2022年9月21日より5日間の日程で開催されている兵器展示会「DXコリア」で、韓国国産戦闘機KF-21の艦載型が模型ながら初公開されました。展示されていたのはスケールモデルですが、なぜこのようなものを作るのか、そのワケを聞いてきました。

空母ないのに早くも国産艦載機のスケールモデルが登場

2022年9月21日より韓国の首都ソウルで、韓国防衛企業が一堂に会した安全保障関連の展示会「DXコリア」が開催されています。その出展者のひとつ、韓国の防衛企業「KAI(韓国航空宇宙産業)」が、国産戦闘機KF-21「ポラメ」の艦載機型、すなわち空母搭載型の模型を世界で初めて展示、その全容が明らかになりました。そこで、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は同機について早速、ハナシを聞いてきました。

KF-21は韓国が国内企業主体で開発を進めている国産戦闘機であり、2022年7月19日には試作1号機が初飛行。近年開発されている戦闘機では一番新しい機体といえます。基本コンセプトは空軍で運用する陸上型であるものの、近年韓国は空母導入計画を発表しており、今回の艦載機型の模型展示はそれに呼応したものといえるでしょう。

ブースに展示されていた艦載機型の模型は「KF-21N」と呼称されており、模型の細部を見ると艦載機らしい特徴が随所に見受けられました。まず、主翼の端が折り畳み式になっている点、これは艦載機が空母内での駐機スペースを少なくするための定番の機構といえます。

ほかにも着艦に耐えられるよう着陸脚は太くなっており、機首下の前脚は2輪式で空母のカタパルト発艦に使うローンチバー(カタパルトと機体を接続する棒状の器具)も付いていました。また、機体下部の後方には、艦載機が着艦するときに使うアレスティングフックが付いているのも確認できました。

主翼は20%大型化 速度はちょっぴりダウン

胴体にはKF-21の特徴ともいえる半埋め込み式のミサイルが装備されていましたが、それとは別で主翼下にはパイロン(支持架)が3つあり、そこには燃料を搭載した増槽に加え、空対空ミサイル、そして韓国軍には配備されていない超音速対艦ミサイルらしき兵器も搭載されています。

それを見て筆者は、艦載機として細部が改良されているだけでなく、戦闘機としても現在開発中のKF-21の陸上型と比べてアップグレードされている印象を受けました。

KAIのスタッフに話を聞くと、KF-21Nの概要について次のように答えてくれました。

「これはコンセプトデザイン(概念設計)を模型化したものです。我々はKF-21の艦載型について以前から研究しており、それを開発することは可能だと判断しています。陸上型と比べると、アビオニクスなどは大きく変わりませんが、主翼が約20%大きくなり、着陸脚などを艦載機として運用できるよう改良したことで重量が増しています。そのため、エンジンのパフォーマンスは同じでも、最高速度が陸上機でマッハ1.8出せるのに対して、KF-21Nはマッハ1.6に抑えられています」。

わざわざコンセプトデザインと明言したのは、このKF-21Nがそのまま実機として生産されるのではなく、その可能性を提示するために作られたからでしょう。また、韓国軍が保有していない兵器を搭載しているのも、具体的な開発スケジュールによって搭載兵器の対応が決められている陸上型と比べて、艦載型はコンセプトであるがゆえの自由さの表れとも言えます。

CVX計画そのものがどうなるかセットで注視

KF-21Nに未知数の部分が多いのは、その大前提となる韓国の空母建造計画自体に不確定な要素が多いためです。もともとは独島級揚陸艦の後継艦を建造するための計画としてスタートしましたが、その後にF-35Bが運用可能な軽空母に拡大され、現在のCVX(将来空母建造)という計画名になると、カタパルト無しでも固定翼機を発艦させられるスキージャンプ装備の中型空母のコンセプト模型まで公開されるようになりました。

一方で、2022年5月に政権が交代し、尹錫悦大統領がトップになると予算が大幅に縮小され、一転して建造計画自体が不確実なものとなっています。

KAIのスタッフも「このモデルの導入先として想定しているのは我が韓国です。しかし、我々の空母についてはまだ多くのことが決まっていません」と言っており、KF-21Nは韓国の空母導入計画が今後どのように進むかで左右されるといえるでしょう。

ゆえに今回KF-21Nの模型を展示したのは、KF-21艦載機型の開発開始を意味するものではなく、自国の空母建造に対してKAIが技術的アピールをしたという方が強いと思われます。そのため、KF-21派生型の開発の行く末は、機体自体だけでなく韓国の空母計画まで含め、それら全体を俯瞰して判断すべきだと筆者は考えます。

「DXコリア」に展示されたKF-21Nのコンセプトデザイン模型(布留川 司撮影)。