回転寿司業界の競争は激しい。値段、サービス、立地に質…競合他社を出し抜こうと各社がしのぎを削る中、「かっぱ寿司」は一線を超えてしまった。

 警視庁生活経済課は9月30日かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトの田辺公己社長(46)を不正競争防止法違反(営業秘密領得など)の疑いで逮捕した。田辺容疑者は、「はま寿司」の取締役などを務めた後、2020年かっぱ寿司に転籍。引き抜きのわずか3カ月後には代表取締役に就任している。上場会社のトップが逮捕された背景を大手紙社会部記者が解説する。

パスワードまで設定されていた機密情報を持ち出し

「田辺容疑者は、はま寿司を辞める直前に、同社の食材の使用量や商品原価、食材の仕入れ先や価格といった営業秘密を持ち出しています。転職したばかりの2020年11月9日ごろにそのデータを共犯者でカッパ社の商品企画部長、大友英昭容疑者(42)と共有。設定されていたパスワードは、はま寿司時代の部下だった湯浅宜孝容疑者(43)から聞き出しています」

 外様が異例の大出世をとげた原動力は、不正に入手したライバル会社の営業秘密にあった――事実であれば、まるでスパイ小説を地で行く筋書きだ。

「持ち出された情報は社内でもアクセスできる人間が限られており、はま寿司の調査で漏洩・流出の経路が判明しています。はま寿司は田辺容疑者らを刑事告訴し、警視庁2021年6月に関係先を家宅捜索していました。はま寿司の食材の仕入れや原価についての情報を得たかっぱ寿司は、従来の自分たちの仕入れなどと比較していたといいます。不正は企業ぐるみだった可能性もあり、警視庁は法人のカッパ・クリエイトも送検しました」(前出・大手紙社会部記者)

 2021年回転寿司業界の数字を見てみよう。売上高1位・スシロー、2位・くら寿司、3位・はま寿司はいずれも1000億円を超えているが、続く4位のかっぱ寿司は約648億円と水をあけられている。しかも近年のかっぱ寿司は、業界大手一人負けとも言える大幅な赤字が続いていた。外食業界担当の大手紙経済部記者が解説する。

回転寿司戦争の真っただ中で

「業界1位、2位のスシローくら寿司は、都心の雑居ビルなどに店舗をオープンさせ、集客数に力を入れています。現在の物価高と円安で仕入れ値が高くなるなどすれば、1皿100円という回転寿司の売りを捨て値上げに踏み切ることも厭いません。一方、3位と4位のはま寿司かっぱ寿司は郊外型の店舗が多く、車で来店するような家族がメインターゲット。そのため、とにかく安いことを強調せざるをえない。原価率が50%とも言われる薄利の回転寿司で安さにこだわり続けるのは、相当な企業努力が必要となる茨の道です」

 かっぱ寿司はま寿司はひたすら安さにこだわる経営方針が似ている。どれだけ安価に仕入れられるか、どこまでひと皿の値段を抑えられるか、ライバル会社の営業秘密を喉から手が出るほど欲しがったのも理解できなくはない。だが、かっぱ寿司2000年代前半には、業界1位だったこともある。近年の凋落ぶりの原因はなんなのか。

 前出の業界担当記者は「回転寿司ブームが起こり、業界の競争が過熱していく過程で、かっぱ寿司は買収などで混乱した時期もありました」と話す。

かっぱ寿司の一人負け?

「『まわらない高級店』と比較すれば、おいしくない、と言われるのは回転寿司の宿命ですが、そのあおりを最も受けているのが、安さにこだわるかっぱ寿司ともいえます。品質向上のためにコストをかけると、値上げせざるをえなくなり、他店との差異化ができないという板挟み状態。窮地を脱するため類似するはま寿司の営業秘密に手を出してしまったのかもしれません」

 また、転職先で元の職場の営業秘密を漏らすと逮捕までされる可能性があることは、世のビジネスマンに衝撃を与えた。昨年には元ソフトバンク社員が転職先の楽天モバイルに技術情報を不正に持ち出したとして警視庁に逮捕されたケースもあった。転職はいまや働く人々にとって当たり前。そもそも転職先は前職の経験を評価した上で採用していることも多い。不正競争防止法に違反する基準はなんなのだろうか。

転職時に留意すべきこと

「営業秘密とは、簡単に言うと①公になっていない②社内で厳重に管理されている③有用な情報であるなどの条件を満たす必要があります。今回、はま寿司から持ち出された情報は、顧客にネタを安く提供するための最重要ともいえるデータで決して公にはされずに、社内でも限られた人間しかアクセスできないものでした」(警視庁関係者)

 社長が逮捕された翌日10月1日土曜日だった。さいたま市の郊外にあるかっぱ寿司を昼時にのぞくと、店内は家族連れを中心に賑わっていた。近くに住む30代の男性は「息子が好きだから来た。安いだけでまずいという評判はありますが、実際はおいしく食べられるネタもありますよ。はま寿司はショッピングモールに入っていて、何か他の用事があればそっちに行きます。どっちの方がおいしいとかそういうのは特にないかな…」と語った。

 顧客に選んでもらうための血で血を洗う仁義なき戦いは、まだ続くのかもしれない。
 

(「文春オンライン」特集班)

かっぱ寿司を運営する「カッパ・クリエイト」の入居する横浜ランドマークタワー Ⓒ時事通信