高齢化に伴う現役世代の負担増と年金への不信感から、「このまま保険料を払い続けても、損をするだけではないか」という声が大きくなっています。実際に現役世代は年金保険料の「払い損」になるのか、考えてみましょう。

大卒初任給なら4万~5万円…天引き額にため息

給料明細をみるたびに「はぁーこんなに天引きされているんだ」と、ため息をついた経験は、誰にでもあるでしょう。会社員が天引きされるものは、主に6種類。

まずは「厚生年金」。保険料を支払えば、国民年金厚生年金を上乗せした年金が、現行、65歳から受給できます。その保険料は給与によって変動。給与から「標準報酬月額」を求め、保険料が決まります。

そして「雇用保険」。「失業保険」とも呼ばれ、失業したときに再就職の支援を受けるための制度です。その保険料は2022年度10月1日から一般事業者で0.3%から0.5%に変更となります。

家族の扶養から外れると払うようになるのが「健康保険」。その保険料は、厚生年金同様、標準報酬月額を元に算出されます。

そして所得に応じて天引きされる「源泉所得税」。累進課税制度を採用しているので、給与が増えると税率は高くなります。たいてい少し多めに天引きされているので、「年末調整」で一部が還付されます。社会人2年目の6月から天引きされるようになるのが「住民税」。税率は区市町村民税6%、道府県民税・都民税4%で、合計10%です。

40歳になると天引きされるようになるのが「介護保険」。40~64歳には特定疾病が原因で要介護・要支援になった場合、65歳以上は要介護・要支援状態になった場合、介護サービスを1割負担で受けることができます。その保険料は2021年平均で月額6,014円です。

いくら天引きされるか、環境などによって変わりますが、いまどきの大卒初任給の平均値である22万円なら、4万~5万円ほど天引きされます。

天引きされた分、何に使われるか知っておけば納得感も変わってきますが、なかなか飲み込めないのが「厚生年金」かもしれません。よく現役世代は払い損、といった声を聞く機会は多いでしょう。自身が年金をもらう年齢になったとき、そんなに年金はもらえないのだから……というのが、その理由です。

もちろん年金は積立方式ではなく、賦課方式。現役世代から年金受取世代へ仕送りしているイメージです。だから「払い損」というのは「年金の捉え方を間違えている」という指摘も。ただ高齢化率がどんどん上がり、負担増しかみえてこないなか、「払い損」という不満が大きくなるのは、仕方がないことかもしれません。

大学卒業から定年まで払う「厚生年金保険料の総額」と「年金受給額」

天引きされる厚生年金の保険料。その計算は、「毎月の給与(標準報酬月額)×保険料率」「賞与(標準賞与額)×保険料率」。保険料は年金制度改正に基づき、平成16年から段階的に引き上げられ、平成29年9月にその上限に達し、現行、18.3%で固定されています。

厚生労働省令和3年賃金構造基本統計調査』によると、日本のサラリーマンの平均月収(きまって支給する現金給与額)は、37万0,500円。標準報酬額は38万0,000円となり、保険料は6万9,540円。保険料は会社折半となりますので、実質3万4,770円が厚生年金分として天引きされている計算です。さらに年間賞与等が101万8,200円ですから、そこにも保険料がかかります。単純計算、1年の保険料は48万円ほど。これでいまの高齢者を支えているわけです。

さらに各年代の平均月収と年間賞与等から、大学卒業から60歳の定年までの保険料の総額をざっと計算すると、1,600万円ほどになります。

【男性会社員の月収と賞与の推移】

「20~24歳」243,200円/411,300円

「25~29歳」290,900円/694,500円

「30~34歳」331,900円/877,000円

「35~39歳」369,000円/1,028,800円

「40~44歳」396,500円/1,153,100円

「45~49歳」418,600円/1,250,200円

「50~54歳」443,900円/1,392,600円

「55~59歳」440,900円/1,369,900円

出所:令和3年賃金構造基本統計調査

※数値左:きまって支給する現金給与額、右:年間賞与その他特別給与額

一方で気になるのは、65歳になったときに、いくら年金が手にできるかということ。各年代、現在の平均給与を手にし60歳で定年を迎えたと仮定すると、月に16万9,000円ほど(国民年金厚生年金)。95ヵ月以上、つまり65歳から8年弱、年金を手にしていればプラスに転嫁できることになります。「そう考えると、悪くない投資かも」と考える人も多いのではないでしょうか。

あくまでも現行の数値による単純計算によるものなので、実際にそうなるとは限りませんし、そもそも年金は損得で考えることではないかもしれません。ただ多くの高齢者が「年金だけでは生活できず貯蓄を取り崩している」という現実があり、将来的には「年金受給額は減額される(または目減りする)」ことが確実視されています。現役世代はいまの高齢者以上に自助努力が求められることは確かです。

(※写真はイメージです/PIXTA)