当たり前と言われるような常識や価値観、慣習に逆らった考えを実行するというのは、なかなか勇気がいること。しかし“みんなでやれば怖くない”とばかりに、米大学のある授業に通う学生たちは、もはや世界でも当たり前となった慣習に反する体験学習を行っているという。それは、女子学生に10週間ムダ毛の処理を止めるよう求めるというもので、逆に男子学生には処理をするように求め、それぞれ後に体験談をレポートにして提出する課題となっているそうだ。

これは、7月3日に米アリゾナ州立大学(ASU)の公式サイト内にある「ASUニュース」欄で紹介されたもの。ジェンダー研究を専門とするベレーネ・ファーズ准教授が担当する授業で、2010年から毎年学生たちに出される特別課題となっているそうだ。やるかやらないかを決めるのは学生の自由だが、課題で求められているのは、女子学生には10週間「足と腋の下の毛を剃るのを止める」、男子学生には「首から下の全ての体毛を剃り続ける」ことを体験してもらい、実際の感覚や周囲の目に対する意識など、ぞれぞれが感じた体験談を日誌として残し、レポートで提出してもらうという。

最近は、男性の中にもムダ毛を処理する人がいるようにはなったが、基本的にはひげを剃るくらいでもおかしくはない男性に対し、女性は処理をするのが一般的。ファーズ准教授は、このような現代の男女間の生活習慣の違いを実感してもらうと共に、「周りがどんな反応をするのか」を見て、いまの男女に対する社会基準を身をもって学んでほしいと考えているそうだ。

こうした機会でもなければなかなか経験できないことと考える学生も多いのか、意外にもこの特別課題には「ほぼ全員が参加する」と話すファーズ准教授。すると、世間の常識とは違う行動をしているとの仲間意識がクラス内に芽生えるいう別の効果も表れるそうで、彼らの中で課題による「新しい習慣」が受け入れられていく様を見るのは、准教授の目から見て「面白い」とも話している。そして、課題をこなす学生たちにとっても、特別課題から得られるものは少なくないようだ。

実際に課題に参加して「本当に人生が変わる経験だった」と話したのは、ある女子学生。足や腋の毛を伸ばした彼女に対し、母親から「その姿でドレスを着て結婚するのか」と言われただけでなく、大学内でも街中でも自分に対して厳しい目を向ける人が多いことに気付き、女性はムダ毛を処理していなければならないという「社会が決めた性別上の役割」の存在をとても痛感したという。

一方、以前参加した男子学生は、中には「なんで剃っているのか」と聞く友人もいたそうだが、自分としては「肌が気持ちよかった」として、男性が毛を処理することに対してポジティブな印象が残ったようだ。

「“想像”と“実際”では大きな違いがある」と話すファーズ准教授。特別課題で普段とは違う体験をして、何か体毛に対する考え方が変わる学生も少なくないのかもしれない。