(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授

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 韓国の男性グループ「BTS」の地元・韓国での人気は、日本人が思っているほどではない。

 私はそう考えている。もちろん、人気がないと言っているわけではないし、私がこのグループを嫌っているわけでもない。たまに、自分でも気づかないうちにいくつかの楽曲を口ずさんでいて、どちらかといえば好きな方だ。

 とはいえ、日本のネットニュースなどではBTSの人気ぶりについて報じられているが、韓国にいると本当にそこまで人気なのかと思ってしまう。

料金が跳ね上がった釜山のホテル

 たしかに今年(2022年)6月から活動休止に入ったことが話題になり、来る10月に釜山で10万人規模の無料コンサートを開催するということで、さらに注目を集めている。もはや彼らの動向は音楽業界のみならず、韓国社会に大きな影響を与えており、無料コンサート当日の釜山のホテルの料金が跳ね上がった。

 人気アーティストが地方でコンサートを開催すると、その地域の宿泊料が高くなるというのはどこの国でもよくある話だ。しかも活動休止の超人気グループがたった1回だけ開くコンサート。熱狂的な「ARMY(アーミー)」(BTSのファンのこと)が、韓国全土から、そして海外からも大挙して釜山にやって来るのだ。そうなれば、宿泊費が高騰しても仕方ない。だが、今回はさすがに限度を超えていた。

 今回のコンサートが発表されたのは、1カ月ほど前の8月24日である。その瞬間から釜山にあるホテルに予約が殺到し、宿泊費が高騰。それ以前の予約を一方的に取り消して、高騰した宿泊料で新たに予約を受け付けるホテルも続出した。8月28日付のソウル新聞によると、宿泊料は最大で通常の33倍、2泊で1000万ウォン(約106万円)にのぼるという。

 釜山といえば韓国南部におけるビジネスと観光の拠点だ。もともとその時期に釜山に宿泊しようとしていた韓国人はそれなりにいたはずだが、その予定が一気に吹っ飛んでしまった。いや、それだけでなく、すでに予約をしてあるのに、有無を言わさずホテル側から一方的にキャンセルされた人もいるのだ。

 このような状況に対し、日本の公正取引委員会にあたる韓国公正取引調整院などの関連政府機関は、宿泊施設への訴訟などの窓口となる特設ページを開設する事態となった。

韓国人の多くは「関心がない」

 このような状況を見て、韓国人BTSに複雑な心情を抱かざるをえないはず。そう思った私は、この数週間、韓国人との会話の中でBTSの人気について聞いてみた。

 すると、多くの人がBTSの兵役免除の是非については関心を持っているものの、彼らの音楽活動には「関心がない」と答えるのだ。

 そうした反応は、私にとって少し意外だった。

 ちなみに、いま中学校に通っていて来年高校生になる息子に聞いても、学校でBTSの人気がとくに高いわけではなく、あくまでも“たくさんあるK-POPアイドルグループの1つ”としか見られていないという。

学生たちはどう見ているか

 そうなると、ますます韓国でのBTSの人気の実態を確かめたくなる。そこで、大学での講義の時間を利用して、学生に無記名でアンケートを取ってみた。

 もはや政治的イシューとなってしまった兵役について問うのは避け、「アーミーなのか?」「BTSの楽曲をよく聴くか?」「BTSに好感を持っているか?」という3つの質問をしてみた。

 なお、私が教えているのは日本語科の学生で、日本に関心を持っている傾向にあるのと、ソウルにある女子大の1校でのアンケートなので、BTSの好感度に対する1つの目安にしかならないことをお断りしておく。そのため結果を具体的な数値で公表するのは控えたい。

 最初の質問は、アーミーかそうでないかの2択で、「アーミーだ」と答えたのは1割にも満たなかった。だが、この結果はある程度予想できていた。単純に計算して韓国人女子大生の1割弱がアーミーなら、全国では相当な数になるだろう。

 2つ目の質問は、BTSの音楽をよく聴くかそうでないかの2択である。「よく聞く」と答えた学生は、最初の質問で「アーミーだ」と答えた学生とほぼ同数だった。つまり、アーミーであればBTSの音楽をよく聴くが、そうでなければほとんど聴かないということだ。

 特に印象的だったのは、最後の「BTSに好感を持っているか?」という質問に対する答えだった。この質問の回答には、音楽活動以外のみならず社会活動など彼らのさまざまな側面への好感度や関心が反映される。

 回答の選択肢は「好き」「好きでも嫌いでもない」「嫌い」「関心がない」の4択だ。私は「好きでも嫌いでもない」が多いだろうと予想していた。関心がないわけではないが、好きかどうかまではわからない、という意味だ。これだけニュースなどでいろいろ騒がれているのだから、気にはなるだろうと考えていたのだ。

 ところが、彼女たちの多くは「関心がない」と答えた。

 おそらく、BTSの兵役をめぐる韓国世論の動きにも、アンケートに答えた彼女たちのような心情が反映されていると思われる。つまり、兵役免除に肯定的な意見が少しずつ増えているようだが、それはBTSの好感度が上がっていることを意味するのではない。

 もしも男子学生に対して同じアンケートを実施すれば、BTSにとって、もっとシビアな結果になる可能性も十分にある。

もとから韓国離れしていたBTSの音楽

 BTSはグラミー賞に昨年、今年とこれまでに2回ノミネートされるなど輝かしい業績があるほか、国連でのスピーチやアメリカのバイデン大統領との面会など、音楽活動以外でも話題となってきた。

 その一方で、彼らの音楽は韓国社会にどれほど受け入れられ、浸透しているのだろうか? という疑問を私は常に抱いてきた。

 BTSの音楽はヒップポップの影響が濃厚だと言われるが、私もそう思っている。また、日本の文芸評論家の浅田彰氏は、「アメリカンポップでもなければ、コリアンポップでもない、明らかに世界の単なるポップスターになった」と彼らを評価している。要するにBTSの音楽はもとから韓国離れしていたのだ。だからこそ世界で受けた。

 だがそれゆえに、兵役免除問題はジレンマに陥るのだ。BTSの兵役免除を実現させたい勢力は彼らの業績を高く認めているものの、実際には韓国社会の心を鷲掴みするまでには至っていない。その状態でBTSという名前が大きくなってしまった。

 彼らの兵役免除は、そうした環境の中で議論されているのだ。

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