日本の持ち家率は、およそ6割。年齢が上がるにつれてその割合は高まり、高齢者になると9割近くにもなります。ただし、一人暮らしの高齢者に限ると、その割合は6割近くにまで下がり、その分、賃貸派が増えます。そこには「引越ししたくても叶わない」という高齢者を取り巻く問題があるようです。みていきましょう。

高齢者の5人に1人が1人暮らし…その3割が賃貸派

公益財団法人日本賃貸住宅管理協会による賃貸住宅市場景況感調査『日管協短観』によると、2020年下半期、2ヵ月以上の家賃滞納率は1.1%。100件に1件の割合で家賃滞納が起きています。「家賃が払えないほど困窮している」というと、すごく遠い世界のように感じる人も多いと思いますが、賃貸住宅が100戸あったら、そのうち1戸は家賃滞納状態。すごく身近な問題だといえるでしょう。

家賃が払えないほどの状態になるのは、やはり低所得者に多く、なかでも問題視されているのが、単身の高齢者です。

総務省統計局『令和2年 国勢調査』によると、高齢者の約5人に1人が一人暮らし。さらに住居の状況をみていくと、持ち家率が66.2%、公営・都市再生機構(UR)が11.6%、民営借家が21.7%。単身高齢者の3割強が賃貸暮らし。ちなみに、同世代の二人以上世帯の持ち家率は9割弱と、圧倒的に持ち家派となります。

高齢者の収入源といえば年金。厚生労働省令和2年厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金受給者の平均受取額(国民年金厚生年金)は、65歳で14万5,557円。70歳で14万3,755円。75歳で14万7,519円、80歳で15万7,097円、85歳で16万2,711円。実際にどれくらい年金を手にできるかは一人ひとり異なるので一概にいうことはできませんが、単身のおひとり様高齢者、ここから家賃を払い、日々生活していくには、決して楽ができる水準とはいえないでしょう。

「ちょっと生活が苦しいから、家賃の安いところに引っ越そうか……」。そう考えたとしても、実現には高いハードルがあります。株式会社R65が行った調査によると、高齢者の4人に1人が「不動産会社に入居を断られた経験がある」と回答。さらに「5回以上断られた」という経験がある人は13.4%にもなります。「引越しを考えたら、借りられるところがなかった」、ということも珍しくないのです。

家賃が高くても引越しができない…単身高齢者の特殊事情

単身の高齢者。悠々自適というイメージがありますが、実際は自由な転居はハードルが高いなど、制限も多いもの。さらに収入が年金に頼らざるを得ない状況では経済的な不安、さらには老いによって健康面においての不安も大きくなっていくでしょう。そして自由というメリットも、次第に孤独というデメリットになっていきます。

厚生労働省令和3年版高齢社会白書』によると、65歳以上の人の近所との付き合いの程度をみていくと、単身の高齢男性は「あいさつ程度」が52.0%、「つきあいはほとんどない」が13.7%。一方で単身の高齢女性は「親しくつきあっている」が34.6%、「あいさつ以外にも多少のつきあいがある」が28.4%。女性のほうが社交的で、男性のほうが孤独状態になるリスクが高いといえるでしょう。

そして「孤独死(誰にも看取られることなく亡くなっ た後に発見される死)を身近に感じる」という回答は、二人以上世帯では3割強であるのに対し、単身世帯では過半数を超えます。単身世帯は、より危機感が強いということです。そして東京都監察医務院によると、東京23区内における一人暮らしで65歳以上の自宅での死亡件数は、2019年に3,936人。約4,000人近い孤独死が発生しているのです。

家賃が振り込まれない……そこで大家は再三にわたり家賃を払うよう連絡するも音沙汰なし。仕方がなく、強制執行の手続きを進めているなか、孤独死であったことが判明する。このようなケースは増加傾向にあります。

結婚しなかったり、またはパートナーに先に絶たれたり。高齢者が単身である理由はさまざまですが、いまや孤独死は社会問題。自身で孤独に陥らないよう対策を講じることはもちろん大切ですが、高齢者を孤独にさせない取組みも進めていかなければなりません。

(※写真はイメージです/PIXTA)