村上(写真奥)と同じヤクルトで、新たな大砲として期待がかかる濱田(右)。ベテランの青木宣親も「天才」と評価する打撃が本格的に花開くか
村上(写真奥)と同じヤクルトで、新たな大砲として期待がかかる濱田(右)。ベテランの青木宣親も「天才」と評価する打撃が本格的に花開くか

ひとりの打者の存在感をこれほど実感するシーズンはそうないだろう。令和初の三冠王へとひた走る村上宗隆ヤクルト)のことだ。

9月19日まで(以下同)に放った55本塁打は日本人最多タイ記録。リーグ2位の岡本和真(巨人/28本)と3位の丸佳浩(巨人/27本)の本数を足して村上に並ぶという圧倒的な数字を残している。愛称の〝村神様〟や代名詞の「確信歩き」は、流行語大賞の有力候補になるだろう。

村上は来年2月で23歳だが、ほかの若き〝怪素材〟たちも卵の殻を破ろうとしている。村神様に続く大砲候補6選手を紹介しよう。

まずは22歳の山口航輝ロッテ)。身長183cm、体重97kgの大型右打者で、高卒4年目の今季は92試合で11本塁打ブレイクの兆しを見せている。

秋田・明桜高(現・ノースアジア大明桜高)2年夏までは、同学年の吉田輝星日本ハム)より高い評価を受ける本格派投手だったが、牽制(けんせい)帰塁の際に右肩を亜脱臼。投手生命を絶たれ、打者として己の価値を高めてきた。

プロ入り時は2018年ドラフト4位と決して高い順位ではなかったが、ツボにはまった際には飛び抜けた飛距離を披露。今季はシーズン途中から4番に抜擢(ばってき)され、井口資仁監督からは「将来、しっかりとした4番になれる」と高い評価を受けている。特技が俳句という意外性も、いずれ全国区になった際に愛されるポイントかもしれない。

ふたり目も、村上の1学年後輩である濱田太貴ヤクルト)。身長177cmと体格的には目立たないものの、全身をフル活用した豪快なスイングが魅力だ。今季は73試合で6本塁打を放っている。

大分・明豊高ではヤンチャな素行面がプロのスカウトの間で取り沙汰され、手を引いた球団もあったという。しかし、山田哲人と村上を担当した松田慎司スカウトが濱田の才能をプッシュ。緻密な調査の末に「性格面も問題ない」と判断し、ヤクルトは18年ドラフトで濱田を4位指名した。

入団当時に2軍監督を務めていたのが、現在1軍の指揮を執る髙津臣吾監督だった。高卒1年目に、審判への侮辱行為で退場処分を受けたのも今は昔のこと。

髙津監督は故障がちだった濱田のモチベーションが下がらないよう、ボールを投げられなくてもDHで起用するなど配慮。実戦を経験する中で順調に成長し、ヤクルトの新たな長距離砲として開花しつつある。

村上と同じ1999年度生まれの世代は、清宮幸太郎日本ハム)や安田尚憲ロッテ)のようにスラッガー大豊作の学年だが、ほかにも有望な大砲が控えている。

鵜飼航丞(中日)は地元出身の巨漢スラッガー。愛知・中京大中京高で高校通算56本塁打を放ち、東都大学リーグの名門・駒澤大へ。

大学4年秋のドラフト会議で2位指名を受けた当日から、リーグ戦で4試合連続本塁打を放つなど大暴れした。神宮球場のバックネット裏からは「リーグ戦後のドラフトだったら、2位では獲(と)れなかった」というスカウトの声も聞こえてきた。

身長182cm、体重100kgの体躯(たいく)には威圧感があり、プロ入り後は春季キャンプイン直後から長打力をアピール。開幕後は故障で途中離脱したものの、51試合で4本塁打をマークした。

これまでの中日は、本拠地である広いバンテリンドームに苦しむ若手強打者が相次いだが、天井知らずのパワーを秘める鵜飼が〝呪われた系譜〟に終止符を打つのか。その成否は貧打に苦しむ球団の命運を握っている。

同じく村上世代でブレイクが期待されるのは、リチャード(ソフトバンク)だ。

父は元アメリカ海兵隊員で、身長188cm、体重117kgという圧巻の体格を誇る。沖縄尚学高では「砂川リチャード」の本名でプレーし、バットの真芯でとらえた打球は果てしなく飛んでいった。

だが、全国大会での実績はなく、確実性にも乏しかったことから、ドラフトでは支配下での指名はなし。ソフトバンクからの育成ドラフト指名に一時は態度を硬化させたものの、最終的にプロへ。同じ沖縄出身の山川穂高(西武)らとの自主トレでスラッガーの奥義を学び、支配下登録を勝ち取った。

昨季は7本塁打と、〝ポスト松田宣浩〟の有力候補に躍り出たかに見えたが、今季は3本塁打と足踏み。2割以下の打率を高めることが、飛躍のカギになりそうだ。なお、2軍ではリーグトップ独走となる24本塁打を放っている。

「遅れてきた村上世代」として紹介したいのが、安田悠馬(楽天)。兵庫・須磨翔風高では高校通算5本塁打だったが、進学先の愛知大で才能が開花。〝ゴジラ〟の異名を取ったが、それでも全国区の知名度はなかった。

ところが、楽天の後関昌彦スカウト部長は「大学時代の佐藤輝明(阪神)と同等の評価」と最大限の賛辞を送り、ドラフト2位で指名。1年目の今季は開幕スタメン捕手に抜擢されたが、その後はコロナ感染や故障で長期離脱。それでも、その打力は石井一久監督も高く評価している。

高卒3年目で楽しみな逸材は、井上広大(阪神)だ。身長188cm、体重100kgの恵まれた体で、大阪・履正社高では高校通算49本塁打をマーク。3年夏の甲子園決勝では星稜・奥川恭伸ヤクルト)から3ランホームランを放ち、全国制覇に貢献している。

高卒1年目からファームでアピールしてきたが、ここにきて停滞感も。今季は2軍101試合で8本塁打を放った一方、137三振と安定感を欠いている。それでも、甲子園で輝いた地元出身のスター候補だけに、ファンの期待は熱い。

高卒2年目に1軍で36本塁打を放った村上は例外中の例外で、スラッガーの育成には時間がかかるもの。豪快な空振りのひと振りひと振りが彼らの血となり、肉となる。いつか魅惑の大砲たちが、プロ野球をさらに盛り上げてくれる日を楽しみに待とう。

取材・文/菊地高弘 写真/共同通信社

村上(写真奥)と同じヤクルトで、新たな大砲として期待がかかる濱田(右)。ベテランの青木宣親も「天才」と評価する打撃が本格的に花開くか