最近、SNSで相手を誹謗中傷した者が訴えられて賠償請求されるケースが目立ってきました。将来的には、新型コロナワクチンに関する偽情報を流布した者が訴えられるケースが出てくる可能性もあります。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

事実か否かよりも面白さを重視している

SNSの問題:偽情報や誤情報の流布をいかに防ぐか

現代は「フェイクの時代」だと私は思っている。2016年の米大統領選挙以降に顕著になった誤情報や偽情報などの有害情報やヘイトスピーチなどのSNS上での氾濫は「ポスト真実」の時代のひとつの表れだ。

▶事実は虚偽に負ける!?

情報を受け取る者にも問題がある。人はみたいものをみて、聞きたいものを聞き、読みたいものを読む傾向がある。人々はSNSを通じて事実か否かよりも面白さを重視して情報収集し、それを好んで拡散する。また、すでにもっている先入観に合致する情報を選択的に収集し、拡散する傾向がある。SNSで同じような考えの人とつながることを好み、自分が信じたい情報を好み、好みの情報を流布することにより、フェイクニュースが急速に拡散されていく。

以上のような議論をMITの研究が裏付けている。ツイッターでの情報の拡散に関するMITの研究によると、ネット上では真実に基づく書きこみよりも誤情報や偽情報に基づく書きこみのほうが注目され、はるかに広く速く拡散する。そして、ボットではなく人間が偽情報を拡散していることが証明されている。

偽情報を信じている人々は事実に基づくニュースにふれたとしても、「正しい情報にふれた」とは思わない。彼らにとって報道の事実性はさして重要ではない。多くの人々は、明確な間違いを指摘されても、間違いを認めることはなく、自らの世界観にさらに固執する傾向がある。SNSの利用者は、信頼性の低いニュースをくりかえし投稿するサイトを共有する傾向がある。

SNS上の偽情報を削減する方策として、「徹底的なファクトチェックをする。科学的で正しいものを伝える。デマを許さないというキャンペーンをする」などはひとつの考え方だが、それだけでは偽情報・誤情報の拡散を止めることはできない。いくら正しい情報を流したところで、その情報が相手に届かなければ問題は解決しないのだ。

アテンション・エコノミー(注目経済圏)

偽情報や誤情報はいかなるメカニズムによって、広がり浸透するのか。それについては「アテンション・エコノミー」の効果が注目されている。フェイスブックユーチューブなどのビジネスモデルベースは、人々が閲覧し、クリックすることでコンテンツ提供者に収入が発生するネット広告の仕組みだ。この構造全体は「アテンション・エコノミー」と呼ばれている。

アテンション・エコノミーの理論は、米国の社会学者のマイケルゴールドハーバーが1990年代後半に世に広めたが、以下のような内容だ。

インターネットの普及などで発信される情報は爆発的に増えたが、人がもつ時間は限られる。だから人々のアテンション(注目・関心)は価値ある希少な資源となり、これを獲得するために猛烈な競争が繰り広げられる。いきおい情報の中身よりも人々の関心をひき付けること自体が優先され、真実がゆがめられる。〉

ネットで収入を得たい個人や企業は積極的に偽情報を拡散する。偽情報のほうが刺激的で面白くて、多くの人が閲覧し、「いいね」をクリックし、多くの収入を得ることができるからだ。ここにつけこんでいるのが中国やロシアなど、影響工作を展開している国家だ。

ネット上に流布する偽情報や誤情報の悪影響を抑える方法として、情報発信そのものを制限するよりも、情報拡散にともなう金の流れに着目して対処しようという考え方が広がりはじめている。発信者に広告収入を与えなければ、言論の自由を守りながら、偽情報の防止に一定の効果を期待できるのではないか。

内外の研究でSNS内のデマの震源や拡散者は少数であることがわかっている。少数者をターゲットとして、金儲け目当てのデマ情報の流布を止める方策が有効だと思う。例えばユーチューブ2021年9月29日新型コロナに限らずあらゆる反ワクチン論のチャンネルを停止するという発表に踏み切った。これには一定の効果があった。

「誰もが自由に情報発信できること」の危機

▶訴訟による賠償請求など

最近、SNSで相手を誹謗中傷した者が訴えられて賠償請求されるケースが目立ってきた。将来的には、新型コロナワクチンに関する偽情報を流布した者が訴えられるケースが出てくる可能性もある。また、偽情報や誤情報を安易に垂れ流すソーシャルメディアに対する集団訴訟の可能性もあるだろう。

偽情報の垂れ流しに対する訴訟は、安易な偽情報や誤情報の流布に対する一定の抑止手段になる可能性はある。

この際に、本当に有害な偽情報・誤情報かどうかを判断することが重要になるが、そのためには政治的に中立な第三者機関を設ける必要がある。第三者機関は、警告しても偽情報の発信をやめない常習者のブラックリストを作り、グーグルをはじめとする広告配信ネット企業やSNSと共有する。ソーシャルメディアブラックリストに載ったページやサイトのアカウントを停止したり、広告配信を止めたりすることも考えるべきであろう。

■情報戦に際して個人で対応できること

SNSには偽情報や誤情報が満ち満ちている。出所の怪しい情報をファクトチェックすることなく簡単に信じている人たちがなんと多いことか。怪しい情報を鵜吞みにする人が、米大統領選挙の陰謀論者になり、同時にワクチン陰謀論者になっている。

陰謀論の氾濫は、「誰もが自由に情報発信できること」が招いた危機である。インターネットの普及で誰もが自由に情報を発信できることは素晴らしい面もあるが、それは誰もが低品質なニュースを濫造し、発信できるということでもある。

これまでみてきたように、偽情報や荒唐無稽な主張に対するファクトチェックには限界がある。偽情報を信じる者に事実を示して説得したり、考え方の転換をうながしたりすることを目標にする限り、それが達成されることはないであろう。

しかし、強固な陰謀論者には受け入れられなくても、社会に多く存在する中間層には受け入れられる可能性はある。

ある情報に接した場合、その情報が正しい情報か否かをつねにチェックしなければいけない。私は、SNS上の情報を鵜吞みにはしない、まず疑ってかかることにしている。なぜならば、SNSは影響工作の主戦場であることを知っているからだ。

SNSを運営するグーグルアルファベット)社、メタ社、ツイッター社などは、SNS上に流布される偽情報や誤情報の排除をおこなうようになったが、改善の余地は大きい。

フェイスブック社の元社員フランシス・ホーゲンが「フェイスブック社は、会社の収益と市民の安全のどちらを優先するかという局面で、つねに会社の収益を優先させてきた」と告発した。

そして、米科学技術誌『MITテクノロジーレビュー』も、〈デマ・誤情報の多発を受けて、フェイスブックの社内AIチームが是正策を提案するたびに、経営陣が却下していた。〉と報じている。フェイスブックは、トランプ大統領をはじめとする有名人に対しては有害情報やヘイトスピーチの流布を禁じる規約を適用除外にしていた。

また、感情的なコメント付きの、シェアされやすい書きこみを優先表示するアルゴリズムの弊害について社内から指摘があったにもかかわらず、経営陣がアルゴリズムの修正を却下していたという。SNSを運営する企業の責任は大きいと言わざるを得ない。

もっとも大切なことは、我々一人ひとりが情報に対するファクトチェックをしっかりして、偽情報に惑わされないことだと思う。でないと、我々の社会や国家が分断され、国力が減じることによって、影響工作を展開している国々に資することになるからだ。

渡部 悦和 前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長 元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー 元陸上自衛隊東部方面総監

(※写真はイメージです/PIXTA)