加藤和樹と高田夏帆が出演する舞台「裸足で散歩」が9月13日(火)より開幕する。本作は、5階建てのアパートに住む新婚カップルと風変わりな住人たちによるドタバタ劇。コメディ初主演となる加藤和樹は、デビュー当初にはミュージカルテニスの王子様跡部景吾役で広く知られ、数多くのミュージカルやストレートプレイに出演する他、声優業や音楽活動でも注目を集めている。幅広い活動も「すべて“表現をする”ということは共通している」と語る加藤が、原点と語る役に込める想い、今作での挑戦、そして役者として大切にしていることとは。

【写真】柔らかい微笑みを見せる加藤和樹

コメディだけど、笑いを“欲しがらない”のが重要

──加藤さんにとって今作がコメディ初挑戦となります。コメディならではの難しさや面白さはどんなところに感じていますか?

「裸足で散歩」は確かにコメディ作品なのですが、台本を読んで実際に稽古を進めていくと、それぞれのキャラクターに心情の動きがあって、すごく人間ドラマ的。実は演じている側としては、あまりコメディを演じているという感覚がないんです。だから「笑わせよう」としないことが大切だなと思っています。やりすぎてしまうと軸がぶれてしまうので。

──では、演じる上での心持ちは普段の作品とあまり変わらない?

そうですね。芝居をしっかりしないと、笑いも生きてこないので。しかも僕が演じるポールは真面目。ポールが真面目であればあるほど、面白いんですよ。翻訳を福田響志くんが担当していることもあって、「ここは笑いポイントだよな」と思うようなセリフももちろんあるのですが、そこでいかに“欲しがらない”かも重要だなと思っています。

──加藤さんが演じられるのは真面目な弁護士のポールですが、ポールを演じていて「愛らしいな」「楽しいな」と思うのはどういうところですか?

やればやるほど自分と似ているなと思うところが多くて、とても他人とは思えないんですよね。強がっているし、喧嘩も繰り返すけど、なんだかんだでコリーのことが大好きで。頭でっかちで素直になれないところは特に愛おしいです。

■結婚=相手を思い合って生活していくというのはすごく素敵

──お相手のコリー役は高田夏帆さん。お芝居の印象はいかがですか?

とにかくかわいらしい方ですね。見ていると癒されます。今回が初舞台ということで、彼女なりのトライもいろいろあると思うのですが、食らいついてくる感じはコリーの強さにも通じるところを感じます。

──加藤さん演じるポールと、高田さん演じるコリーは、どのような夫婦になりそうですか?

全然噛み合わない夫婦ですね(笑)。でもお互いに愛していてお互いをすごく好きなんだなというのが、見ていて伝わってくるような夫婦になれたらいいなと思います。

──新婚夫婦役を演じることで、ご自身の結婚観に変化などはありましたか?

僕は結婚していないのでわからないですけど、結婚って難しいなと思いましたね。結局は他人同士じゃないですか。でも寄り添って、一つの家庭を作っていく。しかもポールとコリーは真逆の人間なので、分かり合えないところはたくさんあって。「お互いが一歩ずつ歩み寄ればうまくいくのにな」と思うようなふたり。でも「裸足で散歩」をやっていく中で、100%譲り合うことはできないにしろ、ちょっとした優しさや寄り添う気持ちで、人って変われるんじゃないかなと思いましたし、相手を思い合って生活していくというのはすごく素敵なことだなと思いました。僕自身はもともと結婚願望はあるので、それは変わらずです。

──そのほかの共演者として、松尾貴史さんや戸田恵子さん、本間ひとしさんといったコメディ実力派の面々が名を連ねていらっしゃいます。稽古場の雰囲気はどのようなものですか?

もうね、ずるいです(笑)。皆さん、どうやったら面白いのかというのを理解していらっしゃるので、一言一言も面白いし、歩き方、居方、佇まいがもう面白いんですよ。特に僕は戸田さんと絡むシーンが多いのですが、言葉運びが絶妙で。松尾さん演じるヴェラスコさんも、そもそもヴェラスコさん自身が面白い人ですし。まだ稽古の段階なので、本番中に毎回何が起こるのか……怖いです(笑)。

──では、改めて舞台「裸足で散歩」の見どころを改めて教えてください。

古びたアパートで起こる夫婦の試練や、彼らが乗り越えていく姿を見ながらクスクス笑って、最後には温かい気持ちになっているような、そんなハートフルコメディになっていると思います。ぜひ気軽な気持ちで観に来ていただけるとうれしいです。

■『テニミュ跡部景吾は“原点”「僕自身が彼のファン」

──加藤さんはミュージカルやストレートプレイ、2.5次元舞台、音楽活動、声優活動など、マルチに活躍されています。様々な活動をすることは、ご自身にどのような影響を与えていると感じていますか?

すべて“表現をする”ということは共通していますが、現場現場で得るものが違って。何よりも一番大きいと思うのは、ミュージカルで喉や声帯の使い方を理解したこと。それによって自身の音楽活動の幅も広がったのは僕にとって大きな収穫でした。最近だと声優のお仕事をさせていただくようになって、例えばため息一つにも感情があるとか、呼吸一つにも表現方法がいくつもあるとか、息の使い方を学びました。それを経てお芝居の現場に来ると、息遣い一つひとつの細かいことにも意識がいくようになって。あとは、各ジャンルで生きている方の人の話を聞くのも面白いですね。声優さんは声優さんのお仕事の仕方があって、お芝居の取り組み方も違うので、各現場でいろいろな人の話を聞いています。

──今年の7月には「テニプリソニック2022 -おてふぇす in 日本武道館-」に出演し、「新テニスの王子様」で跡部景吾役を務めた高橋怜也さんや、ミュージカルテニスの王子様」1stシーズンで共演していた城田優さんとデュエットをして大きな反響を集めました。ご自身の舞台デビュー作でもあるミュージカルテニスの王子様」や、跡部景吾という役は、今の加藤さんにとってどのような存在ですか?

「原点」ですね。当時はお芝居をしているという感覚はあまりなくて、部活動の延長線上のようでしたけど、初めて役者として舞台に立った作品ですし。あれがあったからこそ加藤和樹を知ってくれたという人も多い。すべての始まりですね。

──ひさしぶりに跡部景吾としてステージに立ってみていかがでしたか?

テニスの王子様」という作品の偉大さを感じました。ファンの方達がどれだけこの作品を愛しているのかがわかりましたし、そこに出ているキャストの皆さんも、とにかくみんなテニプリが大好きなんだなというのが伝わりました。跡部景吾としてステージに出させていただくたびに、ファンの皆さんにとっても、もちろん僕にとっても跡部景吾がすごく大きな存在なんだなと認識するんですよ。自分が演じたからといって彼は自分のものではないですし、僕自身が彼のファン。その想いはずっと持ち続けたいと思います。自分の中で彼の存在はなくならないので、この先もずっと大事にしていきたいです。

■嘘を本物にするのが我々役者の仕事

──すべてのお仕事に、“表現する”ということが共通しているとおっしゃっていましたが、加藤さんが表現する際に大切にしていることはありますか?

押し付けにならないようにしたい。あとは、そこに嘘がないようにしたいと思っています。お芝居って、言ってしまえば全部嘘なんですが、それを本物にするのが我々役者の仕事だし、その人物があたかもそこで生きているかのように見せるのが演技。そうしないとお客さんには届かないし、感動もしてもらえないし、笑ってももらえない。だから自分自身がリアルに体感して、体現するということは大事にしています。それは歌にも言えることで。曲の世界をどう表現して、どう伝えるか。そこはすべての仕事において、すごく大事にしていますね。

──加藤さんはこれまで様々な作品に出演し、様々な役を演じられてきましたが、今後やってみたい役などがあれば教えてください。

ホラーのミュージカルって、あまりないと思うのでやってみたいですね。あとは和物のミュージカル。この間ミュージカルるろうに剣心 京都編」には出演しましたけど、原作ものではない、本格的な時代劇もやってみたい。それこそミュージカル「キングアーサー」が控えていますけど、そこでは初めて西洋の立ち回りに挑戦するので、それも楽しみです。

■取材・文/小林千絵

撮影/入江達也

舞台「裸足で散歩」でコメディ初挑戦の加藤和樹/撮影=入江達也