相続手続き発生後、他の相続人や専門家から「遺産分割協議証明書」という書類が送られることがあります。きちんと確認せずに対応すると相続できるはずだった財産がもらえなくなってしまうことも。押さえるべきポイントをみていきましょう。

遺産分割協議証明書と遺産分割協議書の違い

遺産分割協議証明書と遺産分割協議書は、どちらも相続手続きに使われる書類です。両方とも財産をどのように分けるかについて記載されていますが、作成される通数や記載内容に違いがあります。

遺産分割協議証明書に署名押印するのは基本的に1人

遺産分割協議証明書に署名押印するのは通常1人のみ。相続人ごとに1通ずつ作成されます。一方、遺産分割協議書は全体で1通作成され、全員が同じ書類に記入します。たとえば、相続人が沢山いるときや遠方に住んでいる場合、一か所に集まって話し合い、遺産分割協議書に署名押印できないことがあります。そうすると、時間がかかり、なかなか手続きが前に進みません。

そのようなとき、遺産分割協議の内容を記した遺産分割協議証明書を各相続人に送ります。書類に印鑑を押して返送してもらえば、遺産分割協議書と同じ効果が発生するので、スピーディーに手続きが進みます。

協議の記載内容が相続人ごとに違っても基本的に問題ない

遺産分割協議証明書は、記載内容が相続人ごとに違っていても書類として有効です。なぜなら、パズルのピースのように、すべての証明書が揃って遺産分割協議書を作成したのと同じ状態になるからです。

たとえば、Aの証明書にはAが取得する不動産のみ。Bの証明書にはBが取得する預貯金のみ。Cの証明書にはCが取得する車と現金のみ記載していても問題ありません。つまり、ABCの証明書が集まって全体の内容を網羅できていればよいのです。

対して、遺産分割協議書には被相続人の財産と協議内容をすべて記載しておく必要があります。ただし、不動産の相続登記は例外です。すべての証明書に、不動産を誰が取得するのか載せなくてはなりません。

相続人全員から書類が返ってきて初めて効果が発生する

遺産分割協議証明書は、相続人全員の書類がそろわないと効果が発生しません。1通ずつ作成されるので、全員分がそろって初めて協議として成立します。遺産分割協議書は1通の書類にすべての相続人が署名押印しますので、書類が完成すれば、協議も完了です。

印鑑を押す前に確認すべきこと

印鑑を押す前に、書類の中身を必ずチェックしましょう。もし、慌てて書類を送り返すと「もらえるはずだった財産がもらえない」ということも起こりえます。たとえば、書類を返送した後に不公平な分け方であることに気づいても、手続きはそのまま進んでいきます。

遺産分割協議証明書に載せられている財産の内容

まずは、自分が取得することになっている財産の内容をチェックします。たとえば、上記の「遺産分割協議証明書サンプル」において、自分が「相続人 OO花子」だとしたら、1の部分に記載されている財産内容を確認します。

このとき、法定相続分について知っておくと有利です。民法では、相続人が取得できる財産割合が決められています。これが法定相続分です。法定相続分を目安として、本来、自分がどれ位の遺産を取得できるかチェックしておくなら、もらえるはずだった財産をもらえなかったという事態を防げます。

財産を誰がもらうことになっているか

自分以外の相続人がどんな財産を取得するかについても必ずチェックしましょう。遺産分割協議証明書は、協議内容が一部しか記載されていなくても、原則有効です。たとえば、送られてきた証明書に載せられている財産がすべてだと思っていたら、実は他にも財産があった。蓋を開けてみたら、財産のほとんどを1人の相続人が取得し、自分は一部しか取得できなかった。こんな事態が生じる可能性もあります。

また、「本協議書に記載なき遺産並びに後日判明した遺産は、相続人XXが習得する」のような書き方にも注意しましょう。「後日判明した遺産は、誰々が取得する」という一文が含まれていると、後で見つかった財産は、ここに書かれている人がすべて取得することになります。他の相続人がどんな財産を取得することになっているかの確認を怠らないことが大切です。

内容に疑問がある時は、書類を送ってきた相手に確認することを忘れずに

少しでもおかしいと思ったら、書類を送ってきた相手に問い合わせましょう。印鑑を押して返送してしまうと、手続きを元に戻すことはできません。後に「証明書には遺産の一部しか載っていない」「特定の人が多く財産を取得している」などの異変に気づくかもしれません。そのようなときは、証明書に載せられている財産がすべてなのか、他の相続人はどんな財産を取得することになっているかについて問い合わせます。

全員から書類が返ってきて初めて効果が発生しますので、自分が送り返さない限り、勝手に手続きは進みません。

署名、押印のときの注意点

署名や押印は、正確に行いましょう。不備があると手続きは進みません。金融機関や証券会社によっては、相続手続きに使う戸籍や印鑑証明書に期限が決められているところもあります。手続きが遅れると、書類を取り直す必要も出てきますが、記入するときに、以下のポイントを押さえておくなら不備なく書類を作成できます。

住所や氏名は印鑑証明書や戸籍を見ながら記載

住所や氏名は公文書通りに書きます。時々、戸籍で使われている字と、自分が普段使っている字と異なることがあります。たとえば、「髙」と「高」といった漢字です。迷ったときは、戸籍に合わせて記載しておけば間違いありません。住所もできるだけ省略せずに、印鑑証明書に書いてある通りに記入しましょう。

印鑑を押すときは、印鑑証明書を確認して実印で押印

印鑑は、実印を使います。理由は、実印以外の印鑑では、その後の手続きが進まないからです。たとえば、不動産の相続登記では、相続人全員の実印に印鑑証明書を添付することが求められます。

時々、自分では実印だと思っていたが、実は銀行印だったということがあります。押印する前に、印鑑証明書の印影を良く確認してから押すようにしましょう。印鑑が欠けてしまった。滲んでしまった。こんなときでも、焦らないで大丈夫です。うまく押せなかったときは、その横に重ならないようにもう一度押せば、有効な書類として扱われます。

署名押印後の書類は、書留か追跡郵便で郵送しておくなら安心

郵送するときは、紛失のリスクを減らす方法で送りましょう。遺産分割協議証明書は、とても大切な書類で、その送付の際にはより重要な書類である印鑑証明書の同封も求められることも多いです。失くしてしまうと、手続きはやり直しです。書類を悪用される恐れもあるので、紛失の危険が高い普通郵便ではなく、書留か追跡機能がついた郵便で送るのが賢明です。念のため、コピーをとって手元においておくなら、後日トラブルが起きたときの証拠となります。

遺産分割協議証明書…書類の内容を細かくチェックを

遺産分割協議証明書が送られてきたときは、自分が取得する財産と他の相続人が取得する財産に注目しながら、内容を1つひとつ確認し、不明点は書類を送ってきた人に質問しましょう。きちんと納得してから署名押印すると満足いかない結果にストレスを感じずに済みます。

相続できる財産が少ない。不公平かもしれない。このような疑問を感じるときには、相続財産の評価を専門家に依頼しましょう。

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