公開から1週間で104万アクセスを突破した、キウイブラザーズの“ヘルシーな生活”に密着できる世界初の24時間ARライブが、いま大きな話題を集めている。新型コロナウイルス第7波で高まるフルーツ需要に応えるべく、ゼスプリ インターナショナル ジャパン株式会社は、ARライブ配信で楽しく健康について考える企画を生み出したというわけだ。

 そこで今回は、24時間×ARという特殊な企画が誕生した経緯や、キウイブラザーズについての思い、細部までこだわっているクリエイティブの裏側や、ライブ配信をする上で意識していることなどを、株式会社電通の北田有一氏(Creative Director)と諸星智也氏(Creative Technologist / Digital Experience Designer)、AbstractEngineの石井達哉氏に聞いた。

【写真】キウイブラザーズの“24時間配信”で使用しているジオラマを実際に撮影してみた

〈商品が変わらないからこそ、人々の生活に溶け込むように〉

ーーまずは、この企画を立ち上げた経緯を教えてください。

北田有一(以下、北田):“キウイブラザーズで新しいことをしよう”という話から、始まりました。もともとは、テレビCMや広告など、伝統的なメディアを通したアプローチをすることが多かったんです。でも、キウイフルーツって、商品が変わらないんですよね。たとえば、スマートフォンなんかは毎年新しい機種が出るじゃないですか?

ーーたしかにそうですね。

北田:なので、新しいものを打ち出していかなければ、古いものとして捉えられてしまうという危機感があって。

ーーそのなかで、24時間のライブ配信という表現に注目した理由は?

北田:新型コロナウイルスが流行したことで、メタバースやライブ配信などデジタル上での交流が必要不可欠になりましたよね。直接会うことができなくても、人と触れ合うことができる。そこに、引力があるなと感じたんです。もし、キウイブラザーズがなにかデジタルで人と交流するとしたら、24時間でやりたい。それも、1ヶ月以上続けたいと思っていました。

ーーそれは、どうして?

北田:キウイって、「今週発売です!」というわけではないじゃないですか。だから「朝も見たけど、夜見たらどうなっているんだろう?」とか。人々の生活に溶け込むようにしたかったんです。いつ行っても、コミュニケーションが取れるような。

ーーそこから、24時間×ARという特殊な企画が生まれたのですね。

諸星智也(以下、諸星):CMの世界観を崩さずに、ライブ配信をするには? と考えた結果、ジオラマとARを組み合わせるのがベストだろうという結論に至りました。フルCGでやる選択肢もありましたが、やっぱりクラフト感を追い求めたかったんですよね。リアルで作ったような手触りのある感じの。

ーーたしかに。だから、温かみを感じるのかもしれません。

北田:実は、テレビCMコマ撮りで撮影しているんです。

ーーそうだったのですか!

北田:コマ撮りアートディレクターの関戸のアイデアだったのですが、生鮮食品なのに、全部をCGにしてしまうと、作り物感が出てしまうだろうと心配しました。自然の食品なのに、美味しそうに見えなくなるのではないかと。

ーーなるほど。

北田:なので、自然で身近なものに見えるように、どこかでアナログ感を出したいと考えていました。それが、温かみにつながっているんだと思います。

ーーそうなると、フルCGよりもかなり縛りが多かったのでは? とくに苦戦されたことはありますか?

諸星:そもそも、どういう体験にするべきなのか? というのが、最初に出てきた課題でした。いきなり技術の壁にぶち当たったというよりは、まだ誰もやったことがない企画へのアプローチがむずかしかったです。ユーザーが、どのような感じで参加してくれるのか? とか。何かを参考にしようにも、するものがないので……。たとえば、ずっと同じアングルキウイブラザーズを見ているだけだと、水槽のなかの魚を見ているみたいになってしまう。それなら、アクションごとにいろいろなアングルで世界を見られるように、視点を変えてみようか? など。一つひとつ体験と技術の実現可能性の塩梅を検証しながら、進めていった感じです。

ーーエンジニアの石井さんは、いかがでしたか?

石井逹哉(以下、石井):キャンペーンサイトのコメントから採用されるアクション数は、数十パターン近くあるんです。それらの組み込みや、AI制御システムの作成。とにかく、パターンが多くて大変でした。あとは、ミニチュア内でより見栄えのいいアングルを探すために、ロボットアームの調整をしたり、アングルごとのライティングを調整するのも苦戦しましたね。24時間&1カ月という長期にわたるライブ配信は、経験がなかったので、本番直前にPCが壊れたりしないかな……と、しびれる瞬間も多々ありました。

ーーハード面においても、24時間&1カ月の長期間のライブ配信というのは、かなり工夫を凝らされたのではないでしょうか。

石井:長時間の配信は、システムやPCのエラーが起きないことに加えて、モーションキャプチャー、トラッキングの精度が求められます。トラスにクランプで装着しているモーションキャプチャーカメラは、自身の自重などでずれてきてしまうため、週に一度キャリブレーションを行っています。

ーー小さなジオラマだからこその、むずかしさも?

石井:ありますね。ミリ単位の精度を維持しないと、ふだんの合成よりも違和感が出てしまうので。

ーーCGまわりの制作やシステム制御には、どのようなソフトを使用されたのでしょうか。

石井:今回のプロジェクトは難度が高いので、合成の精度やクオリティーを上げるために、多くのソフトを使用しました。まず、キャラクターの合成に使ったのは、『Unreal Engine』というゲーム制作にも使用されるソフトウェアです。現実空間とCG空間の位置合わせ、カメラ映像の取得・ロボットアームの制御などに使用したソフトは、『OpenFrameworks』。ロボットアーム先端に取り付けたマーカーのトラッキングには、『OptiTrack』という光学式モーションキャプチャカメラ。その他、時間帯ごとに変化するDMX照明のコントロールやジオラマ内のソファーやベットの仕掛け制御などに『MaxMsp』。BGMとシンクしながら各アクションSEを再生するのには、『Ableton Live』を使用しました。

〈究極のゴールは、キウイブラザーズ自体をインフルエンサーにすること〉

ーーキウイブラザーズがソファーに座る際のへこみなど、とても精巧に作られていることが伝わってきます。

石井:ソファーに関しては、台の下に、ワイヤーのようなものを入れて、下から引っ張っています。CGのキャラの動きに連動する事で、どこまでがCGなのか実物なのか、うまい具合にMixさせることができました。この仕様に気づくと、さらに面白く見えるのではないかと思います。

ーーそんな仕掛けが……! そのほかに、意識されたことはありますか?

諸星:ライティングも時間によって変えていますし、BGMにもこだわっています。長時間のライブ配信なので「チル系の方が心地いいかな?」と思ったのですが、アガる健康法をテーマにしているので、いい塩梅を探しつつ。総じて、この世界のどこからから、ほんとうにキウイブラザーズがライブ配信をしているかのような感覚を味わえるような体験を目指して演出や仕掛けを考えていきました。

北田:楽しく健康に、というブランドの考えを、どのように24時間のライブ配信で伝えていくか? ということも考えていました。

ーーユーザーの平均視聴時間も関わってきそうですね。

北田:鋭いですね。そこ、僕らも賭けだったんです。デジタルのキャンペーンって、初日にいっぱい来てしまって、だんだん少なくなることが多いじゃないですか。だけど、毎日ちょっとずつ新しい人が来てくれるという状態を作りたかった。サイト誘引の仕方も、工夫していました。あまり、一気に人が増えないように。

ーーそこまで、意識されていたのですね。

北田:はい。コメントも、これくらいのスピードだとストレスがないとか。みんなが、楽しめるように。自分の意見を入れたら、採用されそう!と思ってもらえるくらいを目指していました。いまは、30分~1時間滞在してリクエストし続けていれば採用されると思うので、わりと理想の形になっていますね。

ーーでは、最後に。今後、キウイブラザーズを通してやってみたい施策を教えてください。

北田:ずっとこだわっているのは、キウイブラザーズが同じ世界にいると思ってもらえるようにすること。芸能人やインフルエンサーのような感じで見てもらえるようになるのが、究極のゴールです。そうすると、彼らが発信する内容に説得力が生まれると思うんです。そこから、YouTuber的な活動ができるかもとか、映画を制作してみようとか。どうしたら、もっとキウイフルーツキウイブラザーズを好きになってもらえるかを考えていきたいです。令和の企業キャラクターとして、もっと成長させることができればうれしいですね。

(取材=中村拓海/構成=菜本かな)

キウイブラザーズの24時間ARライブより