宇宙飛行を行ったNASAの宇宙飛行士14人の血液を調べたところ、全員のDNAに突然変異が起きていたことがわかったそうだ。
突然変異が見つかったのは「造血幹細胞」のDNAで、「体細胞変異」と呼ばれる変異だ。
すぐに病気になるような深刻なものではないと考えられているが、宇宙線などの宇宙環境が関係すると考えられるため、引退後も含め、宇宙飛行士のキャリアを通じた健康診断の重要性を浮き彫りにしている。
この結果は、『Nature Communications Biology』(2022年8月17日付)で報告された。
「体細胞変異」とは、遺伝的なDNAの変異とは異なり,分化や生育の過程で、一部の細胞が獲得したDNAの変異のことだ。
今回確認された体細胞変異は「クローン性造血」と呼ばれるもので、単一の血液細胞から生じたクローンの割合が高くなるのが特徴だ。
クローン性造血は、過度な紫外線を浴びたり、化学療法や放射線治療などのストレスを受けたりすることで発症する。
そのため、今回調査した全員の宇宙飛行士で見られた突然変異は、宇宙線を浴びたことが原因と考えられている。
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宇宙飛行士は、宇宙線をはじめとする、体細胞に突然変異を起こす要因がいくつもある極限環境で作業します。
そのため、そうした突然変異がクローン性造血につながるリスクが高まります
と、プレスリリースで説明する。
調査対象となったのは、1998年から2001年にかけて宇宙に行ったNASAの宇宙飛行士14人。比較的短期間のミッション(中央値12日)で、6人は初めてのミッションだった。
驚くべきは、比較的若かった(中央値42歳)にもかかわらず、彼らに見られた突然変異が高齢者のものに似ていたことだ。
「観察されたクローン性造血は比較的軽微なものでしたが、比較的若く、健康な宇宙飛行士であることを考えれば驚きです」と、グーカシアン教授は話す。
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キャリアを通じた健康診断が大切
クローン性造血は、血液がんの前段階の状態で、心臓や血管の病気とも関係する。だからといって、必ずしも宇宙飛行士がそうした重い病気にかかるわけではないという。
それでも、長期間宇宙の極限環境にさらされれば、そうなるリスクは高まる。
今後人類は月や火星を目指し、より長期的なミッションに挑むことになる。そうした中、今回の研究は、引退後も含め、宇宙飛行士のキャリアを通じた健康診断の大切さを伝えてくれている。
なお宇宙飛行士の健康はちょうどタイムリーな話題かもしれない。昨年、NASAは宇宙飛行士が浴びてもいい放射線の基準を変更しようと提案したばかりだ。
それによれば、若い宇宙飛行士ほど基準が引き上げられ、また男女の違いもなくす方向で検討しているそうだ。
References:Researchers Find Spaceflight May Be Associated With DNA Mutations and Increased Risk of Developing Heart Disease and Cancer / written by hiroching / edited by / parumo
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