昨今、社会問題化している格差問題。さまざまなものがありますが、そのなかのひとつが正社員と非正規社員の給与格差です。自発的に非正規社員を選択しているのであればいいのですが、さまざまな事情から「非正規社員しか選べなかった」という人たちがいるのです。みていきましょう。

非正規社員率36.0%、手取り平均月18万円

安倍元総理の国葬について、議論が白熱しているなか、アベノミクスをいま一度考える向きもみられます。よくいわれているのが、格差拡大。よく見られる論調が「アベノミクスで非正規社員が増え、格差が広がった!」というものではないでしょうか。

ただ実際は非正規社員の割合は、アベノミクス下では頭打ち。高齢者や女性の就業者、特にパート・アルバイトが増え、非正規社員の割合を押し上げているものの、そのほかで正社員化が進んでいるのか、大きな動きはみられません。格差拡大の主張は、アベノミクスがもつ“雰囲気”なのかもしれません。

少々古いデータではありますが、総務省平成29年就業構造基本調査』によると、全国の会社役員を除く雇用者は5,583万9,400人。そのうち非正規社員は2,132万5,700人で、全体の36.0%を占めます。その内訳をみていくと、「パート・アルバイト」が1,471万7,300人で69.0%、「契約社員」は303万2,200人で14.2%、「派遣社員」は141万8,900で6.7%、「嘱託社員」が119万3,200人で5.6%となっています。

さらに都道府県別にみていきましょう。非正規社員の割合が最も高いのは「沖縄県」で43.07%。「京都府」「奈良県」「山梨県」「北海道」と続きます。一方で非正規社員の割合が最も低いのは「徳島県」で32.56%。「山形県」「富山県」「香川県」「福井県」と続きます。

都道府県「非正規社員率」上位10】

1位「沖縄県」43.07%

2位「京都府」42.47%

3位「奈良県」41.10%

4位「山梨県」40.80%

5位「北海道」40.64%

6位「滋賀県」40.63%

7位「大阪府」40.30%

8位「鹿児島県」40.26%

9位「埼玉県」40.12%

10位「福岡県」40.01%

出所:総務省平成29年就業構造基本調査』より作成

正社員になれずに50代を迎えた、団塊ジュニアの悲劇

非正規社員を語る際、正規社員との格差ももちろんそうですが、自発的か、それとも非自発的かが重要な論点です。つまり「仕方なく非正規社員」という存在が問題だといえるのです。

OECDの調査で世界主要国の「非自発的パートタイム労働者比率」をみていくと、日本は42ヵ国中22位で20.60%。パートタイム労働者のうち、5人1人は「仕方なくパートを続けている」ということです。これを前出の就業構造基本調査にあてはめると、パートは全国で1,032万4,000人。およそ200万人は「正規社員になりたい」と考えているということになります。

そんな非自発的に非正規社員を続けている人たちのなかでも問題視されているのが、団塊ジュニアの非正規社員です。団塊ジュニアは戦後の成長を支えた団塊の世代の子どもに当たる、1971年1974年に生まれの人たち。2022年時点で47~51歳になります。

団塊ジュニアは日本の人口の2つあるボリュームゾーンのひとつ(もうひとつは親世代の団塊の世代)。人口が多いだけに、その動向が社会に与えるインパクトは大きいというわけです。そして団塊ジュニアバブル崩壊後の1993年から2005年卒業で就職活動に差し掛かった「初代・就職氷河期世代」のあたる人たち。「大学を卒業したのに就職できない!」ということを初めて経験した世代です。

もちろん圧倒的に正社員として就職した人のほうが多かったのですが、望まない就職で苦労が多く、なかには社会からフェードアウトしてしまい、昨今「中高年のひきこもり」として社会問題化しています。正規社員としての道が叶わなかった人は、パートやアルバイトなど、非正規社員でなんとか生計をたてようとしました。「いずれ正社員に……」。しかし雇用環境は悪化する一方で、改善されたころには30代も半ばに。そんなタイミングで正社員になろうと思っても、需要は当時問題視されていた「ブラック企業」にしかなく……といった状況でした。

昨今、就職氷河期世代の支援が活発になってきましたが、50代に差し掛かっている人たちにどれほどの需要があるのか……はっきりいって厳しいと言わざるを得ません。

——もう人生、諦めているから

SNS上で見られる、50代非正規社員だという男性の呟き。厚生労働省令和3年賃金構造基本統計調査』によると、50代前半・男性非正規社員の月収(所定内給与額)の中央値は21万1,700円、手取りにすると16万円ほど。一方、同世代の正社員の月収は38万6,200円、手取りで29万円ほどになります。そこに賞与が加わりますから、年収にすると相当の格差となります。

50代で手取り16万円。ここから挽回し、同世代に追いつくというのも不可能。諦めの境地にいても仕方がありません。

(※写真はイメージです/PIXTA)