海外財産に関する税務調査が急増していることをご存じでしょうか。税理士法人ベリーベスト・佐下谷彩代税理士が、税務調査が急増している背景や要因、対策について解説します。

緊急事態宣言解除後、税務調査が急増

緊急事態宣言下においては、税務署職員も交代でリモートワークを実施するなど、このコロナ禍の約2年弱、税務調査の頻度は激減していました。

あったとしても訪問、対面での調査はコロナ感染予防の観点から難しく、書面でのやり取りで調査を終了するという内容も目立っていました。

しかし緊急事態宣言解除後、この数ヵ月で一気に急増したのが、対面での税務調査のお知らせです。

そして対面調査の増加とともに、指摘事項として増えているのが個人、法人で保有する国外財産に関するものです。

海外に投資を行っている投資家にとって気になる「国外財産に関する税務調査の内容」を、シリーズ形式でお送りいたします。

「国外財産に関する税務調査」が急増した背景

ではまずは、なぜ、国外財産に関する調査が増えているのか、ここから掘り下げていきましょう。

すでにご存じの方も多いかと思いますが、数年前から話題になっている国税庁の進める「CRS」に基づく自動的情報交換制度が大きな要因となっているといえるでしょう。

CRSとは各国が非居住者の金融口座の情報を、他国の税務当局との間で自動的に交換する仕組みで、経済協力開発機構(OECD)が策定してスタートしたものです。口座保有者の個人情報や口座残高などが対象になっています。

これにより日本の税務当局は、日本居住者の保有する海外口座の情報を入手することが可能になりました。平成30年からスタートしたこの仕組みですが、当初は新規開設口座、ないしは口座残高が1億円超の既存個人口座のみを交換対象としていましたが、令和元年より既存の個人の低額口座および法人口座も対象となりました。

またこれらに加え、金融機関が非居住者に対して支払う利子や配当、株式の譲受対価等の情報も法定調書情報として各国税務当局と自動交換をしています。

国税当局はこれらで取得した情報を、過去分の確定申告書や国外財産調書など、すでに保有している資料情報等と照らし合わせることで、税務調査を積極的に繰り広げているのです。

コロナ禍において、これまでのように税務調査ができない間、CSRを活用した情報収集、照合の作業時間に充てていたのかもしれません。

これらで収集した情報をもとに、緊急事態宣言解除後、満を持して税務調査へと踏み切ったといえるでしょう。実際にコロナ前と比べると、富裕層に対する税務調査においては、圧倒的に国外財産に関する指摘事項が増えたと感じております。

税務調査を招いてしまう「トリガー」

では実際に調査に踏み切るトリガーとなるものはどんなことなのか、実際にあった事例をもとにまとめていくと、以下の3点に集約されるように思います。

●提出要件にあてはまるはずの個人から国外財産調書が提出されていない場合

●海外口座において所得があるはずなのに申告書の所得に反映されていない場合

●使途不明な国外送金がある場合(国外財産調書がすでに提出されていても)

これらをトリガーに海外口座外での資産運用や申告漏れ租税回避を指摘し、防いでいく流れとなっています。

事前にできる税務調査対策

特にやましいことはしていない、けれど税務調査は避けたい、投資家の皆さまが考えることかと思います。ではどんなことに注意をして今後の申告を進めていけばよいでしょうか。以下の3点を確認してください。

1)国外財産調書の提出の要否を確認する

日本の居住者が12月31日時点において合計5000万円超の国外財産を保有している場合には、国外財産調書を作成して、その年の翌年3月15日までに所轄の税務署に提出しなければならない制度です。

よく勘違いされる点としては、資産が1億円で、借り入れが1億円の場合など、資産と債務を相殺しての5000万円ではない点にも注意です。資産の価額の合計額が5000万円を超える場合には必ず提出が必要となります。

また、確定申告の必要がない(申告すべき所得がない)場合でも提出が義務付けられているため、お子さま名義や奥さま名義で塩漬けにしている口座、資産などがある場合には要注意です。

2)動かしていない海外口座に動きがないか確認をする

実際に現地で事業や投資活動をしていない場合でも、塩漬けにしている預金口座に対して利息等の入金があることがあります。

日本では預金利息入金時に税金が源泉徴収されていますので特に申告は不要です。しかし海外口座の預金利息は現地の税金が源泉徴収されることはあっても、日本の所得税まで源泉徴収してくれません。この点をご存じない方は意外と多いので要注意です。

低金利が続く日本とは違い、預金利息もかなり大きな額になっているケースもあります。そんな予想外の所得がないか、今一度確認をしておきましょう。

3)適正な送金に関しては使途がわかるように書類を残しておく

税務調査に入った場合にはどのような送金だったのか、データの開示を必ず求められます。購入した商品の明細、出資の契約書など今一度お手元の資料の確認、整理をしておくことが重要となります。

佐下谷 彩代

税理士法人ベリーベスト 税理士

一般社団法人海外財産を守る会 コンサルタント

(※写真はイメージです/PIXTA)