天高く馬肥ゆる秋

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 平年ならすっかり秋の行楽シーズンのはずですが、地球温暖化のあおりで台風、大雨続きです。

 9月23~24日にかけて東海道新幹線が運転を見合わせ、車内に閉じ込められて3~4時間、なかには7時間以上も足止めを食った乗客も出ており(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220923/k10013833991000.html)、こうなるとシャレではすみません。

 健康な人ならともかく、体調の悪い人、あるいは人工透析などケアが必要な人がこの種の閉じ込めに遭うと、生命にかかわる危険性も出てきかねません。

 静岡では、午後7時に終わったコンサートから大雨で帰宅できず、深夜1時を過ぎてもタクシーに長蛇の列(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220924/k10013834331000.html)といった事態も発生。

「行楽シーズン」ですが、どうやら家の近くでおとなしくしている方が無難そうです。

 ということで、今回は「秋の味覚」おいしいものを巡って、地球温暖化「常識の源流探訪」環境変化を逆手にとって、異業種を結ぶシナジーから漁業イノベーションの戦略を考えてみたいと思います。

海水の温度が上昇すると・・・

 この、困りものの台風、地球気候変動で海の温度が上がり、北極南極の氷が融け、太平洋の水は深海まで温暖化するなど、2015年頃から熱帯低気圧が大型化、さらにそのルートは近年、20世紀には見られなかった行程を辿るようになっています。

 線状降水帯https://www3.nhk.or.jp/lnews/shizuoka/20220924/3030017531.html)などというものができるようになってしまい、風水害が発生している。

 まずそのメカニズムから確認しておきましょう。

 地表近くに暖かく湿った空気が大量にあり、上空に冷たい寒気団があると、これらの境目に「積乱雲入道雲が立ち昇り、湿った空気は大雨となって地表に降り注ぐ。

 これだけなら、普通の夕立ちで、あとはカラリと晴れ上がります。

 しかし、グローバルなスケールで延々湿った暖かい空気と上空の寒気とが似たような場所で供給し続けられたら・・・。

 あたかも「積乱雲製造機」みたいな場所から、ラーメンかソバ、うどんを延々と引き延ばすように、細長く伸びた積乱雲から、大雨が降り続くことになる。

 これが「線状降水帯」と呼ばれるものの、ざっくりとした形成メカニズムと言ってよいかと思います。

 日本でこの言葉が使われるようになったのは2014年広島県で起きた土石流災害以降のことです。

 20世紀、昭和な天気予報ではほとんど耳にしなかった言葉の一つでした。

 やはり1990年代から21世紀にかけて、新興国とりわけ中国やインドブラジルなどの工業化や森林の大規模伐採が、地球全体の環境システムを壊してしまった。

 さて、やや突然ですが、私は魚が大好きです。肉類はファストフードハンバーガードのようなパッケージ化が可能ですが、魚は回転ずしでもネタは一つひとつ違う。

 シーチキン魚肉ソーセージ、練り物には顔がありませんが、身のついた魚介類には一つひとつ個性があります。

 地球が温暖化して海の水が暖かくなると、魚にも必然的に大きな変化があるはずです。例えば、サワラは温暖な水温を好むので、以前は九州や瀬戸内海での漁獲高が高い魚でした。

 ところが現在では日本海の各県が漁獲高がトップに並びます。

 2017(平成30)年のデータで確認してみると(https://region-case.com/rank-h30-product-sawara/#:~:text=%E5%B9%B3%E6%88%9030%E5%B9%B4%EF%BC%882018%E5%B9%B4,%E3%82%92%E6%8E%B2%E8%BC%89%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=%E5%85%A8%E5%9B%BD%E8%A8%88%E3%81%AF15%2C924t,%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%82%A2%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

第1位 福井県

第2位 石川県

第3位 島根県

第4位 京都府

第5位 鳥取県

 みごとに日本海側にシフトしている。つまりかつては「瀬戸内の温暖な水」で採れた魚が、日本列島と沿海州に挟まれた日本海を「内海」と見立てるように北にシフトしている。

 魚の分布は間違いなく変化しており、水揚げされる魚の種類に応じたイノベーションによって、付加価値の高い二次製品を生み出すことも可能になる。

 漁獲高の変化のすべてを中国などの乱開発だけのせいにはできず、海水には「レジームシフト」と呼ばれる準周期的な変化も知られています。

 例えば、「マイワシ」の漁獲高は昭和63(1988)年には449万トンあったものが、1990年代から20年間は「レジームシフト」で全く獲れなくなり、資源保護の観点から禁漁となったり、一時は3万トン以下という、ピークの1%にも満たない時期がありました。

 農林水産省の分かりやすいグラフをリンク(https://www.atpress.ne.jp/news/105440)しておきましょう

 それが2010年代に入って「イワシが還ってきた!」。

 再び豊漁期に入り、2014年にはマイワシの推定親魚資源量は100万トンを超え、2020年は172万トンと見積もられて(http://www.fra.affrc.go.jp/shigen_hyoka/SCmeeting/2019-1/detail_maiwashi_pac_202108_quickVer.pdf)います。

 こうした統計は、あくまで漁業と水産資源保護の観点から調査されるもので、その理由を特定はしません。

 しかし、何にしろ21世紀の港に再びイワシたちは戻ってきた。「魚偏に弱い」と書いて「鰯」と読ませるように、イワシはアシが速く(すぐに劣化してしまい)食用処理が難しい魚の一つです。

 ところが、21世紀のイノベーションは、かつての「オイルサーディン」を超えて、レモンいわしなど、より付加価値の高い製品を生み出すようになっています。

 背景には、元来は相性が悪いはずの金属缶と有機酸をバッティングさせない製缶技術の進展など、様々なシナジーが活躍している。

 何にしろ地球が温暖化したからイワシが戻ってきたとか、単にレジームシフトで戻ってきただけとか、早計な結論は下せず、この先どうなるかも分かりません。

 しかも、海水温暖化による「グローバル気候変動」は、こうした「水温」だけでなく「風が吹くと桶屋が儲かる」的な、様々な変化を海洋生態系にもたらし、結果的に複合的漁業被害が報告されているのです。

雨が降ると漁業を圧迫
その1:魚の餌がいない海水

 そこで「風が吹くと桶屋が儲かる」ではなく「雨が降ると漁業を圧迫」をいくつか別の角度から考えてみましょう。

 まず、雨水ですが、言うまでもなく淡水で「塩水」ではありません。

 台風は陸地だけでなく海にも降り注ぎますから、海水の表面は「まみず」で薄められる。希釈されることになります。

 そもそも海の表面は水温が高いので密度が少なく、軽くなっている。

 ちなみに、先々週の本連載で地球温暖化を「飲料缶」を使って説明したとき(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71848)、「海の水などが地球の表面にあるので、飲料缶のモデルで考えて大丈夫なのですか?」といったご質問をいただきました。

 それにもお答えしておきたいと思います。

 飲料の入った缶は子供にも追試できる演示実験として記したもので、本質的には「殻模型」、つまり液体ではなく「剛体」、固体の「殻」と見なして計算するモデルなので、当初から「流体」は扱っていないのです。

 凍った飲料缶は「固体」、凍らせていない飲料缶は「同じ重力加速度で引っ張られる、外側の空き缶だけ」と見なして比較したもので、海の水はモデルの中に入って来ない範囲での近似です。

「飲料缶は中が液体なのだから、むしろマントル対流などを考えるべきでは・・・」といったご意見もいただいたのですが、それは小学生が簡単に追試できる話とちょっと違ってきてしまうのが一つ。

 それから、地球の回転変化が私たちに分かるほマントルが溶けたり固化したりしたら、他の環境が激変しているはずで、人類も現在の生態系も、まず無事ではいられないと危惧します。

 今回は生態系を支える海の恵みの観点から地球環境変動を考えているので、剛体の殻モデルではなく、海水の「液体」としての性質に注目しているわけです。

 さて、閑話休題。

 ただでさえ温暖化で表面 真水の雨で薄めるわけですから、さらにスカスカの水となり、海中深くに存在する微生物や、タンパク質など生物のエサになる栄養素が混ざりにくくなってしまう。

 こうなると、ちょうど赤潮、つまり富栄養化の逆で、エサの少ない海水層が広がり、漁業への影響が心配されています。

 サワラやイワシの漁獲高変化の理由は完全には解明されていませんが、地球温暖化の影響で「海が痩せてしまう」現象は、直接の降雨や、大気圧の変化だけからも様々に懸念されています。

 しかし残念ながら、大雨の海洋、漁業への悪影響はそれだけでは済んでいません。

 例えば、広島や熊本などで甚大な被害を出した鉄砲水や土石流、山が崩れ、森林が地滑りを起こし、家屋を押し流されて低地の市街地まで埋め尽くす土砂災害は、もちろん、単体でも大変なダメージを私たちの社会に与えます。

 でも、話はそれだけでは済んでいない。街を埋め尽くした汚泥は、水道水などを使ってきれいに洗浄することで、ひとまず市街地は現状復帰させることができました。

 しかし、汚泥は川に流れ、やがて海にたどり着き、沿岸エリアに押し寄せて堆積物となり、海中環境も変えてしまう。

 大量降雨によるもう一つの環境破壊、海中環境の汚泥による破壊を考える必要があります。

雨が降ると漁業を圧迫
その2:「磯焼け」を引き起こす濁流堆積物

 2010年代以降、沿岸漁業に被害を及ぼすもう一つの要素として「磯焼け」ならびに、それを引き起こす「土砂堆積物」など、陸上からの影響が甚大です。

 水産庁資料が引用する磯焼けの正確な定義としては「浅海の岩礁や転石域において、階層の群落(藻場)が季節的消長や多少の経年変化の範囲を超えて、著しく消失して貧植生状態となる現象」(藤田、2002)(https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_gideline/attach/pdf/index-36.pdf)を挙げておきましょう。

 こうした状況は決して地球温暖化だけで起きる訳ではありません。

 例えば2011年以降、福島で水揚げされた漁獲高の推移をみると、遠洋漁業に大きな変化が見られないのに対して、沿岸漁業には壊滅的な打撃が加えられ、その回復に時間を要している。

 これは資料(https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/262319.pdf)からはっきり読み取れます。

 様々な「磯焼け」が発生し、海中環境が激変~破壊された結果が尾を引いているわけです。

 原因は「津波」で、陸上に押し寄せた波浪が土砂や建材その他、陸上のリソースを堆積物として海の中に引き込んだため、魚の住み処や餌場、それらを本質的に支えるアラメやわかめ、昆布などの海藻植生圏が破壊されてしまった。

 これが一度起こると、なかなか再生してくれません。

 福島の津波は100年に一度、いや1000年に一度の大惨事でしたが、2010年代以降、残念ながら日本を襲う「線状降水帯」による集中豪雨は毎年の出来事となり、水害や土砂災害は常態化。

 結果的にそれらが海中堆積物となって、藻場を破壊する「磯焼け」現象も、我が国沿岸全域で日常的に進んでいる。

 これは大変な事態です。地魚などのおいしい海鮮も食べにくくなってしまう。

 また、失われた藻場を再生するべく、海藻が定着、繁茂しようとすると、ウニが食べてしまうという「ウニ害」も多数報告されています。

ウニ退治だけでは解決しない本質的課題

 せっかく生えようとする海藻の若芽をウニが食べてしまうという「ウニ害」。

 各地の漁協では精力的に「ウニ退治」を進めているところも多く、海中で潰されたばかりのウニの身に、わらわらと周囲の魚が集まってきて食欲全開といったビデオhttps://www.youtube.com/watch?v=MoACe0pxjjY)なども公開されており、周知かとも思います。

 しかし考えてみればこの「ウニ害」も、実はウニは傍迷惑な話です。

 彼らはかなり原始的な生命体で飢餓に強く、他の生物がほとんど棲息できないような「磯焼け」状態のなか、最後のサバイバーとして生き残って、わずかな食物で命を繋いでいるだけに過ぎません。

 ただ、そうしたウニの棲息によって藻場の再生が阻まれ、結果的に磯焼けが永続化してしまう。

 またそうした地域のウニは極端に身が痩せており、およそ商品価値がない。

 そこで、こうした痩せウニが「退治」されるわけですが、飢餓生活の末に駆除されるわけで、ウニとしてはロクでもない運命にさらされている。

 あるいは、こうした「痩せウニ」を集め、陸上で太らせて出荷・・・といった2次的な動きもだんだん軌道に乗り始めたと報じられます。

 ここでは海藻の代わりにキャベツなどのクズ野菜をたべて肥え太るウニ(https://www.youtube.com/watch?v=PrIwKj46I-Y)の姿をご紹介しておきましょう。

 こうした取り組みは各地で数多く、今回は紙幅が尽きましたので、別途グローバルな切り口をもってご紹介できればと思います。

 ただ単に「ウニ駆除」だけでは、生態系の問題も漁業を含む社会経済の好循環も決して再生、活性化できません。

 レベルの異なる複数の問題を調和的に解決し、社会経済の「サステナブル」な好循環につながる「持続的成長」の方途が求められているわけです。

つづく

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