J-WAVEがこの秋新しく立ち上げるイベント『INSPIRE TOKYO』の魅力を掘り下げる短期集中連載のラストに登場してくれるのは、フィメールラッパーで、J-WAVEの番組『SONAR MUSIC』(月〜木 22:00-24:00)のパーソナリティも務める、あっこゴリラ6月1日にリリースしたEP『マグマ I』で目指した彼女の表現を紐解きながら、ライブへの想いを聞いた。

カオスをそのまま受け入れる

――EP『マグマ I』リリース後のツアーが終わったばかりですよね。いかがでしたか?

最高だったんですけど、正直やり足りないって感じですね。でも9月は『INSPIRE TOKYO』も含めてイベントがたくさんあるので楽しみです。今までライブはずっと我慢してきたので、今年はようやくっていう感じですね。

――『マグマ I』は、ご自身を曲に溶かし込んで表現していくという方向性の作品だと思うんですけど、そのアプローチがすごくライブに近いなと感じました。

その通りです。うれしいですね。

――だからそこには先ほどおっしゃった、2年間思うようにライブができなかった気持ちの部分が注ぎ込まれているのかなと思いました。

ライブって自分はこういう人間である!というよりも、自分を壊すとか溶かすとか、そんな感覚になるんですよね。縮こまっていたものが空っぽになっちゃったりとか、曲が育っていったりとか。曲が育つっていうのは、やりながら「あ、この曲ってこういう曲だったんだ!」って気づくことがライブではあるんですよ。だからその“育てたい”っていう感覚を大事にしたい、というか、自分を育てたい、みたいな(笑)。なんて言うんだろ、簡単に決めなくていいっていう。揺れている状態のままでいるというか、カオスをそのまま受け入れるっていう感じ。

――単純な理解みたいなものって壁になったりしますもんね。

そうそうそう。何かをわかりたいっていうのは欲望として大きいから、本当はよくわからないんだけど、自分にとって都合の良いわかりやすい経路みたいなものを提示されると、それだ!って自分も思っちゃったりするし。そういうのじゃない方法というか、あえてわかりづらくしたかったっていうのは『マグマ I』をつくるときに意識しました。

――簡単に答えを出す前にもっと考えたいっていうことでしょうか?

うん。考えたいし、考えてほしいしっていう感じかな。うーん……、すみません、うまく言えない。まだこの作品に関して、一度もうまく言えたことがないんですよ(笑)。

――さっきの話に戻ると、ツアーを経てわかる部分もあった?

もうちょっとやらないとって感じですかね。あのう、最近ryuchellが炎上したじゃないですか?

――はい。“夫”としての生き方をしていく中で“本当の自分”と“本当の自分を隠すryuchell”との間に少しずつ溝ができていった、というやつですよね。

そう。あれすごい思うことがあって。自分も性自認がずっとあやふやだから共感するし勇気ある行動だなと思ったし。同時に、1コ何か選択をしたら、いろんな社会の弊害みたいなのが見えてくるんですよね。選ぶってすごい血みどろの作業っていうか。自分で自分のことを確認して選んでいく、自分の頭で考えることが大事だよっていうことをわたしはずっと言ってきてるんだけど、今までの作品で。そこは今も一貫して変わらないんですけど、でもそれって結構すごいことを強いるよね、みたいな。てか、そんな簡単に選べないよね、みたいな。簡単に決められないのがリアルだよねっていう感じ。これってわかります?

――めちゃわかりますよ。

だから『マグマ I』は性自認のことが結構大きいかなという気がしていますね。

――答えを求めているわけではない?

いや、答えは求めているんですよ。でも簡単に決めたくないっていうことなんです。うまいこと落としちゃおうとするじゃないですか、人間って性(さが)で。ちゃんちゃんにしたいじゃないですか。気持ちいいから。なんだけど、そこになるべく逃げないでがんばったって感じです。

精神のヒマラヤに行きたかった

――それは結構キツイ作業でしたか?

キツイっていうか、自分の中では冒険しているような感じなんですよ。自分の心の中を。受け入れるっていう気持ち。

――その冒険が可能になったのは、ラップとかヒップホップだからというのはありますよね。

そうですね、それはそうかもしれないですね。ポップスとして成立させてっていうことはあんまり考えてなかったですね。もうちょっと実験的な気持ちというか、こんなこと言ったらあれかもしれないですけど、大学生みたいな気持ち(笑)。課題を出されて、これをテーマにつくってみよう!みたいな。結構無目的というか、その感覚に近い。

――純粋に。

そう。社会的な評価みたいなところに関してはマジで無目的だった。聴いてくれた人に対して、こういうふうに作用が働いたらいいなっていうのはありますけど。そっちの原動力だけめちゃくちゃあった。

――それはやっぱり今自分の表現しようとしていることに立ち向かうには、そういうマインドに立ち戻らないとできないと思ったからですか?

そうですね。例えば普段キレイな事を言っている人が何かひとつミスったら、「ほれ見たことか!」っていう気持ちよさで叩いちゃうあの感じってあるじゃないですか。でもその感情って人間誰しもが持っているものだと思うんですよ。実際に言うか言わないかは置いておいて。わたしにもこの社会がもっと良くなってほしい、平和になってほしいって思うし、結構そういう理想の部分だけを言うことが多かったんですよ、今までは。キレイ事上等ってつもりでやってるんですけど、「じゃあ言ってるお前はどうなの?」って自分で自分にめちゃくちゃツッコミを入れまくりながら、こんなクソなのにそれでも平和を願っているよっていう、それでもはみ出ちゃってる部分、人間の持つめちゃくちゃさというか、わけわからなさというか、だから人間ってかわいいし愛おしいし愚かだし、そのぐちゃぐちゃな部分を今回は曲に描きたかったんです。本当はキレイな部分もぐちゃぐちゃな部分もトータルで描きたいんですけど、まだ未熟なんで、いったんカオスな方にズボーーって行って、で、そこを描き切らないとマグマシリーズがちゃんと終われないんです(笑)。だから自分に課題を突きつけたって感じです。

――絶賛自分の中を掘り進めている最中だ。

そうそう(笑)。自分の中に教授がいて、「お前はこことここ全部描くまで終われないよ」って言ってくる。で、生徒のわたしが、「はいやります」って。

――めっちゃ真面目な生徒なんですね(笑)。

わたし、ヒップホップにだけは真面目なんで(笑)。

――サウンドが雑多な感じになっているのも、今おっしゃったコンセプトが大きく影響しているんですか?

そうですね。そのぐちゃぐちゃな部分も全部音に混ぜ込みたかったっていうのと、もっとあっこゴリラじゃないと表現できないサウンドっていうものを追求しないとっていうのがあって、それもめっちゃ冒険でした。だから両方の冒険。精神と音と。ほんと、早く描き切りたいけど、まだまだって感じです。

――シリーズっていうのはそういうことなんですね。地図があるんだ。

自分の中でここまで描きたいっていう地図があって、でもまだ全然描けなくて。

――結構続いていきそうな勢いなんですかね?

でもワンチャン、次の『II』で描けたと思ったらそこで終われるんですよ(笑)。『I』の時に思ったのは、全然描けねーじゃん!って(笑)。これどこまでかかるんだよ! え、わたし40になっても50になってもずっとマグマ? ヤバイ!みたいな(笑)。でも、チープな言い方をすると「表現したいんだこのヤロー!」みたいな衝動にずっと突き動かされて生きてきているから、そこで笑われてもきているし、人を傷つけてもきたし、人にパワーを与えてもきたし、だからその衝動とは一生付き合っていくものなんだなっていうのはありますね。作家さんがつくるしっかりした都会的なポップスとは全然関係ないところで、山でやってる感じ(笑)。ウケるでしょ?

――いや、グッときた。今、山で叫んでるやつはカッコいいと思う。

いやマジそうなんですよね。精神のヒマラヤに行きたかったんですよね。登山家めっちゃディグってましたし。

――そうなんだ(笑)。

くっそディグリましたね(笑)。

――でも登山ってそういうことですよね。自分との闘いですもんね。

そう。ただ登りたいだけなんですよ。超ヤベーなって思って。基本的にはわたしが表現したいことって、社会においての劇薬だったり生命力の部分だったりするから。自分のヒップホップってそういうものだと思っているので。それが楽しい。その楽しいっていう部分が自分にとっての音楽のノリとかポップさだったりするんですけど、そこの部分と『マグマ』っていう謎の生命の不思議が爆発してるかんじというか(笑)。

――いやあ、よく『マグマ』ってつけたなと今ちょっと感動してます。あのジャケットのフォント含め、すごくしっくりきてる。

でしょー! しかも、“ゴリラゲリラマグマ”でいい感じなんですよ。

――あはははは! 歩んできた道が繋がった(笑)。

すんごいゴロもいいし(笑)。自分的にはめっちゃ気に入ってて。あ!今までで一番ちゃんと話せた(笑)。

――『マグマ I』は、かなり深く自分を掘り下げて表現しているにもかかわらずポップっていうのに驚かされました。

うれしい! そう、わたしポップになりたいんですよ。サウンド面では通ってきたルーツはポップじゃないんですけど、メロディはポップなのが好きなんですよ。すごい変なことやってても、なんかポップだなっていうのはすごく好きだから、そのバランスを大事にしていて。“ドープな駄菓子”っていうのがわたしの音楽のコンセプトなんですよ。それを目指しています。

――6曲目、EPの最後に収録されている「F××K GREEN」なんてまさにそういう曲だと思いました。僕はあれ、賛美歌に聴こえるから。

今もっとヤバイ讃美歌つくってる。早く『II』聴いてほしい(笑)。

――リリックをプリントして何回も読み返しちゃいましたね。

え、マジで! うれしい! 友達に「歌詞が難解」とか言われて悔しかったの。これが難解?みたいな。めちゃくちゃわかりやすいんだけどって思ってたんだけど。

――『マグマ I』に収録されている曲のリリックは、一人称も“アタシ”や“僕”が混在しているし、聴く人によって自由に受け取れるような言葉のチョイスや乗せ方になっていますよね。それがすごくこの作品自体がライブの空間を志向しているなって思えたんですよね。

あー、そうかも。みんなのカオスをちょうだいっていうか。観念的なワードで申し訳ないんですけど、“カオスを立ち上げる”っていうのが、わたしの中でキーワードとしてあったんですよ。めちゃくちゃキレイに整理整頓したいから、カオスを立ち上げるっていうことを意識しましたね。詩がそういうものだって聞いたんですよ。言葉と言葉の間のカオスを立ち上げるのが詩なんだよっていう話を聞いて。めっちゃいい! それそれ!って思って。例えば「わたしはAB型である」「練馬出身である」「女体である」みたいなものの狭間にあるものを立ち上げるっていう感覚でした。

――彫刻刀で周りだけを深く彫って輪郭を浮かび上がらせるような感じですね。

まさにそういう感じかもしれない。そうそう。だから、かなりトライって感覚で、楽しいですね。苦し楽しい。わりと好きなんです、そういうの。

――ライブの話に戻ると、2年間我慢せざるを得なくて、今年ようやくツアーを回ったり、イベントに出演したりということができている状態というのは、実感として、戻ってきているなという感覚ですか?

その2年間っていうのは、種をまいていたのに水をあげられなかったっていう感覚だったんですよね。だから今はもう一回種をまきに行っている感覚ですかね。それが今回のツアーで、だからすぐに水をやりに行きたいなって感じです。わたし、J-WAVEの『SONAR MUSIC』っていう番組をやらせていただいているんですけど、そこでゲストに来てもらった人たちの告知を聞いたりしてると、えー、そんなにライブやってんの? なんでなんで!? いいないいな!ってずっと思ってたもん(笑)。

――でも9月は出演するイベントがたくさんありますから。

ほんとよかったー! マジでこのまま死ぬかと思った(笑)。ライブできなかった期間、みんなそうだと思うけど。

――ところでJ-WAVEのイベントに出演するのって初めてなんですよね?

そうだよ! ひどいよ! 3年も番組やってるのに! これは声を大にして言いたい!(笑)。

――『INSPIRE TOKYO』9月18日(日) の3rd STAGE(代々木第二体育館)でChilli Beansとの対バンですね。

この間、Chilli Beansの3人と会った。めっちゃかわいかった。音楽もかっこいいし、すっごい楽しみです。彼女たちは3人歌えて、3人曲がつくれるんで、超強いですよね。

――最後に、『INSPIRE TOKYO』に向けて、お決まりのやつをいただいてもいいですか?

意気込み?

――そう(笑)。

遅刻しないようにしないと(笑)。(※この取材に遅刻して来たという前フリがありました)

――はははは。

パンとカレーが食べられるらしくて、それが楽しみ(笑)。あと、自分の夫がKANDYTOWN(2nd STAGE・代々木第一体育館)にいるんですけど、同じ日に出るんですよ。でも、会場が違う!みたいな(笑)。観れるかなー。でも他の人のライブも極力観たいし、マーケットも全力で楽しむ!

Text:谷岡正浩
Photo:小境勝巳

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<リリース情報>
ミニアルバム『マグマ I』

【収録曲】
1. マグマ
2. GANANIKA
3. ネイチャーキングコング
4. バッドチューニング
5. EVERGREEN feat.柴田聡子
6. FxxK GREEN feat.永原真夏

配信リンク:
https://nex-tone.link/A00099329

<ライブ情報>
J-WAVE presents INSPIRE TOKYO ~Best Music & Market』

2022年9月17日(土)・18日(日)・19日(月・祝)
会場:国立代々木競技場 第一体育館、第二体育館、外周エリア(あっこゴリラは19日(月・祝) 国立代々木競技場 第二体育館に出演)
※MARKET AREAは10:30~20:00(入場無料)

チケットはこちら:
https://w.pia.jp/t/inspire-tokyo/

イベント公式サイト:
https://www.j-wave.co.jp/special/inspire2022/

『shima fes SETOUCHI 2022』

2022年9月17日(土) 直島つつじ荘

■出演
奇妙礼太郎 / ROTH BART BARON / 塩塚モエカ / MONO NO AWARE / MIZ/荒谷 翔大(yonawo)/ NABOWA / 磯部正文(HUSKING BEE)/ DJ やついいちろう / オニ(あふりらんぽ)/ あっこゴリラ(バンド編成)/ Peace-K [(仮)ALBATRUS] / THE BED ROOM TAPE / 田ノ岡 三郎 / コイチ(ex. SAWAGI)/ 直島アゲイン!BAND / DJ Shige-chang / 直島つつじ太鼓 / mim

公式サイト:
shimafes.jp

りんご音楽祭2022』

2022年9月23日(金・祝) 松本・アルプス公園

■出演
あっこゴリラ(バンド編成)/ Analogfish / 鋭児 / Kan Sano / 切腹ピストルズ / 曽我部恵一 / MONO NO AWARE / yonige / ほか

公式サイト:
https://ringofes.info/

『Pvri presents Anthem Vol. 1』

2022年9月30日(金) 下北沢BASEMENTBER

■出演
あっこゴリラ(ミニマムバンド編成)/ SAI (Ms.Machine) / Strip Joint (minimal set) / Pvri DJ:SHIVA / 1797091 (Ms.Machine / discipline)
特別展示:藤原ヒラメ

公式サイト:
https://toos.co.jp/basementbar/ev/pvri-presents-anthem-vol-1/

『GET UP KIDS』-振替公演-

2022年10月7日(金) 下北線路街「空き地」

■出演
あっこゴリラウッドベース / ビートボックス / ダンサーetc編成)/ STILL BALLIN

『Climate Live Japan - COUNTDOWN 2030』

2022年10月6日(日) 渋谷WWW / WWW X

■出演
あっこゴリラ(バンド編成)/ ermhoi / 春野 / 碧海祐人 / KOM_I / TAMTAM

『GOOD VIBRATIONS vol.5〜東京〜』

2022年10月21日(金) 新代田FEVER

■出演
あっこゴリラ+ D.P.D.G / チャラン・ポ・ランタン / オカモトショウ(OKAMOTO'S)
DJYoshimoto Tsunahiko
LIVE PAINTING:NAZE

『GOOD VIBRATIONS vol.6〜大阪〜』

11月13日(日) 南堀江qupe

■出演
あっこゴリラ(バンド編成)ほか

<プロフィール>
ドラマーとしてキャリアスタートし、バンド解散後、2015年よりラッパーに転身。2017年CINDERELLA MC BATTLEで優勝。2018年、美や性や生の多様性をテーマにした1stアルバム『GRRRLISM』発表。2019年よりJ-WAVESONAR MUSIC』メインナビゲーター就任。独立し、2022年合同会社ゴリちゃんカンパニー設立。人気アニメ『かぐや様は告らせたい』第5話EDに楽曲提供するなど精力的に活動中。2022年「マグマシリーズ」始動。ゴリラの由来はノリ。

■関連リンク
https://lit.link/akkoakkogorilla

あっこゴリラ