(北村 淳:軍事社会学者)

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 トランプ政権や安倍政権が中国の海洋侵出戦略に(遅ればせながらも)本腰を入れて対決する姿勢を示し始めた数年前より、筆者の知人(米海兵隊米海軍関係者)たちの中から、「中国の台湾や南西諸島への軍事侵攻に対して日米同盟軍が効果的に対処するには、常設のアメリカ軍自衛隊による統合共同司令部(以下「常設日米合同司令部」)が不可欠である」との意見が唱えられていた。

 トランプ政権は中国やロシアを威圧するための米軍再建に莫大な予算投入を開始したが、バイデン政権が誕生すると、その代わりに、主敵(中国、ロシアイラン北朝鮮)に敵対する勢力(例えば台湾やウクライナ)やそれらに利害関係のある同盟友好諸国(例えば日本やオーストラリアNATO)の危機感を煽ったり、機会があれば軍事衝突を引き起こさせたりすることによって、アメリカが直接矢面に立つことなく外交的軍事的優位を手にし、同時に兵器弾薬軍需物資を支援することにより経済的利益も確保しよう、という政戦略を用い始めた。

 対中強硬派の米軍関係者たちはバイデン政権を好ましくなく考えていたのであるが、皮肉なことに、バイデン政権の政戦略に基づいた対中軍事戦略のためには、日米共同での軍事的対応がトランプ政権時代の比でないほどに不可欠となってきた。

 なぜならば、東アジアにおける中国の海洋戦力はアメリカの戦力を脅かすに至っており、宇宙サイバー戦力でもアメリカは中国の風下に置かれつつある。その状況下では、米軍単独で中国軍と対決することは無謀になってしまったからである。

 そのため、上記のような常設日米合同司令部の必要性は現実のものとして唱えられ始めており、日本側にもこれまでのように非公式の場だけではなく公式の場においても表明され始めている模様である。

「常設日米合同司令部案」に賛同できない理由

 20年近く米海軍海兵隊関係者たちと交流している筆者は、常設日米合同司令部のアイデアをかなり以前から聞かされてきた。

 これまでにも筆者は、彼らが提唱していた自衛隊に水陸両用戦力を構築させるべきとの案は日本防衛に有用と判断したため、共同戦線に加わり水陸両用作戦や海兵隊の戦闘哲学などを紹介してきた(拙著『アメリカ海兵隊のドクトリン』『写真で見るトモダチ作戦』『海兵隊とオスプレイ』、本コラム2011年3月23日2012年3月15日2012年3月28日2013年2月1日など)

 また、やはり彼らが提唱した「陸上自衛隊の必要戦力に集中させての少数精鋭化と一部を常設災害救援隊へ分離させる陸上戦力再編案」にも同意した(本コラム2018年8月16日)。

 反対に筆者が提唱した「地対艦ミサイルを主軸に据えた南西諸島ミサイルバリア構築による接近阻止戦略の推進」には彼らも賛同した。(もちろんそれだけが誘引というわけではないが)現時点においては米陸軍も米海兵隊も、日本列島線上にミサイル部隊を展開させて中国艦隊を迎え撃つ接近阻止戦略を準備中である(本コラム2014年5月8日2014年11月13日2015年7月16日2018年7月26日2019年1月10日2021年5月6日2022年9月15日2022年9月22日など)

 このようにそれら米軍人たちとは長らく協力関係を続けてきてはいるのであるが、「常設日米合同司令部案」については、防衛論と言うよりは国家論の観点から筆者としては賛同することができない。そのためそれらの人々は怪訝に思っているようだ。

 アメリカ第2次世界大戦後も、しばしば諸外国と合同軍事作戦を実施しているが、ある程度本格的な戦闘を伴う軍事作戦においては、他国の指揮下で米軍部隊を運用させたことはなく、“合同司令部”といっても必ず米軍が指揮主導権を保持してきた。したがって、日米合同司令部などと称しても、アメリカ軍コントロールする仕組みになることには疑いの余地がない。

 ましてそのような司令部を常設したのでは、日米間に存在する軍事的な従属(支配)関係が一層強化してしまう。

 かつてカナダアメリカから密接な軍事同盟の話を持ちかけられた際に、もし2カ国間軍事同盟を締結した場合、カナダは陸続きの軍事大国かつ経済大国であるアメリカの属国的状態に陥りかねないことを危惧した。そこで「アメリカはより多くの国々の盟主になれる」と多国間同盟の構築を提案し、NATOの設立につながったという。

日本はアメリカの完全な属国に

 すでに日本は、日米地位協定や日米合同委員会での米側の“ガイアツ”などによってアメリカの軍事的属国状態に置かれている。このような状況下で常設の日米合同司令部を設置したならば、自衛隊が米軍の属軍、下請け、弾除けと化すのは自然の成り行きである。

 バイデン政権が、アメリカ自身の国益のために、日本と中国の間の(それだけでなく、中国と周辺諸国の間の)軍事的緊張が高まることを望んでいることは、ウクライナ情勢を見れば容易に理解できよう。

 日本と中国はいまだに(軍事的意味合いにおける)戦争状態には陥っていない。にもかかわらず、アメリカが盛んに言い立てている中国の軍事的脅威に必要以上に怯えて常設日米合同司令部などを設置しては、中国が尖閣を占領してしまう以前に、日本はアメリカの完全な属国に墜(だ)してしまいかねない。

 今後も中国の対米接近阻止戦力はますます強力となり、台湾情勢もさらに深刻の度合いを増すに連れて、常設日米合同司令部設置案は、公式ルート非公式ルートを問わずますます頻繁に持ち込まれるものと思われる。

 日本の政治家や国防関係者は、日本をアメリカに売り渡す“買弁”でないのならば、「日本はアメリカの属国にはならない」として常設合同司令部設置案を断固拒絶すべきである。

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