(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家

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「青木の法則」に近づいているのか

 政界には「青木の法則」というのがあるらしい。“参院のドン”と言われた自民党の青木幹雄元官房長官が語った、内閣支持率と与党第一党の支持率の合計が50%を割ると内閣が倒れるという見立てがそれだ。

 この“法則”なるものに照らして最近のいくつかの世論調査を見てみよう。

 まず朝日新聞だ。同紙が9月10日、11日に行った世論調査によると支持は41%で、8月より6%落ち込んだ。不支持は39%から47%に増加し、同紙の調査で初めて不支持が支持を上回ることになった。他方、自民党の支持率は3%減って31%になっている。“法則”に照らすと41+31なので72ということになる。これならまだ大丈夫のようだ。

 だが毎日新聞と社会調査研究センター9月17日、18日に行った調査結果では、大きく異なってくる。この調査では、支持率はわずか29%ととなり、ついに30%を切ってしまった。もちろん政権発足以来初めてである。不支持は64%にも上っている。自民党の支持率も前回8月調査の29%から6%低下し、23%となっている。つまり29+23で52になり、内閣が倒れるという危険水域にきわめて近くなっていることになる。

 もう1つ紹介しよう。時事通信9月9日から12日かけて行った世論調査では、内閣支持率が32.3%、自民党の政党支持率は22.4%となっている。両方合わせると54.7ということになり、やはり危険水域に近づいているということになる。

 いまの日本の政界には、かつての日本社会党民主党のようなそれなりに力を持った野党は存在しない。にもかかわらず、このありさまなのだ。

 もともと岸田内閣は何かやったから支持が高かったというわけではない。何もしなかったから、批判もされなかったというだけのことだった。そんな時に思い切って決めたのが、凶弾に倒れた安倍晋三元首相の国葬儀であった。これが思いっきり裏目に出てしまった。

 野党は弱小ばかりなので政権交代などということはあり得ないが、自民党内での駆け引きは、今後激しさを増していくことだろう。

説得力を欠く「国葬」決定の理由

 支持率が急降下し、不支持率が急増している理由を探り当てるのは難しくない。この間、何か大きなことがあったとすれば、それは2つだ。安倍晋三元首相の国葬儀を早々と決定したこと。それと旧統一教会自民党の腐れ縁が次々と発覚し、安倍氏と旧統一教会の関係がきわめて深いものだったということが明らかになったことだろう。

 岸田首相が安倍氏の葬儀を国葬とする理由としてあげたのは、次の4点である。(1)憲政史上最も長く首相を務めたこと。(2)震災復興、日本経済の再生、外交などで歴史に残る業績をあげたこと。(3)諸外国からの弔意が多いこと。(4)選挙中の非業の死であり、暴力に屈しない、民主主義を守る姿勢を示すこと──である。

 説得力を欠くことは否めない。佐藤栄作元首相は、死去当時もっとも長く首相を務めた人であり、ノーベル平和賞の受賞者でもあった(個人的には、主観的な判断が入るノーベル平和賞ノーベル文学賞は不要だと思っているが)。安倍元首相は経済再生や外交で歴史に残る業績をあげたというが、いまの日本経済の落ち込みにアベノミクスは何の関係もないのか。

 日本の平均年収も世界に大きく立ち後れている。OECD(経済協力開発機構)が調査する平均賃金のデータによると、2020年の平均賃金1位はアメリカで6万9392ドル。日本は22位の3万8151ドルである。18位の韓国の4万1960ドルにも水をあけられ、OECD加盟国の平均4万9165ドルをも下回っている。しかも日本と世界との格差は、広がり続けている。

 正規雇用者数はこの十数年、減るか横ばい。アルバイトパートなどの非正規雇用だけが増え続けている。この現実を岸田首相はアベノミクスの輝かしい成果と言うのだろうか。

 外交に関しても、プーチンとの北方領土交渉などは大失敗そのものだった。譲りに譲ったあげく、何も得るものはなかった。プーチンにもてあそばれただけであった。

 なぜこれほど国民の国葬反対世論が増加し続けるのか、岸田首相はまったく想定外であったろう。私も想定外であった。これほどまでに国民の意思と内閣の意思の間に乖離があるというのは、それこそ民主主義にとっての危機だと言わなければならない。いずれにしてもその責任は岸田内閣が負うしかない。

「汚職まみれ」東京五輪の後始末

 東京五輪組織委員会の高橋治之元理事が受託収賄容疑で逮捕されたというニュースに接したとき、「やはり」と思ったのは私だけではあるまい。東京五輪スポンサー約80社が負担した協賛金は約4300億円にのぼる。この選定に強い権限を握っていたのが高橋容疑者と広告最大手の電通である。高橋氏は電通の元専務、顧問だった。

 高橋氏は東京五輪を喰い物にし、賄賂を受け取る気も満々だったのだろう。自らは「コモンズ」というコンサルタント会社を立ち上げ、電通時代の後輩には「コモンズ2」という会社を立ち上げさせていた。コモンズというのは、「入会地(いりあいち)」(共同で管理・利用される土地)という意味の英語“Commons”なのか、日本語の「顧問」をもじったのかしらないが、「コモンズ2」を賄賂受け取りの窓口にしていた。

 電通の社員手帳に「鬼十則」が載せられていたことは有名だ。鬼十則には「仕事は自ら創るべき」「大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする」「取り組んだら放すな、殺されても放すな」等々、猛烈な言葉が書き連ねられている。9月16日朝日新聞の天声人語が、「仕事」を「利権」に置き換えると「利権は自ら創るべき・・・」「大きな利権と取り組め・・・」になると揶揄しているが、まさにこれを地で行ったのが高橋容疑者なのだろう。

 紳士服大手のAOKIホールディングスから5100万円、出版大手、KADOKAWAからは7600万円の賄賂をそれぞれ受け取っていたという容疑がかかっている。広告大手の大広も1400万円の賄賂について捜査を受けている。駐車場サービスパーク24や広告会社のADKホールディングスにも疑惑が拡大している。

 パーク24の社外取締役には、前日本オリンピック委員会(JOC)会長の竹田恒和氏が就任している。この竹田氏も東京地検特捜部から事情聴取されている。

 だがこれらも氷山の一角に過ぎない。報道によれば、招致に際し、東京五輪招致委員会(すでに解散)から高橋元理事の側に9億円近い資金が渡っていたという。高橋氏が東京五輪私物化していたと言われても仕方あるまい。今こそ電通を含めた東京五輪をめぐる利権構造を徹底的に暴く必要がある。

 そして、組織委員会の頂点に君臨してきた人物がいる。森喜朗元首相だ。森氏にもAOKIから200万円渡ったという報道もある。女性蔑視発言で組織委員会会長は退任に追い込まれたが、いまだに力を誇示しているのが森氏だ。

 森氏の影響が小さくない山下泰裕会長は、定例会見で元理事が逮捕された汚職事件について、「五輪・パラリンピック全体に対するイメージが損なわれてしまった。アスリートたちや国民の皆様を失望させてしまうことはあってはならない」と語り、室伏広治スポーツ庁長官も「東京大会は1年延期して、コロナ禍の中でなんとか行うことができた。こうして時間がたってから、こういった残念で悲しいニュース(が出て)、つらい思いをしている」と語った。

 まるで他人事である。2人とも渦中にいた。一緒に働いていた組織委員会の関係者がオリンピック私物化し、金儲けの道具に悪用してきた。それを見抜けなかった責任を明確にすべきだろう。

 森喜朗氏は、自民党最大派閥の安倍派にも大きな影響力を持っている。まだ細田派だったとき、同派に所属する自民党議員から「いまだに森さんが一番力を持っている」という嘆きを聞いたことがある。

 森氏の政治的影響力を完全に削(そ)ぐべきときだ。岸田首相がそのための乾坤一擲の手を打つことができれば大いにイメージアップするだろう。それは、森氏の胸像を建てようとする愚かで馬鹿げた行為を中止させ、札幌五輪に否定的見解を述べるだけでも十分だ。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  【舛添直言】安倍元首相の死で破られた「統一教会」「五輪汚職」というタブー

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東京五輪・パラリンピック大会組織委員会理事会に出席中の高橋治之理事(当時)(2020年3月30日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)