現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加している。

 デビューから順を追うように紹介してきた本連載。元1期生、元2期生、元ゲーマーズ組の次は2期にわたる元SEEDs組。SEEDs2期生は複数回に渡ってデビューが分かれているが、先週の春崎エアルに続くメンバーとして、今回は神田笑一について記していきたい。

【動画】あらゆる職業の方の参考になる、神田笑一の“滑舌講座”

 金色の短髪、長身で細めな体格、現在でも大人気フィットネスゲーム作品『リングフィット アドベンチャー』を使って配信していたり、日頃から筋トレなどもしっかりこなし、プロテインにも詳しく「フィットネス」にも明るいなど、インドア派が多いにじさんじ所属のバーチャルタレントの中でも健康なスタイルを志向する美丈夫でもある。

 2018年8月9日にTwitterで初ツイート8月13日にYouTubeにて初配信してデビューを果たしている。

 一人称は「私」であり、話し方も敬語が中心。糸目であり弁が回るということも影響してか、「なんかうさん臭いんだよ!」と言われてしまうこともしばしば。基本的に丁寧な応対なので落ち着いた印象がもたれやすいが、声のトーンですぐに分かるくらいに感情が表に出やすいタイプでもある。

 デビュー直後、たまたま料理前に包丁を研いでいたことをキッカケにして「包丁を研ぐ音」をTwitterに投稿。初の生配信までの数日間、包丁についてイジられ、自身のファンマークが包丁になったキッカケにもなった。

 そんな彼の初生配信は、直前に配信をしていた舞元が「パシリ包丁」とイジったところから会話へと移っていき、様々な話題に反応していくものとなった。

 今後自分がやっていきたいことを皮切りにして、自身が好きなゲームやアニメ、昔に習っていた部活や習いごとについて、この初配信までに届いたマシュマロをすべて答え、なにより自身が「にじさんじのファンである」という点について語る内容となった。

 さまざまなアルバイトをしてきた経験から解説が非常に上手く、放送関連について学んだこともあり滑舌も良い。上記の初配信がいま現在からみてもクオリティが高いのも、そういった部分が要因となっているのかもしれない。

 自分がなにを話したいかを明確に理解し、とっつきやすい視点で会話を始め、ドンドンと熱を帯びて引き込んでいくトーク術。それを淀みなく、突っかかることなく進めていけるのだから、彼もまた雑談・トークのうまい人物としてファンのなかで名前があげられることも多い。

 雑談だけでなく演技やナレーションにも活かされることが多く、リスナーに向けての発声・滑舌講座を配信することもあったほど。ちなみに、にじさんじ所属のライバーらからの相談を受け付けているという話もあるほどだ。

 彼を一言でまとめるならば、すべてにおいて高水準のスペックを持った人物であるということ。アニメ・マンガ・映画の知識は豊富でマニアを唸らせ、ゲームをやらせても、歌わせても、演技をしても、トークをさせても、高水準なうまさを常に示してきた。

 ゲームは『Overwatch』『Apex Legends』といったFPS/サバイバルゲームを筆頭に、『FINAL FANTASY XIV』『Dead by Daylight』『マリオカートDX 8』『ストリートファイターV』と対人ゲームを中心にして巧みなプレイを見せてくれる。

 『Overwatch』に関してはデビュー直後から現在に至るまで折を見てプレイしており、ラトナ・プティ甲斐田晴奈羅花らとは配信外やプライベートの時間でもプレイし、仲を深めていたこともあるようだ。

 にじさんじ内外で開催されるカジュアル大会にも出場することもあり、そのたびに安定したプレイングを見せているのが実に彼らしい。

 同じガンシューティングゲームでも『VALORANT』はあまりプレイしていなかったが、2022年2月27日に開催された「にじばろカスタム」で、本間ひまわり魔界ノりりむ西園チグサ、アクシア・クローネ、神田によるチーム「おくちぽかんだ」で優勝ししている。

 彼曰く「レベル2だけども、何をやればいいか教えてほしい。1週間でなんとかします!」とメンバーらに伝え、2月23日から配信上でプレイを見せ始めてから、27日に大会本番を迎えるという短期間のなかでしっかりとプレイができるまでに仕上げていったのは、それまでの経験則やセンスの良さがあってこそだろう。

 苦手なゲームであるホラーゲーム以外であればなんでもこい! と言わんばかりの彼であるが、そんな彼がもっとも愛情を持っているゲームといえば、「アイドルマスター」シリーズであろう。

 Xbox 360用に発売された『THE IDOLM@STER』をプレイして以来、歴としては15年以上に渡って応援してきている。

 アイマスをプレイしているファンというと、現在進行している5つのブランドのなかでも1つのブランドに限ってハマり、ほかのブランドを知らないという方が少なくない。神田の場合「全作品にいちどは触れており、各作品ごとに1人は推しがいる」というレベルにアイマスシリーズを愛している。

 2020年4月後半には『アイドルマスターシャイニーカラーズ』をプレイし2021年10月14日には最新作となる『THE IDOLM@STER STARLIT SEASON』をプレイしている。

 『THE IDOLM@STER STARLIT SEASON』はかなり久しぶりに765プロダクションのメンバーを中心とした作品となったこともあり、かなり緊張しながらゲームを開始。

 「BGMを昔のものに変えられるんですよ~」とアーケード版『THE IDOLM@STER』のBGMに切り替えておなじみのあのBGMが流れると、さまざまな感情が去来してゆえかすぐに涙を流し、このあとにも事務所に入るだけで、社長と話しかけられただけで、765プロのメンバーと出会うだけで、すぐに涙を流したり嗚咽を漏らしてしまう彼の姿があった。

 涙を流し、声を震わし、鼻をかみ、嗚咽を漏らし、大きく心を乱されながら導入部分をプレイしていくその姿は、ふだんの落ち着いたイメージを持っているファンならば驚くはずだ。配信を開始して20分~30分ほどで何度も涙を流す、そんな神田笑一がそこにはいるのだ。

 その後、新作『アイドルマスター SideM GROWING STARS』のプロモーションを兼ねた雑談配信や、「ミリシタ感謝祭2021~2022」の公式ミラー配信にも参加。

 今年7月30日にGoogle Playが主催したイベント「#ゲーム愛配信祭」に月ノ美兎とともに参加するなど、自身の人生に大きくかかわってきたシリーズへの恩返しを彼なりに果たしているとも言えよう。

 マンガ・アニメ・ゲームの知識と愛深さを物語るといえば、毎週日曜朝の「スーパーヒーロータイム(SHT)」時間帯に仮面ライダーや戦隊シリーズを同時視聴する配信枠を続けている。

 2018年9月23日に『仮面ライダージオウ』の感想会を配信して以降、ちょうど5年目を迎える定期配信であるが、遅刻や休みをあまり挟まずに継続しているのは、やはり神田が健康な体を持っているからこそであろう。

 自身の3Dお披露目配信では、幕間の時間で仮面ライダー変身シーンを挟んでみたりなど、その愛深さを確認できる。

 静凛の『FINAL FANTASY XIV』の生配信をみたことでVTuberを知り、にじさんじのオーディションに応募したというエピソードがあるように、そのキッカケはとても些細であった。

 思えば彼が活動を本格的に進めていった2018年秋以降は、ゲーム配信を主にするVTuberがにじさんじのなかでも徐々に増えてきたタイミングであった。デビュー直後からいま現在に至るまで配信頻度の多さはにじさんじのなかでも上位に入り、忙しさが先立つなかではあるが現在でも週4回~6回に渡って配信しているスタンスを崩していないところに、彼が「ゲーム配信」に重きをおいてるのが伝わってくる。

 ここまではゲーム配信内での彼にスポットを置いてきたが、彼の演技が光った配信もある。

 2020年3月13日に開かれた『第二回にじメンズプロデュース企画』のなかで最後に登場した神田は、医者でありながらも患者を籠絡する役どころでバッチリとこなし、審査員役を務めていた遠北千南ニュイ・ソシエール白雪巴健屋花那はおろかリスナーをもキュンとさせた。

 これに加え、高校のころにバレエヒップホップといったダンスを学んでいたこともあり、3D配信では軽快に動き回る彼の姿をみせ、にじさんじ内の男女コンビとして名コンビ「ぐんかん」でともにする郡道美玲を抱きかかえてみせたりと、彼の配信アーカイブを覗けばさまざまエンタメを披露していることがわかるはずだ。

 このほかにも多くの趣味・趣向性を配信を通じて届け、「オールマイティ」なタレント力でファンに知らしめてきた神田笑一。「なんでもござれ」だからこそ「なにに手を付けていくのか」が楽しみだ。(草野虹)

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