自分でも意識することのできない心の奥底、すなわち「無意識」を探っていくと、過去のつらい記憶や体験から抑え込んでしまっていた自分の本来の感情が見えてきます。多くの人が経験する感情の奥には、どのような真実が隠されていたのでしょうか。精神科医・庄司剛氏が解説します。※本稿で紹介するケースは、個人が特定されないように大幅に変更したり、何人かのエピソードを組み合わせたりしています。

CASE:依存の問題を抱える男性にばかり惹かれる

■大嫌いな「飲酒や依存の問題がある男性」にばかり引っかかってしまう

Xさん(仮名)は本当は嫌いなタイプなはずなのに、いつも同じような男性に惹かれてしまうということで相談に訪れました。今度はまったく別なタイプだと思って交際するのですが、決まって魔法が解けたように相手に嫌気がさして別れ、自己嫌悪に陥るだけでなく、そんな自分が情けなく腹が立っていました。

その原因が父親にあるとXさん自身は思っていました。彼女の父親はアルコール使用障害のある人のようで、お酒を飲んでは暴れました。母親とXさんは幾度となく暴力を振るわれてアザをつくって学校に行ったこともあるそうです。また、外で飲むとトラブルを起こして警察に連れて行かれたこともありました。ですからXさんは父親を憎んでおり、基本的に酒飲みの男性全般を嫌っているといいます。

それなのにいつも好きになる男性は、なぜかいつも飲酒や依存の問題を抱えていました。交際の初期には男性は決まって優しく、気が利いて我慢強く、Xさんのことをいつも優先して考えてくれました。しかし関係が深まると決まってお酒や依存を巡ったトラブルが発生するのです。

最初はまあ一回だけのことだろうとか、なにかひどいストレスがあって飲み過ぎてしまったのだと思うのですが、結局はそれが繰り返され、大きなトラブルにつながるのでした。Xさんが父親との関係から飲酒を嫌がるということは分かっているため、隠れて飲酒をしていたり、あるいはギャンブルで借金が膨らんでいたりとどうしても依存と縁が切れない男性との関係が繰り返されるのでした。

歴代彼氏がことごとく飲酒や依存に陥っていった真相

■交際相手たちに、無意識に「理想化された人間像」を求めていたXさん

Xさんは父親のことを憎んでいるのに、なぜこのようなことが繰り返されるのか分からなかったのですが、これには理由がありました。Xさんの父親はお酒を飲んでいないときはとても誠実で真面目な人でした。そして休日には遊園地や動物園に連れて行ってくれたり、毎月給料日にはお土産を買ってきてくれたりして大好きだったそうです。そう語るときの彼女の顔は穏やかで、心の底では父親が好きで憎み切れない様子がうかがえました。

このようにXさんは飲んでいないときの父親をどこかでとても尊敬し、憧れているところがありました。しかしその父親の姿はいってみれば「過度に」真面目で、自分を殺して無理をしているところがあり、それがアルコールへの依存につながっていたのかもしれません。つまりXさんが男性に求めるのは理想化された人間像だったのです。そうすると、付き合う男性たちもXさんの期待に応えようと必死に無理をし、なにかに依存せずにいられなくなったのではないかと考えられます。Xさんと相手の男性との相互作用によってその関係性がつくられていったのだともいえます。

Xさんがこういった問題を乗り越えるには、いつも真面目で優しく非の打ちどころのない相手ではなく、我慢できないような欠点もあるけれども、等身大で無理のない、それなりに良いところもある相手を受け入れることができるようにならなければならなかったのです。しかしそれはXさんの小さい頃から夢見ていた理想的なカップル像を諦めることを意味し、容易なことではありませんでした。

庄司剛

北参道こころの診療所 院長

(※写真はイメージです/PIXTA)