遺体のお腹からピューっと血や体液が噴き出し…元火葬場職員が明かす火葬現場の“衝撃的な光景” から続く

 火葬場と聞けば、「遺体を火葬する施設」とイメージできる人が大半だろう。しかし、実際にどうやって火葬を行っているのか、どのような人たちが火葬業務に従事しているのか、という部分は知らない人が多いのではないだろうか。

 ここでは、元火葬場職員で、火葬技術管理士1級の資格を持つ下駄華緒氏の著書『火葬場奇談 1万人の遺体を見送った男が語る焼き場の裏側』(竹書房)から一部を抜粋。「生きたまま火葬してしまった」という噂の真相を下駄氏が解説する。(全2回の2回目/1回目から続く

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もし生きたまま火葬したら……という噂の真偽

 ――生きたまま火葬した事例が…。

 火葬場職員だったという話になると、聞かれるトップ10には入るこの質問。

「なんでこんな質問されるんだろう?」と思っていた。

 そんなに「もしも生きていたら」ということが怖いのだろうか?

 ある日、とあるYouTube 動画を見つけた。

「生きたまま火葬してしまった話」

 皆さんはこのタイトルを見てどう思われるだろうか? ぼくの予想としては「にわかには信じがたいけどありえるかも」と思う方も一定数いらっしゃると思う。それも当然、なぜなら大多数の方々が火葬場のことなど知る由もないからだ。

 では、元火葬場職員のぼくの見解はどうか?

「真っ赤な嘘です」

 これがぼくの見解である。なぜ嘘なのか、皆さんに解説していこうと思う。

「生きたまま火葬された」という話題は“根本的な問題”を無視

 まず「生きたまま火葬してしまうことはよくある」という主旨について、もし本当にそんなことがよくあるのであれば、それは火葬場云々よりもまず日本全体の医療を抜本的に見直す必要があるだろう。ようは火葬場よりも、病院をしっかり追求すべきことだ。

 生きていたにもかかわらず、死亡したと誤診しているわけだから、本当ならこれは大問題である。しかもそんなことが「よくある」となれば、当然裁判にもなるだろう。

 そういう意味では、「生きたまま火葬された」という話題は、根本的な「誤診」という問題をあまり考えていないように思える。本当は「誤診」が一番問題なはずなのに、衝撃度の強い「生きたまま火葬」というワードのみにフォーカスされているようだ。

 病院は「死亡診断書」という公的文書を発行する。これはのちに死亡届、火葬許可証を発行するための大事な公的文書だ。

 もし医師が記入を間違えていたとしても、我々一般人が勝手に訂正することはできない重要な書類だ。

 これを記入するための死亡診断は、死の三徴候をもとに診断される。日本においてこの精度は凄まじく、もちろん絶対とは言い切れないが、現場にいた人間としては、「誤診」の可能性を語るなんて、少し恥ずかしさすらも感じる具合だ。

 ぼくは火葬場職員のあと、葬儀屋も経験している。その立場からも1つ言えることがある。

 そもそも人は亡くなると体温を失う。愛する人、家族、友人を見送る際に手をにぎるとものすごく冷たい……という経験はないだろうか?

 ぼくもある。今でも思い出すと胸が押さえつけられるような思いだ。

生きたまま火葬が“ありえない”納得の理由

 体温が失われていったあとは、死後硬直がはじまる。

 死後硬直はおもに筋肉等によって引き起こされるため、たとえばご年配でかつ長いあいだ闘病されていた方や寝たきりだった方などは筋肉量が少ないので、死後硬直が少ない場合もあるが。

 棺に納められたあとは、ドライアイスを置くことが多い。

 このドライアイスの冷却力はものすごく、数時間も胸の上に置いておくと、その部分がカチンコチンに凍る。もしぼくが生きたまま棺に納められたとしても、このドライアイスによって絶命するだろう。

 さらにそこから数日経つと、いわゆる「匂い」がしてくる。

 身体はどんどん朽ちていくので、これは当然の変化だ。

 そして日本の法律では、基本的に死後24時間経たなければ火葬できない。

 ここまで説明していかがだろうか? 生き返ると思うだろうか?

 必ず全員、とは言えないが、ほとんどの人が「そうだよなあ」と思われたのではないだろうか。

火を止めなかったら犯罪

 さらに、冒頭で紹介した動画には、こんな一文があった。

「絶対に助からないので、火葬場職員は気づいても火を止めない」

 ぼくはじつはこれが一番ショックだった。こういうところに、火葬場職員という仕事は「普通ではない」というイメージが世間にあるのだろうということを感じて、非常に悲しくなる。

 現役の火葬場職員ですら、おそらくあまり考えずに「そうなったら止めないかもね」と言う方もいるが、そもそもそんな場面に立ち会うことがないので、単に「たられば」の軽い言葉だ。しかしそれも、ぼくは断固として否定したい。

 もし火葬中に、遺体だと思っていた人がじつは生きていたら……それに気づいたけれども「助からないだろう」と医師でもなく、とくにそのような知識もない人間が勝手に判断してそのまま火葬したならば……。

 それは業務上過失致死に問われないだろうか?

 生きていることがわかっていても、火を止めずにそのまま殺すのだ。

もし叫び声が聞こえたら即助けるぞ!

 現代日本の医師ですら、勝手な判断で患者の生死を決めたりしないはず。

 火葬場職員は、人の生死を自分の判断で左右するような、それこそ神のような存在ではもちろんない。普通の人だ。

「絶対に助からないので火葬場職員は気づいても火を止めない」という内容は、全国の火葬場職員に、そしてぼくに、「人殺し」と言っているようなものだ……。

「いや、でも本当にそうなったら、すごい勢いの炎なんですよね……?」とおっしゃる方もおられるが、ご心配なさらず。

 ほぼ100パーセント、皆さん棺に納まっておられるので、身体に直に炎が当たるまで、少し時間がある。点火して数秒、もし「ぎゃー!」と叫び声が聞こえたなら、ぼくだったら緊急停止ボタンを押して、即救助に向かうだろう。

 こうやって考えると、たしかにそりゃそうだと思いませんか? 

 そう、すごく普通のことなのだ。だが、火葬場という「よくわからない場所」のせいで、このような単純なことでさえ、知らない方からするとわからないのだ。

デマ動画と戦った成果

 改めてこの都市伝説を考えると、「生きたまま火葬」というワードは非常にセンセーショナルなことに気づかされる。

 ぼくは、人間は残酷な生き物であると感じている。たとえば人類の歴史のなかで、公開処刑はひとつのエンターテイメントとして需要があったし、現代でも、表向きは「残酷だ」「非人道的だ」と敬遠されつつも、実際このようなタイトルYouTube 動画は、ぼくのように本当のことを伝える動画よりも、再生回数は圧倒的に多いのが実情だ。

 なので、どんどん残酷で衝撃的な内容を求める気持ちはよくわかるが、嘘は嘘なのでしっかりと否定しておきたい。

 そしてこういった衝撃的な嘘を主題にしたYouTube 動画に対する措置として、元火葬場職員として、「内容が間違っていますよ」という趣旨の動画を、何度か配信した。

 すると今、なんとそのような動画は激減したのである。

 まさかそんなに影響を及ぼすとは思ってもいなかった。

 この頃から元同僚や全国の火葬場職員たちから、好意的な連絡がよく来るようになった。

 ということは、皆やっぱり「違うのに……」と思っていたようだ。

(下駄 華緒)

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