓迎されているとはいえない声があがっています。

確かに介護には「福祉」のイメージが強く、善行などで罪を償う贖罪に利用されるのも無理のない話。また介護がいかに大変なものか、体力的にも辛いことはよく知られていますから、周囲が「介護で頑張ったんだから、許してあげる」という気持ちになるのも仕方がないことかもしれません(そもそも、世間に許してもらう、ということに違和感を覚える人もいるでしょうが)。

「介護=大変」というイメージが世間に浸透し、介護職が免罪符代わりになりやすい現状。介護の現場の実情を各種資料からみていきます。

まず、介護職の給与はどれほどなのでしょうか。厚生労働省令和3年賃金構造基本統計調査』で、介護職とされる、「介護支援専門員(ケアマネージャー)」「訪問介護従事者」「介護職員(医療・福祉施設等)」についてみていきます。

3職種で最も給与が高いのは「介護支援専門員(ケアマネージャー)」。分類145職種のうち、推定年収は96位。月収(きまって支給する現金給与額)は28万7,400円、手取りはおよそ22万円。推定年収は409万7,300円。「訪問介護従事者」は119位で、月収は26万7,500円、手取りはおよそ20万円。推定年収は364万0,000円。「介護職員(医療・福祉施設等)」は123位で、月収25万0,600円、手取りはおよそ19万円。想定年収は352万8,000円。

同調査の会社員の想定年収(男女計、学歴計)は平均489万3,100円なので、介護職は平均を下回る給与水準といえるでしょう。

介護業界はキツイ、もう辞めたい…は本当か?

給与水準は低めの介護職。ただ高齢化に伴い需要は増加。慢性的な人手不足にあります。公益財団法人介護労働安定センター『令和3年度 介護労働実態調査』によると、介護事業所の63.0%で「人材不足」と回答。5年前の2017年には66.6%だったので改善傾向にあるといえますが、問題解消に向かっているとは言い難い状況です。

一方で「介護業界は離職率が高い」というイメージがありますが、こちらは改善傾向にあるといえ、同調査では2021年度で14.3%。前年より0.6ポイント低下しました。経年でみてみても、ピークの2007年21.6%の約2/3に。全産業の平均離職率は15%強といわれているので、他業界と大差のない水準まで改善しています。

また「今の勤務先で働き続けたい」という勤続意欲についても、2017年56.9%→57.3%→58.9%→60.2%→2021年61.2%と、5年連続で前年を上回っているといます。さらに「前職あり」75.7%のうち、「前職は介護・福祉・医療関係以外」が63.1%と、介護以外からの人材流入が多くなっています。

需要増から慢性的な人手不足があるものの、雇用環境は改善傾向あり、意欲や使命感をもって働く人が多い介護業界。確かに当事者からすると「有名人の禊」として語られるのは、少々癇に障るかもしれません。

そんな介護業界で働く人たちの悩み・不平不満で最も多いのが、やはり「人手不足」で52.0%。過半数を超えています。また「仕事のわりに賃金が低い」38.6%、「身体的負担が大きい(腰痛や体力に不安がある)」30.6%、「有給休暇が取りづらい」26.8%など、人手不足とそれを要因とするであろう労働環境、そして賃金に対するものが多くを占めています。

また「業務に対する社会的評価が低い」が26.0%。これは「贖罪介護」が良しとされていることへの不平不満ともいえるでしょう。

高齢化社会下にある日本。その割合は、今後さらに上昇するといわれています。必然的に介護の需要は高まり、なくてはならない仕事になるでしょう。人手不足の解消、賃金の底上げ、さらにはイメージの向上も必須。課題は山積みです。

(※写真はイメージです/PIXTA)