北海道旭川市であった日弁連の人権擁護大会に合わせて9月29日、「デジタル社会の光と陰」と題したシンポジウムが開かれた。会場で約500人、ウェブ視聴で130人が参加した。

欧州に比べ、多くの国民が無自覚にGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの米IT企業を総称する造語)など民間企業による個人情報の利用を許している現状への懸念が相次ぎ、プライバシー権をどう守っていくか検討すべきとの認識を改めて共有した。

●民主主義の危機に対抗するには「粘り強く考えるべき」

国際ジャーナリスト堤未果さんがオンライン講演した。堤氏は2001年の米国同時多発テロや、2020年の新型コロナ感染症の蔓延という緊急事態には、民主主義があるべき姿を侵食されると説明した。個人情報を把握されることにも平時なら懸念も持ち上がるが、「不安に支配されると容認してしまう」とした。

カナダでは、コロナ対策の規制に反発するデモが起きた際、参加者の口座を凍結する命令を発動するとトルドー首相が表明し、物議を醸した。堤氏は「公衆衛生は大事だが、市民が立ち上がるべきときに立ち上がらないと、なし崩しになる」と説明、危険性を指摘した。

一方で、エストニアや台湾などプライバシー権とのバランスを重視した政策を取っている国を「デジタル民主主義」と紹介した。

対談した台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏が、マスク購入を巡り、スマホを持っていない高齢者向けにも別の施策を講じていたことを説明し「隅々まで等しくデジタル化しなきゃいけないわけではなく、選択肢を出すことが大事」とし、粘り強く考えることを求めた。

個人情報保護委員会のあり方に疑問相次ぐ

学者や議員によるパネルディスカッションでは、海外と比較した日本のデジタル政策について検討した。たびたび取り上げられたのは、2018年に明るみに出たケンブリッジアナリティカ(CA)問題だった。

選挙コンサルティング会社CAが、フェイスブック(FB)から学術目的に収集した個人の情報を流用し、2016年の英国のEU離脱や、トランプ氏が勝利した米大統領選に影響を与えたとされている。

どんな話題に「いいね!」を押したかやタグづけした写真など、ネット上の行動履歴から心理分析し、有権者の政治的志向を推知していたことが分かった。中央大の宮下紘教授は「プライバシーだけではなく民主主義の問題」と警鐘を鳴らした。

また、日本の個人情報保護委員会のあり方などについても意見が上がった。

読売新聞の若江雅子編集委員が、2021年に同紙が報じたJR東日本の防犯システムについて説明。過去に駅構内などで重大犯罪を犯し、服役した人(出所者や仮出所者)を防犯カメラ映像の顔認証で検知する仕組みを導入しており、「個人情報保護委員会の利活用班もそれを容認していた」ことを明らかにした。

これに関連し、宮下教授は「委員会が法律をどう解釈し、どんなプロセスで認めたか情報が乏しい」と指摘。また、官報に掲載された破産者情報をGoogleマップに落とし込む「破産者マップ」についても言及し、委員会の対応に一貫性がなく説明が不十分だとも話した。

2氏に加え、慶応大院の山本龍彦教授、前デジタル大臣政務官の山田太郎参議院議員が意見を交わした。

GAFAなどに無自覚に個人情報の利用を許している現状に警鐘 日弁連シンポ