模擬試験を受けることで、高校の合格に向けた作戦が立てられます。大手や中堅の塾では塾内で模試を定期的に実施しています。すなわち、模試は志望校合格へのマストアイテムといえます。塾なしで長男を志望校に入学させた塚松美穂氏の著書『「塾なし」高校受験のススメ』(プレジデント社)で解説します。

「塾なし受験」のための「模試」活用法

模試は必ず受けましょう。「塾なし」「塾あり」にかかわらず、受験生にとって、模試は必須です。模試を受ける理由は大きく三つあります。

・自分の学力が把握でき、点数を伸ばせる部分がわかるから ・結果から、今の実力、ライバルと比べた立ち位置がわかるから ・本番入試の疑似体験ができるから

この三つは、全ての受験生にとって、とても大切な要素です。模試を受けることで、合格に向けた作戦が立てられます。大手や中堅の塾では塾内で模試を定期的に実施しています。授業と並行して塾内模試や公開模試を活用して指導が行われています。すなわち、模試は志望校合格へのマストアイテムといえます。

「のんびりしている」子どもや、「微妙にやる気になれない」といった受験生にも模試はおすすめ。本番に近いかたちでの体験は刺激になります。また、1年後の受験はまだ遠くにぼんやりとしていても、近い模試を目標に設定することで、勉強を進めやすくなります。

通塾している受験生は、内部・外部模試ともに塾で手配されることが多いですが、「塾なし」受験生は、個人で中期的なスケジュールを立て、模試の計画と申し込みを行わなければなりません。ただし、これも特別難しいことはなく、家族の協力と情報収集で対応できるでしょう。

すべてにおいていえることですが、「与えられたこと」は、しばしば「なぜそれをするのか」という本質的な理由を自身で理解しないまま行っている、という現象が起こっています。理由を考えることをせずに、用意されていることを当たり前のように受け入れる状況は、受験生にも、大人の世界でさえもよくある話です。与えられたことをただ単に行うのは楽ですが、果たして、それが自らの糧かてになっているのかは疑問です。

  「なぜそれをやるのか、なぜそれを選ぶのか」

受験という中学生にとって大きな挑戦を、自身で考え決めていくその過程で、子どもたちは成長していきます。受験のエキスパートがお膳立てしたカリキュラムの先にある合格と、道筋を自分で考え選んで実行して得た合格では、同じ合格でも、意味合いはずいぶんと異なってくるのです。

どの模試をいつ受けるか、これもしっかり話し合い、息子が選択をしました。受験をプランニングしながら勉強するということは、自身の学力、得意・不得意、理解度などがきちんと自分で見えているということではないでしょうか。どうすれば成功(合格)できるのか、今、自分に何が足りなくてどう対策をするのか、そういったことを考えていく上でも、模試はたくさんのヒントをくれます。

秋になれば、模試や説明会でカレンダーの週末は埋まりました。そして、返却される模試の判定や解答を見ながら、また作戦を練る。これを繰り返すことで、合格に一歩一歩近づき、到達できたのです。では、先述した模試を受ける三つの理由を、詳しく見ていきましょう。

どうやったら得点を最大化できるか

■模試を受ける理由

  ・自分の学力の現状や、強みと弱みを知ることができるから

受験を進めていくうちに不安に思うことのひとつは、この勉強で果たして大丈夫なのか、ということでしょう。このやり方で合格できる学力がついているのか、または、合格へ正しいベクトルで向かっているのか、努力している受験生なら誰もが不安に思うことかもしれません。特に、塾なし受験を選択した受験生とその保護者は、自分たちだけで進めているので気が気ではないでしょう。

そこで、模試の出番。模試はいわば、受験勉強における方位磁石であり、また、現在地を知らせてくれるマップのような役割を果たしてくれます。どっちに進んでいるのか、どこまで進んだのかを、知らせてくれるというわけです。模試で力試しをして、学力定着の確認をすることで、自分の学力の現状を知ることができる。これは、塾あり塾なしに関係なく、全ての受験生に共通です。

特に塾なし受験では、学力がついたかどうか自分自身で判断する材料が必要になります。その材料のひとつが模試であり、その結果をもとに、次の作戦を立てていく。こうして模試と勉強を繰り返すことで、可視化しづらい学力の定着度や理解度を測っていきます。ここでいう作戦とは、「どうやったら得点を最大化できるか」という、入試突破のポイントを押さえた合格への作戦のことです。

入試で最も大切なこの「得点の最大化」は、模試で次のポイントを知ることによって目指せます。

・苦手教科、苦手単元 ・犯しやすいミスの傾向 ・解答を優先すべき順位

これらは、返却された模試の答案用紙の解説面を見るとわかります。成績表の表面は、志望校判定を掲載している模試が多いため、裏面や別添えの場合もあります。内容は、各模試によって異なりますが、答案用紙の解説、学力分析、正答率グラフ、記述解答の採点詳細、領域のアドバイスなどが書かれています。この答案用紙の解説面が、得点を上げていくポイントになる部分です。

例えば、学力分析表で、

・×が並んでいる領域 ➡ 苦手、もしくは理解不足など弱点となる単元の可能性 ・受験生の正答率は高いが誤答だった場合 ➡ ケアレスミスや勘違いなど、正解できる可能性が高い

といった具合です。まず、その誤答がどのような間違いで、なぜ間違えたのか思い出しながら考えます。時間が足りなかったという場合もありますね。さらに、その問題に対してどのような対策をすれば、次に間違えないかを考える。これが、得点を上げていく方法になるのです。

模試結果が「隠れた弱点」をあぶり出す

では、答案用紙の解説を見ながら、次のポイントを探していきましょう。

■苦手な教科・単元

得意教科と苦手教科は、普段からなんとなくわかっている受験生は多いですが、具体的にどの部分が苦手なのかをきちんと把握している生徒はそう多くはありません。特に苦手な教科については、つまずいて以降、手をつけずに放置しているケースもあり、理解できれば、取れていなかった分の点数が取れる可能性を秘めています。

「苦手だから無理」ではなく、苦手だからこそ、受験を機に見直してみることが大切。模試で再確認した苦手部分は、基礎をもう一度見直すことで、得点アップを狙える可能性があります。

また、あまり苦手意識はないのに理解できていない単元や、得意教科の中にも好きではない単元など、実は勉強不足・理解不足の「隠れた弱点」があるかもしれません。これらは普段の勉強ではなかなか気がつきにくいものです。その隠れていた部分が、模試であぶり出される可能性があります。

苦手意識はないのに点数が取れていない、ということは、裏を返せば、再確認すれば点数が取れる、得点アップの期待できる問題だということになります。

入試問題は、中学校で学習する全範囲から出題されます。どの単元からどんな問題が出るのかわからないということは、苦手な単元、理解不足の単元から出題される可能性も大いにある、ということ。逆にいえば、理解不足の単元を減らすことで、合格に一歩近づけます。

反対に、理解不足のまま放っておいて入試を迎えることは、不安要素を抱えて挑むことになります。少しずつ不安な要素を減らしていくことは、受験生にとって堅実な勉強方法です。

広い出題範囲の中で、そういった「自分の弱い部分」が、実は「補強できる部分」=「得点アップの可能性」だと思えれば、そこに向かって勉強を進めることができるでしょう。

息子の場合、苦手科目は国語。国語の学力だけは、「このままではまずい。なんとかしないと最後に足を引っ張る」と危機感を持ちました。そこでまず、模試受験者の平均点以上は必ず取ることを目標に、計画を立てて勉強に取り組みました。

■ミスの傾向

また、模試は自分の犯しやすいミスの傾向にも気づかせてくれます。自分がどういう問題を間違えやすいのかを知っておけば、ミスを減らせるのです。例えば、どうしてもケアレスミスをしがちな受験生は、見直しの時間を確保して、問題文を読み返す、計算は見直すなど、点数を取り落とさない対策をとりましょう。

息子の場合、問題文を最後まで読まずに答え方を誤る他、単純な計算ミスなどが模試を受け始めた頃にはよく見られました。受験終盤になっても慌ててしまい、どうしてもミスすることはありました。とはいえ、ケアレスミスはゼロにはならなくても、意識的に減らすことはできるでしょう。

どんなミスをしやすいのか、どんなミスに気をつけたらいいのか、わからせてくれるのが模試。同じようなミスを防ぐために、どんなときに注意すべきかを知り、そのミスを減らすように意識して取り組みましょう。そういった部分に気づかせてくれるのも模試なのです。

本来なら取れていたかもしれない類のミスは、とても悔しく残念な減点になります。模試からわかった自分のミスの傾向に気をつけ、きちんと見直しをするだけでも、減らせる可能性はありますから、入試本番では極力なくしたいですね。

どの問題から取り組むかは合格の鍵

■解答の優先順位

問題用紙を見て(問1)から順に解いていくのではなく、先にどの問題から解くか、どの順序で解くのか、これらは入試の際、作戦として大切なことです。解答の優先順位を考えることは、各問の時間配分にも関わります。

模試を受けることで、自分の苦手とは反対に、得意な単元や時間のかからない問題もわかるでしょう。苦手な単元があるのに対し、必ず取りたい単元や問題を知ることができれば、それらを優先的に解答するという対策が立てられます。

入試で合格するには、満点を目指す必要はありません。ライバルに勝てるよう、制限時間内に自分の得点をとにかく最大にすることが求められます。この制限時間内というのが実はポイント。限られた時間で、正解をより多く出す力を競うのが入試なので、合格するには、得点の最大化が必要になるのです。

入試において、8割以上の受験生が正解する問題はもちろん落とせませんが、正答率1割の難問は、逆に落としても大丈夫。解けない生徒がほとんどなので、いってしまえば解かなくてもいいのです(時間に余裕があれば挑戦!)。それよりもポイントは、正答率が5割前後の問題。これらをより多く解答できる受験生が合格するのでしょう。

時間のかからない問題をサッと済ませるなど、どの問題から取り組むか、解く順序の組み立ては合格の鍵になるといえます。模試を受ければ、どれを取ってどれを捨てるか(後回しにするか)、自分が得点を最大にできる「優先順位」を徐々に知ることができるようになります。

自宅で問題を解く場合も、制限時間を設けて解答する訓練をしましょう。模試では、本番さながらに、問題全体をどのような優先順位で解答するのか、実践することができます。そして、返却された模試の結果を見て、自分の強みになる問題を増やしていきましょう。

ここまでの話をまとめると、模試を受けることで、

①自分の学力の現状を知ることができる ↓ ②苦手な単元、得意な領域、ミスの傾向などを把握・分析できる ↓ ③得点アップにつながるよう、学力の補強・ミスへの対策・作戦を練る ↓ ④また模試を受け、①~③を繰り返す ↓ 目指すは志望校合格につながる得点力アップ=学力アップ

模試を活用して自分の学力の現状を知ることで、得点を上げるための具体策「どんなことを」「どのように」やるのかが見えてくる、というわけです。模試は、受験勉強の道しるべなのです。

塚松美穂 ライター・教育アドバイザー 学習支援コーディネーター

(※画像はイメージです/PIXTA)