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洗濯や掃除、料理など、生きていく限り発生する「家事」という労働。自分でやるにせよ、誰かにやってもらうにせよ、気になるのが「お金に換算したらいくら分ぐらいになるの?」という点だ。家事の「値段」はいくらと考えたらいいのだろうか? ワークスタイル研究家で「兼業主夫」として4人の子どもを育てる川上敬太郎さんに聞いた。

国の試算だと?

家事は日常生活に欠かすことができず、365日休めないという、大きな負担になるものです。しかし、家事活動は『無償』で身内が担当することが多いため、その金銭的価値がわかりにくくなっています。

参考になるのは、内閣府の経済社会総合研究所が数年おきに出しているレポート「無償労働の貨幣評価」です。最新版(2019年)では、家事活動の貨幣評価額を算出するに当たり、以下3つの方法を用いています。

– 機会費用法(OC法):家事活動に費やした時間について、もしその時間を使って外部で働いていたとしたら、いくら収入が得られたかを算出。

– 代替費用法スペシャリストアプローチ(RC-S法):家事活動に費やした時間を内容ごとに分類し、それぞれ類似サービスに従事している専門職種の賃金を適用して評価する方法。例えば「食事の管理」であれば「調理士、調理士見習」、「子供の教育」であれば「保育士」の賃金を適用。

– 代替費用法ジェネラリストアプローチ(RC-G法):家事活動に費やした時間について、家事使用人の賃金(社団法人日本臨床看護家政協会の調査がベース)を適用して評価する方法。

これによると、仕事をしていない・配偶者アリの女性(専業主婦)の家事労働の評価額は年間で「OC法:304万5000円」「RC-S法:247万9000円」「RC-G法:228万9000円」となっていました。しかしながら、これらはあくまで、それぞれの算出方法にもとづいて割り出した理論的数値です。

ほかの調査結果としては、キリンビールが「主婦の年収シミュレーター」を通じて割り出した平均家事年収469万8670円という数値なども知られています。いずれの数字も、ピンと来るかどうかは、人によってかなり差が出そうです。

家事は休めないし、急に降ってくる

家事活動の特徴は、「勤務時間」が決まっていないことです。大まかなペースは毎日同じかもしれませんが、急に夜食を作ることになったり、病気の家族がいれば夜通し看病したりします。また、盆や正月など世間のお休みの方がかえって忙しかったりもするものです。

仮に、そうした家事をすべて1人で担うとしたら、担当者は365日24時間スタンバイしなければなりません。もしこれが職場であれば、スタンバイしている拘束時間も勤務にカウントされて然るべきです。

そこで仮に、誰かを家庭という「職場」に365日24時間拘束し、いつでも仕事ができる体制でスタンバイしてもらうとしたら、その年収はどれぐらいになるかを計算してみましょう。深夜残業や法定休日など労働基準法に準拠する割増規定を横に置き、ひとまず最も低い水準である最低賃金の全国平均時給961円を一律に当てはめ、シンプルに計算すると「365日 × 24時間 × 961円」で841万8360円となります。

他の家族のためにもなる

また、家事が生み出す経済的価値は、それ自体の年収換算以外にも存在します。

たとえば、夫の年収が1000万円で、妻が専業主婦だった場合。仕事をして直接収入を得ているのは夫です。しかし、夫が仕事に専念して力を発揮できるのには、妻が家事を引き受けてくれていることも大きく影響しています。そう考えると、1000万円という世帯年収は「夫婦の共同作業によって得たもの」だと考えられます。

大リーグシアトル・マリナーズの殿堂入りを果たしたイチローさんも、引退会見で「弓子夫人への言葉は」と問われて、「1番頑張ってくれた」「感謝の思いしかない」と述べています。

もちろん偉業が達成できたのは、イチロー選手自身に才能や努力があったからです。しかし、食事管理を含めてイチローさんの生活を支えてきた妻、弓子さんの存在も見逃すことは決してできません。イチローさんの生み出した経済的価値は、弓子さんの家事活動によっても生み出されたものと言えるでしょう。

家族の潤滑油にも

一方で、家事活動には、経済的な側面だけでは捉えきれない価値もあります。料理や洗濯、掃除といった家事は生活に欠かせないものであり、その活動自体が家族の幸せに直結しています。

また、家族のためにする家事は、さまざまなコミュニケーションを生みだし、家庭を豊かにしてくれます。「今日の夕飯は何にしようか?」「この服、そろそろ買い替えた方がいいね」「部屋片づけといたけど、ゴミはちゃんとゴミ箱にいれてよ」。そういった、たわいもない日常会話や、食卓を囲む時間そのものに、何ものにも代えがたい貴さがあります。それらをもし貨幣換算するならば、きっとプライスレス(priceless:お金で買えないほどの価値)になるはずです。

このように、家事活動には様々な捉え方があり、そこに見出される価値はそれぞれです。貨幣換算しようとしても、誰もが納得できるような数値にならなくて当然だと思います。

もし「無償労働」だというだけの理由で、家事活動の価値を低く見なす人がいるとすれば、それはそれを担っている人の存在を蔑ろにする姿勢の表れだと言えるのではないでしょうか。

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