近年、TwitterなどのSNSでは「ホス狂い」という言葉を目にする機会が増えた。ホストに狂っている、ハマっている女性のことだが、“担当”(指名しているホスト)への愛や憎しみだけではなく、なかにはそれをアイデンティティとして“誇示”するようなアカウントまで見られる。

 風俗で働くなどしてホストに大金を貢ぐ女性は古くから存在していたが、どこか様子が変わってきている。今回は、『ホス狂い』(鉄人社)の著者である大泉りかさんに、彼女たちの実態を語ってもらった。(記事は前後編の後編)

◆ホスト業界は史上最高に過熱

——ドラマ化もされた漫画『明日、私は誰かのカノジョ』でもホス狂いの描写が話題になりました。いま、ホスト業界は盛況なんですね。

大泉:史上最高に過熱していて、ホストたちの売上も底上げされているらしく、昔は“1億プレイヤー”って歌舞伎町に十数人でしたが、現在は100人以上、“5億円プレイヤー”までいます。特にコロナ禍は、一時は街を歩いているのは若い女の子とホストだらけでした。

——前回の記事では「ホス狂いは(大金を稼げるような)“選ばれし者”しかなれない」とのことでしたが、そもそも彼女たちが風俗で働き始めたきっかけは、どういったものでしょうか。

大泉:取材をしたなかでは、道端でキャッチされたり友達に「一緒に働かない?」と誘われて、なんとなく働くようになった子が多い印象です。最初にインタビューした子は、ホスト遊びにハマって風俗で働き始めたそうですが、ゆるいパパ活は高校生からやっていたとか。

◆ホス狂いは、律儀な子ばかりだった

——彼女たちは家庭環境が特殊だったり、経済状況が悪かったりするのでしょうか。

大泉:一般的な家庭で育った子が多かったです。ただ、学費や奨学金返済のために、風俗で働き始めるパターンはありました。むしろ裕福な家庭なのに学費を出してもらえていない子もいて。学費を稼いだ後も風俗で働き続け、いつしかそのお金がホストに流れるようです。

——大泉さんとしては、ホス狂いの子たちってどんな印象でしたか?

大泉:意外と邪気がないというか。スレていないし、律儀な子ばかりでした。時間も守るし、ドタキャンもしないし、だからこそ、ホス狂いも続けられるんだろうなと思いました。

 根掘り葉掘り話を聞かれるのもあまり抵抗がないみたいで。担当と店がバレることに対してはナイーブでしたが、原稿チェックもこっちが不安になるぐらいゆるかったです。

◆「歌舞伎町ベテランホストは、みんな1回は刺されたことがある」

——ホス狂い同士のマウント合戦って実際あるんですか?

大泉:めちゃめちゃあります。ホス狂いは漏れなく、“被り”という担当が同じ女の子のことが大嫌いで、よく揉めていますね。ただ、そこも含めてホス狂いの遊びなのかもしれませんが……。初回は別ですが、担当のいるホストクラブに行く場合、自分が好きなときにフラリと行けるわけじゃないんです。連絡してから行くのが基本だし、ホストが客を“シフト調整”することもあって、勝手に行くと怒られたりもする。

 ホストが被り同士を競わせるために、あえてダブルブッキングする場合もあるといいます。ホストクラブはキャバクラのように支配人が席を采配しないので、ホストは好きな席に好きな時間だけつきます。そこでもいろんな駆け引きがあって。

——もしも自分が大金を払ったホストに放置されたら辛いですよね。

大泉:ホス狂いって、担当ともしょっちゅう喧嘩していて、卓で泣くとか当たり前だし、なんと言うか……すごく激しいです(笑)

——本書に書かれていた「歌舞伎町ベテランホストは、みんな1回は刺されたことがある」ってホストの言葉も印象的でした。

大泉:彼女たちは本当に頑張って働いていて。風俗の待機中が唯一の睡眠時間という子もいます。そのため、ホストから連絡が返ってこないのはありえないという感じで、うっかり寝ていると激怒します。「こっちは働いてんのに、オメェ寝てんのか?」って。

——今のホストはSNSや連絡ツールの発達で、昔とは違った大変さがあるのかもしれませんね。

大泉:30年間ホストクラブに通っている女性いわく「今のホス狂いの遊び方は汚い。昔は電話ぐらいはしても四六時中のやりとりはなかったし、店を出たらほぼ関係なかった」そうです。

◆いつか叶えたい「担当との結婚」

——オンとオフの切り替えができない生活ですね。

大泉:一途だった子にいきなりブロックされたり、あっさり別の店に鞍替えされたり、女性不信に陥るホストもいます。ただ、そこはお互い様で。裏切られるのが当たり前だし、裏切ってもいいお金の関係がホストなんですけどね。

 実際、今回の取材を開始してから本にまとめるまでに1年ぐらいかかっているのですが、インタビューしてから時間が空いてしまって。彼女たちに原稿チェックを送った頃には、ほぼ全員、担当が変わっていました。あんなに「彼のために」とか言って貢いでいたのに、「そんな時期もありましたね〜懐かしい!」みたいな。

——彼女たちが、ホス狂いを引退することはあるのでしょうか。

大泉コロナ禍で風俗のシフトが減って全然稼げなくなってホストクラブにも行かなくなったという人は結構いたみたいです。ホス狂いは100万円で豪快に遊ぶから楽しいわけで、スケールダウンして10万円を握り締めてホストクラブに行っても楽しくないと言います。

——前回の話では、わりとホス狂いの子は担当と肉体関係は済ませていると思うのですが、その先には何を目指しているんですか?

大泉:やっぱり、結婚は意識していますね。一緒に並走して頑張って、いつか担当がホストを辞めるときに結婚したいと。まあまあ実際に担当と結婚するパターンもあるので。

◆ホス狂いは「青春」

——ホストクラブで非日常を楽しんでいるはずなので、そういう現実的な社会制度とか結婚生活には興味がないと思っていました。

大泉:逆にいつか結婚して落ち着く意識があるからこそ、「今」はハメを外せるし、無理もするのかもしれません。ホストもホス狂いも、たいていは20代の数年間で引退する。それでも、まだまだ転職できる年齢ですから。

 だれにでも若かりし頃に「青春」がある。それは一過性のもので、ひとつの私の結論としては、ホス狂いもそうなんだと思います。確かにホストクラブの「お金を遣わせる」システムはエグいし、周辺からは規制すべきという声もあがっていて、もちろんそこに議論も必要だと思います。けれど、わたしはホス狂いの女の子たちの、生きる力の強さを信じてもいます。

<取材・文/伊藤綾、撮影/藤井厚年>

【伊藤綾】
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュースマイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。Twitter@tsuitachiii

新宿の歌舞伎町