職場でのパワハラは当然コンプライアンスに反するものですが、なかなか減らないのが現状です。


 なかには勇気を振り絞って被害を会社に訴える人もいますが、こちらの主張にまったく耳を傾けてくれない場合も。谷内和美さん(仮名・28歳)が昨年まで勤めていた美容品会社がまさにそうだったといいます。



写真はイメージです(以下同じ)



パワハラで有名な上司
「3歳下の後輩T美に対する上司の女性マネージャーの扱いがあまりにひどく、私やほかの社員なら軽く注意される程度で済んでもその子にはキツい口調で叱りつけるんです。


ある時、彼女が涙ぐむ場面があったのですが『泣けば済むと思ってるのが見え見え!』ってさらに責め続けたのです。あれには周りの同僚たちも全員ドン引きでした」


 前任のマネージャーは部下からの人望も厚く、職場の雰囲気は良かったですが後任のマネージャーが異動してくると状況は一変。もともとパワハラ気質のある人物で有名だったらしく、以前いた部署でも一部の若手女性社員が被害に。それも容姿の整った子にばかりが狙われると言われていました。


「その方は休憩中や仕事終わりでも気さくに部下と接することがなく、前の上司とは正反対のタイプ。笑顔を見せることもまったくないし、まるで見えない壁があるようなすごくとっつきにくい印象がありました。しかも、私と違ってT美は女子社員の間でも噂になるくらいの美貌の持ち主。


すると、案の定ほかの社員の2~3倍増しでキツく当たるようになり、たとえば私なんか一度も注意されたこともない電話対応の言葉遣いでネチネチとお説教。T美が『お名前を頂戴できますか』と言ったことに『そこは“うかがってもよろしいでしょうか”でしょ! 尊敬語と謙譲語の区別もつかないの? 小学校からやり直ししなさい!』って。


その指摘は正しいのでしょうけど、私が同じ対応をしたときは注意されなかったのですごく違和感を覚えました」



パワハラを告発する内容証明を人事部宛に郵送
 何度かフォローしようと間に入ったこともありましたが、「これは私とT美さんの問題だから。谷本さんは仕事を続けてください」とピシャリ。こんな調子のため、後ではげます声をかけることしかできず、彼女が日を追うごとに元気がなくなっていったのがわかったそうです。


 ところが、そんなT美さんが以前のような明るさを取り戻し、吹っ切れたように見えたので尋ねると「辞めることにしました」と一言。和美さんは力になれなかったことを詫びますが「そんなことはありません」と感謝の言葉を述べたとか。ただし、「マネージャーにはけじめを取ってもらうつもりです」と強い口調で話します。


「これはすべて終わった後に知ったことですが、T美は会社の人事部宛に上司のパワハラを告発する内容証明を送っていたんです。でも、会社は私たち部署の人間には聞き取り調査をせず、当事者2人に行っただけ。


 当然、両者の言い分は食い違うのですが会社側は『仕事のミスに対する注意として常識の範囲内』としてパワハラには当たらないとの判断を下しました。ところが、T美はこうなることも想定していたみたいで、証拠となる音声データを追加で提出したそうなんです」


 それはただの叱責と呼ぶにはあまりに行きすぎていたのですが、会社側は証拠の提出を受けても決定を覆そうとはしませんでした。そのため、T美さんはネット上での告発やメディアに情報を流すことを示唆。会社側はなんとか思い留まらせるように説得しますが、「パワハラの事実を認めるのが先」と応じようとしませんでした。


◆謝罪はあったが上司への処分はなし



「『たとえ刺し違えてでも絶対に許さない』と言い放ったようです。この覚悟を見て、さすがに会社も上司ヤバいと思ったらしく、ようやくパワハラを認めて謝罪。どんな名目かは知りませんが彼女が辞めた際、幾ばくかのお金が支払われたらしいです。T美さんの一番の友人だった同期の子が本人から直接聞いたと話していました」


 それでもマネージャーは降格などの処分は特になし。しばらくは大人しくしていましたが、翌年再び新人が配属されると過剰な部下いびりが復活。そんな横暴を野放しにする会社に和美さんも嫌気が差し、転職してしまったそうです。


「給料が良かったわけでもないし、転職活動が面倒で惰性で働いていただけでしたから。第一、気持ちよく働くことができなかったし、あんな会社じゃ楽しく仕事ができないですよ。私が身体を張ってマネージャーパワハラをやめさせればカッコよかったのかもしれませんが、さすがにそこまでに勇気はないので(苦笑)」


 これだけ問題視されながらも今も多くの人が被害に遭っている職場でのパワハラ。これ以上、泣き寝入りする人が増えないようになんとかしてほしいものです。


<文/トシタカマサ イラスト/とあるアラ子>


【トシタカマサ】一般男女のスカッと話やトンデモエピソードが大好物で、日夜収集に励んでいる。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。