火葬場と聞けば、「遺体を火葬する施設」とイメージできる人が大半だろう。しかし、実際にどうやって火葬を行っているのか、どのような人たちが火葬業務に従事しているのか、という部分は知らない人が多いのではないだろうか。

 ここでは、元火葬場職員で、火葬技術管理士1級の資格を持つ下駄華緒氏の著書『火葬場奇談 1万人の遺体を見送った男が語る焼き場の裏側』(竹書房)から一部を抜粋。「遺体が動く」という火葬中のリアルな光景について紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く

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火葬されている遺体が動くという噂は本当だろうか?

 ――火葬炉で焼かれている遺体は、死んでいるのに動くことがあるらしい……。

 まことしやかに囁かれるこの話。果たして本当だろうか?

 じつはこれ、本当です。

「え? でもウチのおばあちゃんのお骨あげのとき、ちゃんと遺骨は気をつけの姿勢のままだったよ!?」

 と思われた方もおられるかもしれない。それもその通りだろう。

 いやいや、だとしたら動いていないじゃないかと言われそうだけれど、この辺りを説明しよう。

 まず、人は火葬されると熱によって筋や腱などが収縮し、ボクシングファイティングポーズのような姿勢に似てくる。わかりやすくたとえるなら、灯油ストーブの上にスルメを置くとウネウネと熱で動くと思うが、あのようなイメージだ。

 かと言って、じゃあ人も火葬したら、スルメのようにウネウネと動くのか? というと、そうでもない。

 では、どのように動くのか?

 じつは目に見えて「動いている」のがハッキリわかるわけではない。火葬中のご遺体を目視する際、たとえば1度目視で確認してから20分後にもう1度目視すると「あ、手が上がってきてるな」というような感じだ。

 明らかにバタバタ動くというようなことは決してなく、数分から数十分かけてゆっくりと動き、気がつくと手足が上がっていたり腰が曲がっていたり捻れていたり……とさまざまな動き方をして姿勢が変化する。

 またぼくが見ていた限り、若い人ほどよく動き、ご年配の方ほど動きが少ない(または動かない)イメージだ。

お骨が気をつけの姿勢になる理由

 火葬中にご遺体がゆっくりと動き変化するのだが、皆さんのなかでお骨あげのときの遺骨のイメージはどうだろうか?

 だいたいは気をつけの姿勢で焼骨となって出てきていたのではないだろうか?

「うんうん、たしかにそうだった」と思われる方は多いはず。では、なぜ動くことがあるのに、お骨あげのときは姿勢が整っているのか?

 理由はおもにふたつある。

 ひとつは、火葬中のご遺体の姿勢を整えているため。

 デレッキと呼ばれる金属製の長い棒を、火葬炉に差しこんで、ご遺体が手を上げ出したら、デレッキで押さえて下ろす――というようなことをしている。

 全自動の火葬場もあるが、結局はこういったアナログな技術が要だったりする。

 ふたつ目は「整骨」。整骨と聞くと、整骨院が思い浮かぶと思うが、それとは別で、文字通り「骨を整える」ことを指す。

 これは、遺族さんに焼骨を見せる前に火葬技士が事前に確認し、少し焼骨の位置を整える業務だ。このときにあらかじめ喉仏を探す火葬技師もいる。

 つまり、火葬中も火葬後もご遺体を整えているので、火葬中に動いているにもかかわらず、気をつけの姿勢の遺骨になる。こういった火葬技師の努力によって、皆さんが普段目にするあのお骨あげの状態になっているのだ。

「火葬中の遺体は、血が噴水のように噴き出す」という噂の真相

 よく囁かれている衝撃的な話だが、これこそネットや噂レベルで拡散したセンセーショナルな場面を散りばめた嘘っぽいものだと思われるかもしれない。事実、少し前まで、ネットでは一切このような記述はなかった。

 しかし、YouTube チャンネル「火葬場奇談」をはじめてから、ネット上でも取り上げられるようになった。

 つまり、これは本当だ。

ピシャっと飛び出る体液

「物体に熱を加えると膨張する」

 という原理は、小学生の理科でも学ぶ。

 これと同じように、ご遺体も火葬して熱を加えると、パンパンに膨れる。人間の体の大部分は水分が占めているため、熱を加えると水蒸気となり膨張するのだ。

 すべての方がそう、というわけではないが、稀にお腹あたりからピューっと血だったり透明な体液だったりが噴き出すことがある。

 おもちゃ水鉄砲レベルのときもあれば、それこそ火葬炉の天井までビシャー! っと、勢いよく噴き出すこともある。

職員にとってはありがたい現象

 それを聞くと、なんだかグロテスクな……と思われるかもしれないが、ぼく個人としては、このように体液が吹き出しているご遺体を見ると、じつは「よしっ」と思う。

 え! なんで? と思われただろう。これには深いわけがある。

 先述した通り、人間の体の大部分は水分が占めている。水分は当然、燃焼の妨げになる。骨は火葬時間が短いほど綺麗に残るので、なるべくなら水分を早く飛ばして火葬を早めたいわけだ。

 その前提があるうえで、ご遺体から水分(血も含む)が噴き出すと……これは火葬時間を早めるチャンスでもある。

 したがって、ぼくはそのような状態のご遺体を視認すると、いつも心のなかで「あ、お手数おかけします……」と思っていた。

 まるでご遺体が気を遣ってくれて、「水分出しとくね~」とでも言わんばかりだが、なんとなく「ありがとうございます」と思いつつ、噴き出す血を見ながら、そっと確認用の窓を閉じるのだ。

「『人殺し』と言っているようなもの」元火葬場職員が“生きたまま火葬”という噂を一刀両断する当然の理由 へ続く

(下駄 華緒)

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