さまざまなドラマ、人間模様が交錯して生み出されたのが、オリックスバファローズの「世紀の逆転優勝劇」だった。

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 首位ソフトバンク 76勝64敗2分け
 2位オリックス  75勝65敗2分け
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 10月2日の最終戦前、ソフトバンク優勝マジックナンバー1が点灯していた。ともに今季最終戦を迎えるが、オリックスが逆転するには「勝利」が必須。ソフトバンク引き分け以上で逃げ切れる。この状況から「オリックス劣勢」が予想されていたが、オリックスが勝ち、ソフトバンクが負けて勝率で並んだ場合、両チームの直接対決による勝敗結果で順位が決まる。パで唯一、負け越したチームがオリックスだった。

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 「1日の埼玉西武戦で、ソフトバンクサヨナラ負けを喫しています。延長戦に突入し、代打攻勢でキャッチャーが若い海野隆司に代わりました。西武・山川穂高フォークボールを待っていたのを見抜けなかったんです」(プロ野球解説者)

 敗戦のダメージだろう。最終決戦前、重苦しい空気も漂っていた。

 そんなソフトバンクに追い打ちを掛けたのが、対戦相手である千葉ロッテの“異変”。突如、井口資仁監督が辞意を表明した。

 「球団から続投要請も出ていたんですが。退任は選手も本当に知らなかったみたい。『最後は勝利で』と、ロッテは必死でした」(スポーツ紙記者)

 楽天生命パーク宮城オリックスが勝利する。その直後、球場バックスクリーンに「ロッテソフトバンク」の試合映像が映し出された。9回、ソフトバンクの最後の攻撃は2アウト、瞬く間にゲームセットとなり、オリックスの2年連続優勝が決まった。

 「本当に感無量と言いますか、こんなことが起こるのか、と。信じられない気持ちです」

 敵地・楽天生命パークだったから、中嶋聡監督は静かな口調で語った。

 チーム関係者の一人が“仙台での胴上げ”となったことについて、こんな秘話を教えてくれた。

 「7月16日の仙台遠征中でした。能見篤史が選手全員をブルペンに集め、怒ったんです。『このままじゃ勝てない。何とかしようという去年みたいな気持ちが見えない』って。信頼するベテランの言葉だから、みんなに響いたんです」

 能見は今季限りでの引退を表明している。

 ベテランが気合を入れた球場で優勝が決まったのも、不思議な巡り合わせである。さらに付け加えるとすれば、10月2日の楽天の先発投手田中将大。能見が怒った7月16日も「対田中」で、敗戦を喫している。田中と再び対峙したことで“能見の言葉”を思い出したのかもしれない。

 「中嶋監督は先発投手と相手チームの相性を優先するタイプです。最終戦の先発マウンドを任された田嶋大樹は、今季楽天戦で5勝無敗。緊張することはなかったと思います」(前出・チーム関係者)

 また、対戦チームの報告書よりも自軍選手の体調や好不調を把握しようとするタイプでもある。焼酎の炭酸割りを片手に一人で考え込んでいたそうだが、それは「敗戦の責任は監督にあって、選手は関係ない」と思っているからだ。実直な指揮官が手繰り寄せた優勝劇である。(スポーツライター・飯山満)

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