一時期、あちらこちらにあった「高級食パン」を売りにしたベーカリーが次々と閉店。ブームの急減速と話題になっています。ネットを中心にバッシングまで起き、これまでの食のブームとは違い、異質の存在となった高級食パンブーム。みていきましょう。

総務省『家計調査』にみる、「高級食パンブーム」の変遷

一世を風靡した「高級食パン」。長蛇の列の前にして1斤1,000円近くする食パンを買い求めるほどの大ブーム。それは都心はもちろんのこと、地方にまで波及し、あちらこちらに「高級食パン」だけを売りとするパン屋が溢れかえっていました。しかしブームを牽引していた全国展開のベーカリーが大量閉店を決定し、「高級食パンブームの原則」を印象付けました。

そもそもパン業界自体には、以前から逆風が吹いていたと指摘されています。帝国データバンク『パン製造小売業者の倒産動向調査(2019年)』によると、2019年にパン小売り業の倒産件数は31件と、前年比2.1倍。調査を開始した2010年以来、最多となっていました。つまり高級食パンブームの終了よりも前に、ベーカリーの淘汰は始まっていたわけです。

総務省『家計調査』で、高級食パンブームを振り返ってみましょう。ブームが始まる前の2016年、2017年、両年1月の食パンの平均支出額は、それぞれ706円、703円。それがブーム初年度の2018年1月には744円と、一気に平均支出額が上昇。そして2019年1月には768円、2020年1月には784円、2021年1月には841円に達しました。高級食パンブームが、平均支出の上昇を牽引したと考えられます。

しかし2022年1月の全国平均は842円。わずか1円の上昇に留まっています。すでに「高級食パンが飽きられている」というシグナルでしょうか。過去のあらゆるブームが、いずれ冷めていったように、高級食パンもいずれ飽きられる……誰もがそう思っていたことでしょう。同じような店があちらこちらにあるわけですから、当たり前です。

そこに来て、ロシアウクライナ侵攻で、原料となる小麦が世界的に高騰。普段口にしている「普通のパン」でさえ、じりじりと値上がりしていくなか、高級食パンに目を向ける余裕がなくなっていってしまったのかもしれません。

同年7月には食パンの支出額は全国平均852円に。これは高級食パンブームによるものではなく、明らかに原材料高騰によるものだと考えられます。

バッシングを受ける「高級食パン」…物価高も追い打ちに

食に関して「空前の大ブーム」は高級食パン以外にも色々とありました。記憶に新しいところではタピオカを思い出す人も多いでしょう。それに比べて高級食パンブームについては、随分と辛辣な言葉が並びます。

そんな流れに拍車をかけたのが、テレビタレントが「バターと砂糖いっぱい入り過ぎ」「もうケーキ」と熱弁をふるったことでしょうか。それが多くの人の共感を呼び、「高級食パン食パンにあらず」という流れを生みだし、ブーム自体に疑問符が投げかけられるようになったのです。

その矛先は、ブームの立役者だったプロデューサーにも。一風、変わった店名をつけることで話題を呼んでいましたが、その名前がかえって悪目立ちするようになり、「砂糖やはちみつを入れただけで、高級ではなく単に高額」などと、SNSを中心にバッシングを受けるように。こうして高級食パンブームは、これまであった食のブームの中でも異質な存在となり、急激にトーンダウンしていったのです。

ただ、ちょっと甘いケーキのような食パンにも、多くのファンがいることも確か。「自分へのご褒美」などと、一定の支持を受けています。しかし昨今の物価高に「ちょっとした贅沢もしていられない」という流れが広がっています。

総務省が発表した8月の消費者物価指数(2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数で102.5となり、1991年9月以来、30年11ヵ月ぶりの上昇率となりました。その発端となったのが、前出のとおり、ロシアウクライナ侵攻。長期化の様相をみせるなか、専門家の間では、最低でも年末までは物価高は続くとされています。そのため「ちょっとした贅沢でさえも控えよう」という動きが広がっているのです。

高級食パンブームの終焉。そこにはプチ贅沢さえも愉しむことができない、苦しい日本人の状況があるともいえるのです。

(※写真はイメージです/PIXTA)