必死に働き、リタイアしたら悠々自適な年金生活(足りない分は貯蓄を取り崩さないといけないけど)。多くがそんな老後を過ごしている日本ですが、今日、どうやって生きていけばいいのか、生活苦に陥る高齢者も。なかなには、最悪ともいえる決断をしてしまうケースも珍しくないようです。みていきましょう。

高齢者の自殺者…2割が経済的困窮を理由に

厚生労働省令和3年人口動態』によると、2021年「自殺者」は2万0,291人。そのうち65歳以上が6,238人と3割を占めます。男女別にみていくと、男性の高齢者が3,907人、女性の高齢者が2,331人。男性のほうが自死を選ぶ傾向があるようです。

日本の高齢者の自殺率は、諸外国と比べても高い傾向にあります。その動機の6割が「健康問題」。加齢とともに慢性的疾患を抱え、継続的な身体的苦痛がうつ病引き金となり、自死を選んでしまうというケースが多いと言います。また健康問題に続いて、全体の2割を占めるのが「経済・生活問題」。これもまた、うつ病を発症するケースも多いとか。収入が年金だけに限られる高齢者は、経済面でも将来を悲観的に捉える傾向にあり、自殺志向が強まると考えられます。

またうつ病は自殺危険性が高いとされているものの、高齢者の場合、「年のせい」と言われたり、認知症と勘違いされたりと、適切な治療が行われないケースが多いとされています。何を起因とするかはケースによりますが、うつ病対策が高齢者の自殺予防にもつながる、といわれています。

そもそも現役時代に必死に働き、本来であれば悠々自適に余生を送るはずの高齢者。実際の生活はどうなのでしょうか。総務省『家計調査 家計収支編』(2021年)で、65歳以上単身高齢者の家計についてみていきましょう。

【単身65歳以上の平均的像】

持家率:80.2%

家賃・地代を支払っている世帯の割合:15.7%

消費支出:13万7,210円

食料:3万6,972円

住居:1万3,310

光熱・水道:1万2,741円

家具・家事用品:5,264円

被服及び履物:3,341

保健医療:8,765

交通・通信:1万3,905円

教育:7円

教養娯楽:1万3,004

その他の消費支出:2万9,900円

出所:総務省『家計調査 家計収支編』(2021年)

※内訳はそれぞれの平均であり、すべて足しても消費支出(平均)とは一致しない

元会社員の2割強が「年金10万円以下」…これでどう生きろというのか

平均的な消費支出は13万7,210円。それに対して、年金はどれくらいもらえているのでしょうか。厚生労働省令和2年厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金受給者の平均受取額(国民年金厚生年金)は14万6,145円。厚生年金について65歳以上・男女別にみていくと、男性平均17万0,391円は、女性平均は10万9,205円。平均的な元サラリーマンであれば、毎月の収支は黒字になりそうです。

ただこれはあくまでも平均。平均以下の水準しか年金を手にしていない人は当然います。厚生年金の受取額の分布をみていくと、年金「月14万円以下」は48.0%。「月10万円以下」となると23.6%。5人に1人という水準。さらに「月5万円未満」となると、2.9%。35人に1人といった水準で、意外と多いという印象ではないでしょうか。

もちろん、どれだけのお金が必要かは人それぞれ。年金月10万円未満でも、持家であれば、余裕はないにしろ暮らしていけそうです。しかし賃貸であれば、東京なら家賃だけで半分はなくなり、毎月が赤字……そんな生活が生きている限り続くと考えると、ゾッとします。

もう7年も前になりますが、新幹線で70代の高齢男性が焼身自殺を遂げた事件がありました。逃げ遅れた女性1人が巻き添えになるという、本当に痛ましいものでしたが、このとき、男性は月12万円の年金を受け取り、都内で月4万円の家賃を払っていたそうです。そして事件前「35年も働いていたのに……これでどう生きていけというのか」と、年金額に対して不満をぶつけていたといいます。

生活困窮による痛ましい事件。その後、何かが変わったかといえば、答えはNO。むしろ年金受給額は減りつづけ、現役世帯の負担は増すばかり。自助努力を求める声は、ますます強くなっています。そんな日本に悲観しても、さらなる高齢化は避けられず、自分でどうにかするしかない、というのが答えです。

老後の備えが不十分といった場合、救いを求める手はあります。ただ、特に単身の場合は社会からの孤立し、苦境が伝わらない、支援も届かない、といった負の連鎖が起きがち。セーフティーネットは十分とはいえないにせよ整備されているので、それをいかに必要な人に届けるかが課題だといえるでしょう。

(※写真はイメージです/PIXTA)