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 新型コロナウイルスのパンデミックは、世界を大混乱に陥れ多くの犠牲者を出した。2年半が経過し、我々はウイルスとの共生を模索中だが、危険なウイルスは新型コロナだけではない。

 このほど、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は、新たなウイルスのパンデミックにどう備えるべきかを包括的にまとめた報告書を発表した。

 それによると、次に大流行する可能性があるのは5つのウイルスグループだという。

 世界に甚大な影響を与えるパンデミックを防ぐにはどうすればいいのか? 報告書は、まずはウイルスとその宿主について学ぶことを推奨している。

【画像】 1. コロナウイルス科

 オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の専門家たちがパンデミックを懸念する5つのウイルスグループは以下のとおりだ。

感染症新型コロナウイルス感染症COVID-19)、中東呼吸器症候群MERS)、重症後天性呼吸器症候群SARS

 最初のヒトコロナウイルス(229EとOC43)は、1965年1967年に発見された。軽い風邪のような症状や胃腸炎になるだけで、それほど深刻なものではなかった。また家畜の感染や動物実験からも、命に関わるような感染症ではないと考えられていた。

 1995年に登場したHKU-1株もまたしかりだ。ところが、2002年に中国で重症後天性呼吸器症候群SARS)が流行して、この見解が間違いだったことが判明する。

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 長いRNAゲノムを持ち、最大で30の感染タンパク質の情報をもつ。感染性のウイルス粒子を作るのは4、5個の遺伝子だけだが、免疫反応を変化させてしまうため、このウイルスによる感染症は厄介なものとなる。

 また、ゆっくりだが着実に突然変異が起きるため、スパイクが変化し、新しい細胞に感染する力を獲得する。

 「コロナウイルス科」の仲間は、さまざまなニッチ(生態的地位)に存在するが、一般的なのは哺乳類の2割を占めるコウモリだ。

 そこで出現した変異株が、ハクビシンなどほかの哺乳類に感染し、そこからさらに人間に流出する。

 ゲノムの分析からは、まだ知られていない株がニッチで循環していることが明らかになっている。温暖化の影響で、そうしたウイルスの感染経路が交わるようになる恐れがある。

 また、新型コロナが世界的に流行したことで、ミンク・ネコ・イヌ・オジロジカといったほかの動物でも感染例が確認されている。

 コロナウイルスはそうした新しい宿主や、エイズ患者のような免疫に問題を抱えた人たちの中でさらに進化し続ける。それはまた新たな変異株の発生源になる可能性もある。

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伝染性気管支炎ウイルスの電子顕微鏡写真 / image credit:public domain/wikimedia

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2. フラビウイルス科

感染症デング熱、日本脳炎、ジカ熱、西ナイル

 「フラビウイルス科」のグループは、デング熱、日本脳炎、ジカ熱、西ナイル熱など、さまざまな感染症を引き起こす。

 症状は発熱・発疹・関節の痛みなどで、普通は命にかかわるようなことはない。ただし重症化したり、合併症を引き起こしたりするケースもある。

 たとえば、日本脳炎は脳の炎症を起こし、ジカ熱は先天性異常の原因になる。

 フラビウイルスはどれも蚊によって媒介される。ただし、すべての蚊が同じように危険なわけではない。

 デングウイルスやジカウイルスなら、民家の近くにいるネッタイシマカやヒトスジシマカが主な運び屋だ。

 こうした蚊は、容器(プランターの皿や雨水タンクなど)や植物の隙間などに溜まった水で繁殖し、人間の血を吸うという特徴がある。

 西ナイルウイルスを媒介するのは、イエカ、ヤブカで、日本脳炎ウイルスを媒介するのは、日本ではコガタアカイエカだ。

 こうした蚊は、湿地や灌木地帯などでよく見られる。もちろん人間の血も吸うが、ウシやブタなど、このウイルスを保有する家畜からも吸血する。

 日本脳炎が、水鳥・ブタ・人間で発症するのは、まさにそのことをよく表している。また大雨や洪水は、蚊にとっては絶好の繁殖チャンスとなる。つまり感染リスクも高まるということだ。

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西ナイルウイルス/ image credit:public domain/wikimedia

3. オルソミクソウイルス科

感染症インフルエンザ

 新型コロナの前、感染症といえば代表的なのはインフルエンザだった。

 「オルトミクソウイルス科」に属するインフルエンザウイルスにはいくつかの種類(A型、B型、C型、D型など)がある。

 またA型インフルエンザウイルスは、表面のタンパク質(ヘマグルチニン)と酵素(ノイラミニダーゼ)によりさらに細分化される。

 現在、一番一般的なインフルエンザはA型インフルエンザウイルスのH1N1亜型とH3N2亜型だ。

 インフルエンザは動物からウイルスが人に流出することで流行する。こうした人間にも動物にも感染する感染症を人獣共通感染症(動物由来感染症)という。

 インフルエンザウイルスの大きな変化は、一般に鳥・ブタ・人間に感染するウイルスが新たに組み合わさることで起きる。人間はそうした新株にほとんど免疫を持たないので、世界的に大流行しやすい。

 20世紀以降、そうしたパンデミックは4度起きた(1918年、1957年1968年、2009年)。くわえて各パンデミックの間では、季節性インフルエンザが繰り返し流行している。

 インフルエンザは、ほかの呼吸器感染症ほど感染力が強くはない。だが潜伏期間が1.4日と短いため、感染の拡大は速い。

 ワクチンもあるが、その予防効果は限定的だ。オセルタミビルザナミビル、ペラミビル、バロキサビルといった抗ウイルス剤もある。

 オセルタミビルは早い段階で投与すれば、症状を24時間短くするが、重症化や合併症のリスクを軽減するかどうかは議論の余地がある。

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A型インフルエンザウイルス / image credit:public domain/wikimedia

4. パラミクソウイルス科

感染症ニパウイルス感染症、ヘンドラウイルス感染症

 「パラミクソウイルス科」は、ヒトや動物に感染するウイルスの大きなグループで、一番有名なのは麻疹とおたふく風邪だろう。

 また子供に感染するパラインフルエンザインフルエンザとは違う感染症)もパラミクソウイルスによるものだ。

 麻疹は子供にとって、とりわけ栄養失調である場合は危険な病気だ。ただしワクチンの効果は高く、2000~2014年にかけて1700万人の命が救われたと推定されている。

 パラミクソウイルスのうち、パンデミック対策において特に重視せねばならないのはヘニパウイルスだ。ニパウイルス、ヘンドラウイルス、新型の狼牙ヘニパウイルスもこのグループで、いずれも人獣共通感染症だ。

 ちなみに映画『コンテイジョン』に登場した架空のウイルス(MEV-1)もこのグループとされた。

 ヘンドラウイルスは1994年オーストラリア、クイーンズランド州で初めて発見され、ウマ14頭と調教師が死亡した。その後も、オオコウモリによって感染が広まり、ウマに感染したほか、人間でも4人の死者が出ている。

 世界的にはニパウイルスの方が重要だ。症状は軽いかもしれないが、脳炎になる恐れがある。

 初めて報告されたのは1998年バングラデシュで、以降頻繁に発生している。またニパウイルスは密接な接触によって人から人へと感染する可能性がある。

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ムンプス(流行性耳下腺炎)ウイルス / image credit:public domain/wikimedia

5. トガウイルス科アルファウイルス属

感染症:チクングニア熱、ロスリバー熱、東部馬脳炎、西部馬脳炎、ベネズエラ馬脳炎

 チクングニア熱やロスリバー熱などのアルファウイルスに感染すると、発熱・発疹・関節の痛みなどの症状が現れる。

 フラビウイルスと同じく、蚊によって媒介される。チクングニア熱の場合、ヒトスジシマカが主な運び屋で、そのためクイーンズランド州中部と北部に限定されている。

 ロスリバー熱を媒介する犯人として複数の蚊が挙げられているように、アルファウイルスはさまざまな蚊によって運ばれる。

 CSIROの報告書では、将来のパンデミック対策は、オーストラリアバイオセキュリティ対策と並行して行われるべきであると指摘されている。

References:5 virus families that could cause the next pandemic, according to the experts / written by hiroching / edited by / parumo

 
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