プロバイダ責任制限法の改正法が2022年10月1日に施行されます。この法律は、インターネット上の誹謗中傷等の被害者が加害者の情報等の開示を求める手続を定めるもので、2001年に公布・施行されましたが、その後、今日までにSNSの出現・拡大、風評被害の影響の深刻化など、インターネットをとりまく状況が大きく変化したため、現実に沿った形にリニューアルされます。そこで、改正法について概要を解説します。
プロバイダ責任制限法とは
プロバイダ責任制限法は、正しくは「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます。
2001年に公布・施行された法律です。
当時、「2ちゃんねる」等の電子掲示板等における匿名での誹謗中傷(名誉棄損・侮辱)、プライバシー侵害が社会問題化したため、電子掲示板の管理者の法的責任の中身を明確化するとともに、被害者が加害者を特定するための手続を定める法律として制定されたものです。
内容は大きく分けて次の3つです。
1.電子掲示板管理者等(コンテンツプロバイダ)が被害者に対し法的責任を負う要件
2. コンテンツプロバイダが投稿者に対し法的責任を負う要件
3.投稿者の特定など、被害者を救済するための手続
1.電子掲示板管理者等(コンテンツプロバイダ)が被害者に対し法的責任を負う要件
1つ目は、電子掲示板管理者・SNS事業者等(コンテンツプロバイダ)の被害者に対する法的責任の明確化です。
コンテンツプロバイダは、以下の条件を両方ともみたす場合のみ、誹謗中傷等の投稿による被害者に対する損害賠償責任を負うことになっています。
・投稿による権利侵害があったことを知っていたか、あるいは知りえた
・削除することが技術的に可能であったにもかかわらず削除しなかった
これらは両方ともみたす必要があります。
2.コンテンツプロバイダが投稿者に対し法的責任を負う要件
2つ目は、コンテンツプロバイダの投稿者に対し法的責任を負う要件です。
「投稿者」は誹謗中傷の加害者のことなので、コンテンツプロバイダが加害者に対し法的責任を負うというのは、少しイメージしにくいかもしれません。
どういうことかというと、コンテンツプロバイダが投稿を「名誉棄損」「侮辱」にあたると判断して削除した場合、投稿者が「表現の自由の侵害」等で損害賠償請求をしてくる可能性が考えられます。
そこで、そのような場合でも、コンテンツプロバイダは、以下のいずれかの条件をみたせば、損害賠償責任を負わないということにしたのです。
・投稿が被害者の権利を侵害することを知っていたか、そう信じるにつき相当の理由があった場合
・(上記権利侵害にあたるか判断できない場合)被害者から削除するよう申出を受け、かつ、投稿者に対し、削除に同意するかどうか照会し、7日以内に投稿者から同意しない旨の回答がなかった場合
3.投稿者の特定など、被害者を救済するための手続(改正前)
3つ目は、投稿者の特定など、被害者を救済するための手続です。
被害者が投稿者に対し「名誉棄損」「侮辱」「プライバシー侵害」等の権利侵害を理由に損害賠償請求するためには、その前提として、投稿者を特定する必要があります。
2022年10月に施行される法改正は、この投稿者を特定するための手続に関するものです。
まず、従来の規定について説明します。以下の2段構えになっています。
・第1段階:コンテンツプロバイダから投稿者のIPアドレスの開示を受ける(民事保全法に基づく仮処分)
・第2段階:IPアドレスをもとに通信事業者に対して訴訟を起こして発信者情報の開示を受ける
しかし、この手続については、当初から問題点が指摘されてきました。
また、法律制定時には想定されていなかったtwitter等の匿名性の高いSNSにおける投稿に対して実効性が保てなくなってきました。
そこで、そういった事情に対処すべく、法改正が行われたのです。
従来のプロバイダ責任制限法の問題点と改正法のポイント
従来の規定の問題点は、以下の2つです。
・手続が2段構えになっていて手間と費用がかかる
・SNS等のログイン型サービスでは投稿時ではなくログイン時のIPアドレス情報を取得する必要がある
2022年の法改正は、これらの問題点を解決し、被害者がより救済を受けやすいようにするためのものです。
改正点1.被害者による加害者情報の開示請求の手続の簡易化・迅速化
第一に、従来の規定では、手続が2段構えになっていて手間と費用がかかります。特に、通信事業者に対して訴訟を起こさなければならないというのはハードルが高く、被害者が泣き寝入りを強いられるおそれがあります。
しかも、SNS等は拡散力がきわめて高いため、風評被害等も深刻なものになるおそれがあります。
この問題に対し、改正法は、新たに「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」を創設しました。すなわち、被害者は裁判所にコンテンツプロバイダに対する「開示命令の申立て」を行い、その手続のなかで、コンテンツプロバイダに対し、通信事業者の名称等の開示を命じることができるようになりました。
被害者はそれをもとに通信事業者に対する「開示命令の申立て」を行うことができます。その場合、コンテンツプロバイダに対する「開示命令の申立て」と一体として審理されることになりました(【図表】参照)。
しかも、この「裁判手続」は「非訟手続」といって、被害者の手間や費用は「訴訟」よりも大幅に軽減されています。
改正点2.SNS等のログイン型サービスの出現への対応
第二に、法律制定後、SNS等のログイン型のサービスが出現し、広く利用されるようになりました。
SNS等の場合、ログイン時のIPアドレスは記録されますが、投稿時のIPアドレスが記録されていないことが多いので、開示対象と認められないことがあります。
そこで、一定の要件のもと、ログイン時のIPアドレスを開示の対象とする旨を明記しました。
このように、2022年10月1日施行のプロバイダ責任制限法の改正は、インターネット上の誹謗中傷等の被害者による加害者の特定を容易にし、損害賠償請求等の対抗措置をとることを可能にするものといえます。
ネガティブな情報が直ちに拡散し、誰でも名誉棄損、プライバシー侵害、風評被害にみまわれるリスクがある今日において、この法改正は、あらゆる個人、事業者、企業等にとって重要な役割を担うものといえそうです。
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