
ついでの訪韓に“弾道ミサイル歓迎”
日本では馴染みの薄い(?)カマラ・ハリス米副大統領が、安倍晋三元首相の国葬に参列した後、9月29日に韓国を訪問した。
北朝鮮との軍事境界線沿いにある非武装地帯(DMZ)も訪れた。
ハリス氏は「北朝鮮では残忍な独裁政権、人権侵害の横行、平和と安定を脅かす違法な兵器計画が見られる」と強い表現で糾弾した。
「米国と世界は、北朝鮮がもはや脅威ではない安定した平和な朝鮮半島を追求する」と表明した。
会談後、米ホワイトハウスは、ハリス氏が「日韓関係改善の利益を強調した」と発表した。元徴用工問題など懸案の解決に向けた日韓両政府の協議進展を促した形だ。
北朝鮮は9月28、29両日、日本海に向けて短距離弾道ミサイル2発を発射、ハリス氏の訪韓に強い反発を示した。
本来ならジョー・バイデン大統領自ら国葬に参列、「日本国内の評価はどうあれ、日米同盟を戦後最高レベルまで深化させた安倍長期政権の実績を評価すべき」(米国防総省関係筋)だったとの声も聞かれる。
ハリス氏はその大統領の「名代」という重責を任され、ついでに訪韓し、まだまだ腰の据わらぬ尹錫悦大統領に発破をかけた。
久しぶりに外交の舞台で舞を舞ったわけだ。しかし、ハリス氏は副大統領だというのに2024年の大統領候補の話題にも上らず、支持率も低迷している。
その最大の原因は、中間選挙の争点の一つになっている移民問題にある。
移民問題の最高責任者を任せられたにもかかわらず、成果らしい成果はほとんどない。また失言も祟って、支持率は38.9%(不支持率50.4%)と芳しくない。
(https://projects.fivethirtyeight.com/polls/approval/kamala-harris/)
副大統領公邸前に不法移民を「お届け」
今年9月には、首都ワシントンのハリス副大統領公邸前に、中南米諸国からの不法移民約100人がテキサス州からバスで転送されて大騒ぎになった。
メキシコと国境を接し、不法移民(Undocumented Immigrant)が急増しているテキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)が、バイデン政権の移民受け入れ拡大に抗議するため送り込んだのだ。
バイデン政権の失政をビジュアルにアピールしようと春以来、考えていたアボット氏は9月15日の声明でこう言い放った。
「ハリス氏は現地を視察もせず『米国境は守られている』と言っている。だが実態はどうか。不法移民はわが州には増え続け、州の財政を逼迫させている」
「テキサス州は、バイデン政権が対策を強化するまで全米の不法移民に寛大な州や都市に不法移民を送り続ける」
この作戦はドナルド・トランプ前大統領が授けたと、リベラル系メディアはすっぱ抜いている。
トランプ氏のオリジナル・プランは「不法移民の中にいる強姦犯や殺人者を民主党支配州の都市に転送して混乱させろ」というものだったらしい。
マーサズビンヤード島には不法移民「空送」
アボット氏とは盟友のフロリダ州のロン・デサンティス知事(共和党)は、アボット氏と示し合わせたのか、前日の9月14日、移民に寛容な姿勢を見せる東部マサチューセッツ州のリゾート地、マーサズビンヤード島に飛行機で不法移民を「空送」した。
(その後も次々とバスを仕立てて不法移民を民主党支配州に転送している)
デサンティス氏は、不法移民がマーサズビンヤード島に着くや、「フロリダは移民の聖域ではない」と演説した。
マーサズビンヤード島はケネディ一家の別荘があり、民主党歴代大統領が夏を過ごすリゾート地。まさに民主党エスタブリッシュメントのシンボル的な町。
不法移民対策に寛大な民主党支持の住民に「強姦犯や殺人犯の不法移民」を送り込んで困らせてやろうという魂胆が見え見えだった。
今米国で繰り広げられている物事は、すべて中間選挙に向けた民主、共和両党のキャンペーンなのだ。
アボット、デサンティス両知事はいずれも中間選挙で再選を目指している。デサンティス氏は、知事再選後には2024年の大統領選への出馬すら狙っている。
共和党としては、世論をアッと言わせる不法移民の「転送劇」で、移民問題をクローズアップさせようというわけだ。
州知事と言って侮るなかれ。
衆議院議員(下院議員)しか首相になれない日本や英国と異なり、米歴代大統領46人中、州知事出身者はロナルド・レーガン、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュなどなんと17人もいる。
米国の州知事は、日本の都知事や県知事とは大違いなのだ。
(https://governors.rutgers.edu/wp-content/uploads/2020/07/GovernorsWhoBecamePresident_Biographies.pdf)
満身創痍のトランプ氏が2024年の大統領選に出られなくなれば、デサンティス氏は共和党大統領候補の最有力候補に躍り出る。
人気度、支持率もトランプ氏に肉薄しそうな勢いだ。
(https://www.washingtonpost.com/politics/2022/09/24/desantis-trump-2024/)
TX:173万9000人、FL:77万2000人
なぜ、不法移民は各州にとって悩みの種なのか。ちなみに、不法移民に関する次のようなデータがある。2022年現在、各州が抱える不法移民数だ。
テキサス州:173万9000人
フロリダ州:77万2000人
マサチューセッツ州:20万9000人
(https://www.migrationpolicy.org/data/unauthorized-immigrant-population/state/FL)
(https://www.migrationpolicy.org/data/unauthorized-immigrant-population/state/TX)
(https://www.migrationpolicy.org/data/unauthorized-immigrant-population/state/CA)
バイデン政権は両知事の行動に「政治的パフォーマンスであり、非人道的だ」(カリーヌ・ジャンピエール大統領報道官)と批判はしたものの今のところ打つ手なし。
ところが、行先も知らされずにバスに乗せられた不法移民の人たちは、口コミで知人も身よりもいない東部に送られると知って、途中停まった南部や中西部の町で逃げ出す人が続出。
最終地についた時にはバスは空っぽだった、という笑い話にすらなってきた。
だが、アボット氏らの不法移民転送作戦をある程度評価するジャーナリストは少なくない。
ワシントン・ポストのコラムニスト、マーク・セイセン氏はこう書いている。
「アボット氏は素晴らしいことをやってのけた。メキシコと国境を接する南部州が抱える難題に無頓着な東部リベラルに不法移民を送りつけることで、警告を発したのだ」
「トランプ氏が国境沿いに建設して不法移民が入国するのを阻もうとした時、冷ややかな対応を示していたのは東部だった」
「バイデン氏は壁の建設を中止させ、不法移民対策を緩めた。その結果、不法難民は増加した。各州は不法難民収容所の運営、医療福祉で巨額の負担を強いられている」
(https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/08/17/texas-abbott-busing-migrants-newyork/)
まさに“南北戦争”の真っ只中。だが、移民問題一つとってみても、アメリカ合衆国は「一つ」であることに変わりはない。
その最中、強力で大型のハリケーン「イアン」がデサンティス知事のフロリダ州を襲った。
最大約3.7メートルの高潮が発生、車が流されたり、家屋が損壊している。
デサンティス氏は9月29日、バイデン氏に支援を要請した。バイデン氏は同州を対象とする「大規模災害」を宣言した。
被害の出た郡に対し、連邦政府による支援に動いている。まさに「それはそれ」「これはこれ」。
バイデン氏は有権者によって選ばれた「本物の大統領」だ。レトリックや口先だけではやっていけない。
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