静岡を拠点とする航空会社、FDAが、2泊3日で名古屋から花巻、山形、新潟の3都市を臨時・チャーター便で結ぶ斬新な企画を実施。この実現のウラには、航空会社の”悩みのタネ”ともいえる問題がありました。

航空便ゆえ各地をたっぷり“つまみ食い観光”

静岡を拠点とする航空会社、FDAフジドリームエアラインズ)が2022年9月、とある変わり種ツアーを実施しました。それは、2泊3日のスケジュールで、同社の拠点である名古屋小牧空港(県営名古屋飛行場)から花巻→山形→新潟へ臨時便・チャーター便を飛ばし、また名古屋へ戻るというもの。とくに花巻→山形、山形→新潟の区間は、普段定期便が飛んでいない路線です。なぜこのようなツアーができたのでしょうか。

まずは、ツアーの概要から見ていきます。

ツアーは、1日目は名古屋小牧空港から出発し岩手・花巻空港へ行きそこで夕方まで過ごしたのち、16時40分発の便で山形空港へ。2日目は山形に夕方まで滞在し、18時過ぎの便で新潟へ。3日目も新潟に夕方まで滞在し、17時30分発の便で名古屋へと戻るというスケジュールです。ツアーはホテル代込みで、各観光地では自由行動。価格は5万5000円です。

このツアーのポイントは、各地域を”つまみ食い観光”しながら、自由時間がある程度確保されているところにあるといえるでしょう。もっとも滞在が短い花巻であっても9時半ごろから16時ごろまでは観光ができ、山形、新潟にいたっては夜から翌日夕方までの1泊2日を確保。ある程度空港から遠いところへも出かけることができます。

また、花巻→山形(直線距離約130km)、山形→新潟(直線距離約120km)は、車で行くとなると、少なくとも2時間半はかかる距離。これを航空便で結ぶとなると1時間以内に抑えられるので、これも「滞在時間」が長く取れる一因です。

しかし、ここで生じるのが、「なぜ花巻→山形→新潟を結ぶことになったのか」という疑問です。

珍ツアー実現のウラにあった「航空会社の悩みの種」

FDAの担当者によると、実はこの変わり種ツアーが企画されたのは、とある航空会社ならではの”裏事情”が関係しているのだそうです。

同社ではこのツアーが実施された9月23日に花巻で、24日に山形で、25日に新潟で、それぞれ機内から富士山を眺める趣旨の同一空港遊覧チャーターを計画していました。ただ、これを実施するためには、旅客機をチャーター実施地の空港まで回送運航(フェリー便)しなければなりません。この回送運航は、当然お金を支払って乗ってくれる乗客はおらず、燃料費だけがかかってしまうという、航空会社にとって大きな悩みのタネのひとつといえるでしょう。

今回FDAが実施したこの3都市をめぐるツアーは、この回送運航を生かし、ツアー向けの旅客便として運航するという取り組みです。こうすることによって、旅客は斬新な東北ツアーを体験でき、一方FDA側にとっても、売上がない回送運航と比べて営業収益が期待できるというわけです。

企画担当者は、今回のツアーについて「乗っていただけるだけでありがたいんです」と話し、今後もこういった複数都市にまたがるツアーを企画していければと続けました。

独特な路線網をはじめ、いまや名物イベントとなった「数日間旅客機ほぼ乗り放題ツアー」をはじめ、斬新な企画展開も強みとするFDA。静岡が誇る「びっくりツアーに定評がある航空会社」は、今後も旅行ファン、航空ファンを楽しませてくれるユニークな企画を打ち出してくれるかもしれません。

名古屋空港から出発するFDA機(2022年9月、乗りものニュース編集部撮影)。